瀬良

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6/2/2025, 11:56:02 AM

梅雨と呼ぶに相応しい大雨の日。僕はいつものように君と帰路に着く。
雨は嫌いだ。ジメジメしていて空気は悪いし、靴は濡れる。それに、君との距離が傘ふたつ分遠くなる。悪いこと尽くしだ。

「ねぇ、ちょっとこっちの傘に入ってみてくれない?」

そんな僕をよそ目に君は、傘をいつもより高く掲げながら君は声を張る。
…目が輝いている。こういう時は、何か思いついたことを実践したい時だ。

君の傘に入ると、いつも以上に近くなった距離に思わず体を固くしてしまう。

「…それで、今日はどんなことを思いついたの?」

緊張を悟られないように、できるだけ平常心を装い尋ねる。
嗚呼。雨が降っていなかったら、いつもより速い僕の心音は君に届いてたかもしれない。

「知ってる?人の声が1番美しく聴こえるのって、雨の日の傘の中なんだって。」

雨粒が傘を弾く音と共に君の澄んだ声が聴こえる。
雨なんて関係ないとでも言うように顔を輝かせながら君は言葉を続ける。

「まぁ、実際声が美化される訳じゃないから、いつもと大して変わんないよね。」

そう言って照れたように笑う君の声が、世界で1番愛おしく感じたこと。君のおかげで嫌いで憂鬱だった雨の季節が少しだけ好ましく思えたことは、もう少しだけ秘密にしておこう。

5/31/2025, 1:21:38 PM

「勝ち負けなんて関係ない」

その言葉は勝者だからこそ言えるんだ。
君は天才だから。負けたことを知らないから、そんなことか言えるんだろ?
負けた人間がその言葉でどれだけ惨めになるのか知らないくせに。

目の前が真っ暗になるあの感覚が。今までの努力が全て無に帰す感覚が。君との間の壁の高さを痛感する感覚が。
きっと君は一生知ることはないだろうね。

僕は、秀才にもなりきれないような凡人かもしれないけど。
僕は、君に勝ちたいんだ。
そして、いつか僕が初めて勝った日、君に言ってやるんだ。
「ああ、やっと追いついた。君に負け続けた日々があったからこそ、僕はここまで頑張れた。」

だからさ、僕の負けを価値のないものにしないでくれよ。

10/21/2024, 5:26:21 AM

始まりはいつも君だった。
出会った時も、初めて一緒に遊ぶ時も、今の関係になる時も。全部、君が声をかけてくれたのは君からだった。
今の関係になってからも、君はいつも僕の手を引いてくれてたね。僕は、君の優しさに甘えてしまったね。たくさん無理をさせてしまったし、いろんな気持ちを抱えさせてしまったんだ。
僕に隠していた君の涙を見つけた時の気持ちは、今だって忘れられてない。

そうやって、僕はいつも君を無理をさせていたんだろうか?

君の涙を見つけてからも僕はすぐには頼れる人間にはなれなかった。それでも、君は僕の隣で笑ってくれていたんだ。

だから、最後だけでも…君との関係に終わりを告げる役目だけは、僕がやらなくちゃいけないね。
今度こそ君と対等な存在になれるように。
こんな不甲斐ない僕でも。君との新たな始まりを告げたいんだ。

「僕と家族になってください。」

9/16/2024, 4:02:27 PM

空知らぬ雨とはよく言ったものだな。
きみの空のような碧から大粒の涙がこぼれた時に、ふとそんなことを思った。その雨を止める術を持ち合わせていなければ、雨を凌ぐ傘も持っていない僕は困り果ててしまった。
別に、きみにそんな顔をして欲しかった訳じゃない。それなのに、僕の言葉は存外君の顔を曇らせてしまうらしい。
ただ、僕はきみに笑って欲しいだけなのに。たったそれだけなのに。どうにか上手くいかないんだ。嗚呼。恋とはなんて難儀なものなんだろうか。

きみの望むものならなんでも差し出すから。どうか、どうか雨よ早く止んでおくれ。そして太陽のような眩しい笑顔を見せてくれないだろうか。

9/12/2024, 3:37:42 PM

「もう終わりにしたい。」
貴方にそう言われた時、何かが崩れる音を確かに聞いた。私という存在が不安定になるのを感じた。
でも、そんなこと貴方に悟られたくない。だから私は眉を下げて、笑いながら「わかった。」この一言だけ伝えた。
本当は泣きわめいて縋りつきたい。「終わりだなんて言わないで」って言って貴方を困らせたい。
でも、そうしないのはこれが本気の恋だったから。

貴方には綺麗な私を見ていて欲しいから。
その代わり、何年か先の未来で「そういえばこんな恋人が昔いたな」って。「いい女だったな」って。少しだけ私のこと、思い出してね。

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