梅雨と呼ぶに相応しい大雨の日。僕はいつものように君と帰路に着く。
雨は嫌いだ。ジメジメしていて空気は悪いし、靴は濡れる。それに、君との距離が傘ふたつ分遠くなる。悪いこと尽くしだ。
「ねぇ、ちょっとこっちの傘に入ってみてくれない?」
そんな僕をよそ目に君は、傘をいつもより高く掲げながら君は声を張る。
…目が輝いている。こういう時は、何か思いついたことを実践したい時だ。
君の傘に入ると、いつも以上に近くなった距離に思わず体を固くしてしまう。
「…それで、今日はどんなことを思いついたの?」
緊張を悟られないように、できるだけ平常心を装い尋ねる。
嗚呼。雨が降っていなかったら、いつもより速い僕の心音は君に届いてたかもしれない。
「知ってる?人の声が1番美しく聴こえるのって、雨の日の傘の中なんだって。」
雨粒が傘を弾く音と共に君の澄んだ声が聴こえる。
雨なんて関係ないとでも言うように顔を輝かせながら君は言葉を続ける。
「まぁ、実際声が美化される訳じゃないから、いつもと大して変わんないよね。」
そう言って照れたように笑う君の声が、世界で1番愛おしく感じたこと。君のおかげで嫌いで憂鬱だった雨の季節が少しだけ好ましく思えたことは、もう少しだけ秘密にしておこう。
6/2/2025, 11:56:02 AM