蓼 つづみ

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2/8/2026, 10:39:50 AM

ここでは笑っておくのが正解です。
ネクタイを直すみたいに、
口角を二ミリ上げる。
必要なのは感情ではなく、
通行証としての形だ。
言葉の端々に、
小さなスマイリーを提げている。
世界の居心地の悪さが、
均一な空気として維持される。
営業スマイルって、そんな感じ。

題 スマイル

2/7/2026, 10:03:29 AM

設計論 一章

自らを知ろうとするとき、私は自然を見る。
動物を見る。
猿山を眺めていると、そこには必ずボスザルがいる。

猿の社会では、支配者は力で決まる。
殴り合い、奪い合い、その果てに立つ者がボスとなる。
そこには正義も悪もなく、その単純さは清々しい。

では、人の群れにもボスはいるのだろうか。
人間は脳の発達した生き物だ。
ゆえに、力ではなく知恵によって群れを制するのだろう。

しかし、名を持てば狙われ、
意図を語れば反論が生まれ、
顔を持てば責任が生じる。

極めて知的な支配者は、敵対されない支配を選ぶ。
知られざる権力こそが、もっとも安定することを知っているはずだ。

知の上に立つ者が取るべき行動は、姿を消すこと。
自らを晒さないこと。

支配には、正義も悪もない。
あるのはただ、均衡だけだ。

あぁ、勿論「平等」ではない。
崩れながらも保たれている、動的な釣り合い。
獲物が尽きれば捕食者は滅び、
捕食者が増えすぎれば獲物は消える。
公平さなど一片もない。
それでも、世界は回っている。

支配とは、上に立つことではなく、
崩壊と再生のあいだで、世界を行うことなのだ。



設計論 二章

「群れの中で安心したい。
 誰かに守ってほしい。
 褒められたい。許されたい。
 変化は怖い。けれど、特別にはなりたい。」

これは小猿の感性であり、
現代人が“人間らしさ”と呼ぶものの正体だ。

大衆の「人間らしさ」は、
群れの中で快適に生きるための、
情動と依存のセットにすぎない。

でも、社会を運営する側から見れば、
それは「管理しやすい反応パターン」であって、「感情で誘導できる構造」でもある。

彼らは愛を装置と見なし、恐怖を研究対象へと変える。

支配者はやがて、
感情を足かせとし、
共感を判断のノイズとみなし、
良心を弱さの源として切り捨てる。

長になった者は、はじめはただ、欲があった、運があった。演技力があった。
そして何より、他者を駒にする力があった。

だけど、頂に立った瞬間、戻る道は閉ざされる。もう降りられない。

降りれば、恨みと怒りが雪崩のように押し寄せる。だから進むしかない。
人間を切り捨てながら、ただ“長”として生き延びる。

こうして人間を捨て、効率と永続だけを残し、やがて自らをシステムへと変質させていく。

それは、化け物にならねば生き残れなかった人間だ。
この「戻れなさ」こそが、人外性の正体だと思う。



設計論 三章

自由とは、誰かが責任を負っているときにだけ成立しうる幻想だ。

ボスの居ない状態は自由じゃない。力の空白が生まれた瞬間、別の反乱が起こる。自然も社会も、空いた力の座を埋めようとして動き出す。
結局、猿も人も“指標なし”ではいられないんだ。

