忘れたくても忘れられない
ずっと…そう思ってきた
湿った空気が躰に纏わりつく度に
貴女の長い髪が僕の頬にかかって
重ね合う唇が僕の心を揺らした
あの夜を思い出させる
あれから…随分と
時は流れたというのに
まるで昨日のことのように
貴女の温もりが蘇る度に
僕は眠ることができない
忘れたくても忘れられない
ずっと…そう思ってきた
けれどそれは違っていた
忘れられないのではなく
忘れたくないのだと
貴女がどこかで生きている限り
またこの手であの温もりを
確かめるまで…僕は貴女を
忘れたくないんだ
最初から決まっていた運命
君と僕が結ばれないということ
誰が決めたわけでも
誰もわからないはずなのに
君と出逢ってすぐに
結ばれないことを悟った
注意深くそっと触れる唇も
確かめ合うように握り合う指先も
互いの瞳の色を覗き込む仕草も
すべて最初から決まっていた
君と僕は結ばれてはいけないことを
許されない恋だと…
そう気付いた時には
もう後戻りが出来ないくらいに
僕は…君を愛していたんだ
多分…最初から決まっていた
僕が君を愛してしまうことを
結ばれてはいけない運命でも
この愛の行方は…誰も知らない
明日、もし晴れたら
あの海へ行こう
空色のソーダに浮かぶ
真っ赤なチェリーを
いつまでも眺めていた
君の横顔が忘れられない
あの海で君と出逢ったことを
僕は運命だと思い込んだ
だから…僕の手を離すなんて
思ってもいなかった
明日、もし晴れたら
あの海へ行こう
君ともう一度
会えるような…そんな気がするんだ
ずっと…思い出せないのだと
そう思っていた遠い日の記憶
思い出せないのではなく
思い出したくないのだと
わかってしまったあの日から
僕の中で…君が段々と
消えていった理由がわかったんだ
あの日…君の瞳に僕が写っていなかった
そして…君の心に僕が見当たらなかった
だから…僕は君の温もりに触れることが
できなくなってしまったんだ
僕はそれがすべての答えなのだと
気が付かない振りをして…
こうして大人になってしまった
遠い日の記憶を辿ってみたら
君がうっすらと微笑んでいるような
そんな気がしたんだ
窓越しに見えるのは
あの日…貴女と歩いた坂道
茜色の夕陽が貴女の真っ白な肌を
紅く染めていたことを思い出す
高鳴る僕の鼓動が貴女に
聞こえてしまわないように
注意深く貴女から離れた
なぜ…あの日あの時に
貴女の手を取りこの坂道を
走り出さなかったのか
今でも…その理由が見つからず
いつもこうして窓越しから
この坂道を見る
ただ…違うことは坂道の途中に
もう貴女がいないということ