君の息が触れる距離では、
僕の虚勢はもう役に立たない。
「ねえ」と呼ぶ代わりに、
君はわざと視線を外し、
子どもみたいな顔のまま、
ひどく大人びた沈黙を差し出した。
これは恋なのか、
互いにまだ名前を決めきれないまま。
ただ、友達という言葉にも
どこか収まりきらず、
笑って誤魔化したあと、
行き場をなくした鼓動だけが
妙に正直な足取りで近づいてくる。
背徳は、思ったより静かだった。
似合わない大人のふりを、
ふたりでそっと真似しているみたいに。
ただ呼吸だけが
わずかに速さを変え、
触れていい理由を探しはじめる。
「ねえ……
これ、あとで困るやつだよね
…やめる?」
そう言って、
君は境界線に片足を乗せる。
名前も、関係も、役割も、
まだ保留のまま。
言葉の代わりに
体温だけがゆっくり流れ込む。
それは誓いでも未来でもない。
終電のない夜に生まれた、
明日へ持ち越せない衝動。
少し息が詰まりそうで、
それでも確かに
生きていると知るための距離。
唇が離れると、
何も決まっていない関係は
また曖昧な輪郭へ戻っていく。
けれど、ほんのさっき確かに
君と僕は、名前のないまま
同じ温度を悟ってしまった。
だから、もう一度だけ。
ラベルのないまま、
境界線の上で、
そっと — Kiss.
題 Kiss
2/4/2026, 10:41:05 AM