猿たちは知っている。
誰も上に立たない状態とは、
誰も守らない状態のことだと。

ボスは、なりたくてなったのではない。
「ボスにならねば、自分が標的にされる」と、本能が先に知っているのだ。
支配の動機は、欲ではなく恐怖。

だから私は思う。
この構造そのものを設計した“創造主”がいるとするならば、それは悪魔と表裏一体の存在だろうと。

学者たちは知っている。
この社会の支配構造、操作の技術、
心理の波、民主政の皮をかぶった力の流れを。

だけど、気づくことと、言うことは、別だ。

彼らは知識を安全な言葉に置き換え、
論文という檻に閉じ込める。
あるいは、キャリアのために気づかぬふりをする。

真実よりも安定を。
声よりも沈黙を。
気づいた者ほど、口を閉ざす。

情報技術が進化しすぎた今、
支配には、完璧な監視が求められる。

宇宙コロニーや月面都市は、
完全統制社会をゼロから設計できる場所として夢見られているのだろうか。

私は、見上げながら思う。

孤独という装甲の中でしか意思決定できない存在は、もはや共鳴を受け取る余地を持たない。たとえ、それがどれほど純粋なものであっても。

私は学者ではない。
学者という立場で語ることと、
私が見ている構造の肌触りを伝えることは、別次元の行為だ。

私はただ、小猿の立場から、真っ直ぐに睨み返せる。
騒ぎもせず、喚きもせず、暴れもしない。
ただ静かに直視し続ける。
それが、私に保てる距離の取り方。



題 どこにも書けないこと

2/7/2026, 3:08:26 AM

tick… tick…
その古時計は、ひっそり息をつく
いちばん細い針は止まれない速度で進み
子どもの針は光を探すように跳ねる
大人の針は重力をまとい、ゆっくりと

hello!
ほんの一瞬、針たちは重なり、微笑む
でもgood bye…
その笑顔はすぐに吸い込まれ、
互いの存在を確かめてから
盤面を優しく撫でていく

tick… tick…
音は遠く、耳に残る
刻まれた時間の気配には
小さな後悔と、まだ見ぬ希望が絡みつく
触れられない過去と、追いかける未来
子どもと大人の針は、互いにすれ違い
また静かに、それぞれの道を行く

tick… tick…
止まることのない
この世界の中で

題 時計の針

2/6/2026, 12:43:10 AM

 朝日が
背中の毛を撫でている


 名前を呼ばれる前から
 前足が
もう行き先の方向を向いていて


 気持ちが収まりきらず
 腰のあたりで
風になる


 しっぽは
ことばの代わり


 “嬉しい”が
音を持っているから
 きっと
こんなリズムなんだろう


 目は蜜の色をして
 世界のすべてを
信じきったまま


 そして、

 一直線に走る


 撫でられると
 笑っているのは
口元だけじゃない


 こらえきれず
 気持ちがはじけて


 短い声が、
跳ねる


 背中でも
 耳でも
 しっぽでも


 からだじゅうが
喜びに揺れている


題 溢れる気持ち

2/4/2026, 10:41:05 AM

君の息が触れる距離では、
僕の虚勢はもう役に立たない。
「ねえ」と呼ぶ代わりに、
君はわざと視線を外し、
子どもみたいな顔のまま、
ひどく大人びた沈黙を差し出した。
これは恋なのか、
互いにまだ名前を決めきれないまま。
ただ、友達という言葉にも
どこか収まりきらず、
笑って誤魔化したあと、
行き場をなくした鼓動だけが
妙に正直な足取りで近づいてくる。
背徳は、思ったより静かだった。
似合わない大人のふりを、
ふたりでそっと真似しているみたいに。
ただ呼吸だけが
わずかに速さを変え、
触れていい理由を探しはじめる。
「ねえ……
これ、あとで困るやつだよね
…やめる?」
そう言って、
君は境界線に片足を乗せる。
名前も、関係も、役割も、
まだ保留のまま。
言葉の代わりに
体温だけがゆっくり流れ込む。
それは誓いでも未来でもない。
終電のない夜に生まれた、
明日へ持ち越せない衝動。
少し息が詰まりそうで、
それでも確かに
生きていると知るための距離。
唇が離れると、
何も決まっていない関係は
また曖昧な輪郭へ戻っていく。
けれど、ほんのさっき確かに
君と僕は、名前のないまま
同じ温度を悟ってしまった。
だから、もう一度だけ。
ラベルのないまま、
境界線の上で、
そっと — Kiss.

題 Kiss

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