名札を伏せたまま
抱えてきた沈黙が
今さら重力を主張する
守るふりをして
実は閉じ込めていたのは
他でもない この衝動だ
予測不能な明日が
背中を押すなら
もう弁解は要らない
制御不能なものほど
欲望のふりをして
倫理の仮面を剥ぐ
触れずにいられる距離は
清潔だが
清潔すぎて呼吸ができない
奪う想像は
容易で
容易すぎて 吐き気がする
それでも
温度のない正しさより
濁った許容に沈みたい
説明を免除される白
裁定を下さない光
そこに身を預けることを
堕落と呼ぶなら 喜んで
幼さは否定する
だが
諦観までは差し出さない
これは共有ではない
これは反抗でもない
ただ
ここに残す 未回収の熱だ
題 旅路の果てに
生の受動と、死への能動
死のうとすることは、
驚くほどエネルギーを要する。
その力は行き場を失い、
静かに、死のほうへ向かってしまう。
多くの人は、
無気力のなかで立ち止まり、
死へ向かう力さえ持てない。
たいていの人間は、“生かされている”。
死へ向かおうとする そのエネルギーの正体は、
きっと――
“本当に”、生きたがっているということ。
今が許せなくて、
けれど現実は、どうにもさせてくれない。
それでも、
せめて、どうか
自分のことだけは責めないで。
――差し出がましいのは承知だが、
かつて自分が欲しかった言葉を
この河へ流せば、
誰かの沈黙を
少しだけ破るかもしれない…。
題 あなたへ届けたい
深く澄んだ青藍の染色
落ち着きに心が凪ぐような秋
静かに覆う曇りの空
じんわり沁みてゆくスープの温度
音の霧に包まれるアンビエント
鑑賞しきらないアマデウス
ダ・ヴィンチの緻密な眼差し
布団の中がインドアの居場所
空気のおいしい自然と共存
共に暮らす気ままな猫
サンカヨウの透明な花びら
紫陽花の雨に濡れた蜜のにおい
子どもたちと本気の折り紙
空間ごと切り取り維持するアクアリウム
しだれたまつ毛と流し目の作る影
朝まずめと夕まずめに溶ける光
同じ空気のなかにあって強く干渉しないこと
題 I LOVE...
無邪気な頃は、
変身できる可能性そのものが楽しかった。
今は、
鎧を着ずに無害である自分が欲しい。
だから身につけるものは、
すべてノームコアで固めていく。
その上で、
一点だけ、どこかを外す。
それがいちばんおいしい。
新しいものに触れる予感。
まだ気づいていない欲望。
目的のない軽さ。
買わない自由を含んだ遊び。
賑やかな街は、
混沌を覆い隠すのが上手い。
光と音と、
過剰なほどの選択肢で、
思考をゆっくり底へ沈めていく。
今日は、
その華やぎを
彼と並んで歩いて楽しむ日。
流行に埋もれたお洒落を、
そっと掘り当てに行く。
とびきりの、
大人の遊び心が詰まったやつを。
題 街へ
誰も傷つけない言葉はない。
「大丈夫だよ」も崩れた地点では刃になる。
「みんなそうだよ」は重さを平均に変え、
「悪気はなかった」は謝罪にならない。
だから私は評価せず
「頑張ってるね」と、今ここまでの事実をそっと置く。
足りなければ言葉は使わない。黙って、場を丸くする。
優しさは理屈じゃない。
誰も傷つけない事はできなくても、
誰かの痛みを一人にしない位置はつくれる。
受け取る器のない優しさは、成立させなくていい。
やめてみても、人は案外弱くない。
それは冷たさではなく、成立しなかった関係を、
それ以上歪ませなかった判断だ。
題 優しさ