蓼 つづみ

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12/27/2025, 1:49:18 PM

その水面は、灰青の空を一点の歪みもなく映す。
水は息を潜め、世界の気配を抱え込んで、動かない。

石畳の小径も、屋根の端に残る霜も、
枝先の影も静かに反転させる。
遠くの山影は眠るように澄み、
松や椿の緑は冷たい光に凛と立つ。

光も影も、過去も、
今ここにある一瞬も、
すべてが鏡の上に重なる。

静止した水の上に、
世界の輪郭だけが、
凍りかけの冷気を帯びて残る。

水面は微動だにせず、
そこに触れた者の存在を反射し、
記憶の余韻までも宿す。

足音の残像、
過去に咲いた花の色、
凍てついた時間の微かな呼吸。

その鏡の中、果てを見ると、
答えは凍り、思考が沈黙する。

そのなかに自分をみつけるが、
そこから何も掬えない。

題 凍てつく鏡

12/26/2025, 10:07:54 PM

私が触れているのは、
見たことのない光だ。

あるかどうかを
証明できないまま、
それでも、
暗闇だけではなかったと
まだ言葉には出来ない。

人が「誰も信じられない」と言うとき、
その言葉の奥に、
かつて信じて、
傷ついた夜が
横たわっている気がする。

まだ消えていないものが、
そこにあるから、
そんな言い方をするのだと
思ってしまう。

私は、
誰かに期待を寄せることはしない。

ひとの本質は多面的で、
流動的だと思うから。

ただ、
人柄を静かに見ている時間が、
いつまでも消えずに
残ることはある。

「信じられない」とも、
「信じたい」とも、
言わない。

どちらの言葉も、
夜を
少しだけ照らしすぎる気がして。

私はまだ、
見ていない光のそばにいる。

題 雪明かりの夜

12/26/2025, 1:55:15 AM

誓いは、破れば「破った」と言える。
それは、未来に杭を打つ行為だ。

祈りは違う。
「そう在れますように」と願いながら、
自分の手を引く態度。
相手を縛る前に、自分を戒めること。

私は、独占欲の杭を持たない。

私が大切にしているものは、
誓いの、手前にある。

私は、因果で測られる関係を、信じていない。

命は、正解を辿ったご褒美じゃない。

肯定が積もり、
関係が熟し、
祈りが臨界を越えたとき、
起きてしまう出来事だと、思っている。

用意された筋書きと、尊重は、別の軸にある。
尊重は、生き方の滲みだ。

相手の身体や人生を、
自分の計画の部品にしていないか。
私は、そこしか見ていない。

管理は、必要なこともある。
でも、管理が人を選別し、
「正しくない宿り」と笑った瞬間、
それは敬意ではなく、傲慢になる。

口づけは、本来、
「触れていい」「触れられていい」という、
相互の許可と信託の象徴だ。

距離が、ゼロになる直前で、
言葉をやめ、
身体で、一瞬だけ示す静止。

それは、欲望の始点ではなく、
承認の終点に、近い。

だから、その先に、
身体的な交わりが含まれるのは、自然だ。

けれど、多くの場合、
誓いのキスは形式に消費され、
交わりは、欲望として切り離される。

ここで、私の心は、断絶する。

触れたいから、触れるのではない。
「あなたを壊さない」という、
沈黙の誓約。

その誓いが、
触れ方にも、
速度にも、
終わり方にも、
残っていてほしい。

でも、それは祈りとして受け取られず、
欲望の、一場面として通り過ぎる。

同じ行為をして、
意味だけが、一方通行になる。

私の側には、
祈りを置いたまま、
回収されない私が、残る。

だから、後で、
勝手に、私だけが、痛む。

題 祈りを捧げて

12/24/2025, 8:27:56 PM

クリスマスだからと
何かをしようとしたのは
母だけだった

まな板の上では
手際よい音が鳴り

フライパンの底で
バターが音もなく
崩れてゆく

白く泡立つ前に
粉が振り落とされ
一気には混ぜない

牛乳を注ぐたび
台所の空気が
少しだけ甘くなる

量は量らない
でも失敗しない

あめ色の玉ねぎと
チーズの溶けた中に
気づけばあった あたたかさ

題 遠い日のぬくもり

12/23/2025, 11:28:24 AM

窓の向こうは白く霞む

明かりが揺れて
テーブルの上に
繭のような橙を落とし

焼き菓子の香りが
時間をゆるめる

子どもたちの声が
空気の中でそっと弾み

希望は
大きな言葉になる前のかたちで
この部屋に在る

静かなあたたかさが
満ちる夜

題 揺れるキャンドル

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