「届かないのに」
今日もおちびと一緒に散歩。
おちびは景色を眺めながら歩く。
前見ないと危ないぞ?
公園に来て、ベンチに座った。
さて、おちびは何して遊ぶかな?
そう思って様子を見ていると……。
「ニンゲンしゃーん……たいへんなのー……。」
おちびが不安そうに自分を呼ぶ。
なに?何があったの?
「ねこちゃ、きにいるのー!」
???猫がきにいる?
「どれ?どういうこと?」「あれ、みてー!」
指差す方向を見てわかった。
茶トラ猫が木の上で震えている。降りられなくなったらしい。
「たしゅけたげてー!」
……全く、木登りは得意じゃないんだけど、頑張るか。
と思っていたら、おちびも登ろうとしてる。
「ちょ、危ないから駄目だって!」「むー!」
頬を膨らましてるけど、駄目だよ?
……というか、どれだけ背伸びしても無駄かも。
おちびは小さすぎるので、木の節にも枝にも手が届かない。
届かないのに───届かないけれど、それでも手を伸ばす。背伸びをする。
「むー!とどかないのー!」「下で待っててね!」「んー。」
もうすぐ手が届きそうだ。
「ほーら、大丈夫だよー?」
その時だった。
「フシャーッ!!!」
威嚇に驚いているうちに、猫は自力で木から降りていってしまった。
「ねこちゃ、ありがとっていってたねー!」
「いや、絶対言ってないから!!」
降り終わるより前に自分は叫んでいた。
……さすが猫だ。やっぱり猫のことはよくわからない……。
「マグカップ」「記憶の地図」(6/15-16)
それは大きな大きな地図。
埃の被った箱の数々と、新しく鮮やかな写真が同時に隠れている。
地図は感情によって色が、時に火がつけられる。
火のついたところは次第に穴が開き、やがて、最初からなかったかのように消えてしまう。
幸せも、苦しみも、いつかは消えてしまう。
ポピーの花畑。お気に入りだったマグカップ。
好きな人。友達だった誰か。綺麗な歌声。
どれがかつてあったものなのか、それともなかったものなのか。
私は全て、忘れてしまった。
「もしも君が」
もしも君がさびしいと感じていたら。
安心して。
僕が、僕の言葉が、いつだって君のそばにいるから。
でも、どれだけさびしくても、君はこっちに来ちゃだめだよ。
僕がいるからって、こっちに来たら、
僕が悲しい。
たとえひとりになってしまったとしても、君はその命を全うしてほしい。それが、僕の最後の願いだ。
でも、もしも君が、僕のことをすぐに忘れてしまえるくらい、幸せになってくれたら。これ以上に嬉しいことはない。
もしも君が、世界でいちばん幸せになってくれたら。
僕は安心して、眠りにつくことができるだろう。
「君だけのメロディ」
この世界は美しい。
木漏れ日が、水面が輝き、花が揺れる。
静かな木陰も、夕焼け空も、この世界にはある。
美しいものなら、なんだってある。
だから、書くのをやめないで。
書いて、書いて、書き続けて。
私は、この世界でしか、あなたの作った音楽の世界でしか生きられない。もしあなたが書くのをやめてしまったら、私はもう前には進めない。
だからお願い、書くのを───。
───その曲の題名は「世界の淵」。
美しいが、途中までしか作られていない。
作者はどうしてこの曲を作るのを途中でやめてしまったのだろうか。その理由は、世界の淵に置き去りにされたままである。
「I love」
「ニンゲンしゃん!」「ん?」「だいしゅき だよー!」「ありがとう。……でも、急にどうしたの?」「あいをちゅたえるてべり、みた!」「へー。」
「ボクねー、だいしゅきいぱーいあるの!」
「えとねー、⬛︎⬛︎ちゃんでちょー、ぬいぐるみちゃんでちょー、おもちゃもだいしゅきだよー!」
それからも、しばらくの間、愛を語り続けた。
「あちょねー、」「わかったわかった!いろんなものが好きなんだね。」「んー、ちやう!」「だいしゅき なのー!」
「ニンゲンしゃん、わかったー?ボク、みんなだーしゅきだからね!」「ありがとう。」「んー!」
ふわふわで小さなからだに、沢山の大きな愛を秘めたこの子のことが、自分も───。