「イブの夜」
今日はクリスマスイブ……だからといってどうということはない。「ねー!」恋愛にも有効にも無縁だから、いつも通り過ごすだけだ。「ねーねー!」もうそろそろ年末か。「ねねねー!!」
「ニンゲンしゃん?!きいてよー!!」
「ニンゲンくんは独り言中なんだから!邪魔をしちゃダメだよ!」「むー!」
「それじゃ、代わりにボクが話を聞くよ!」「ありがと。」
「きょうのよる、しゃんたしゃんがくるでちょ?」「うん?」
「ぷれぜんと もらえるかなー?」「きっとね!」「わー!」
「ボク、いいこでいるからね?⬛︎⬛︎ちゃん、いっちょにいてね?だいしゅきだからね?ね!」「当たり前だろう?たとえキミが悪い子でもボクは一緒にいるからね?」「ほんと?」「ああ!」
「それがボク達だからさ!」「ありがと!」
「それじゃあ、ニンゲンくんと一緒に寝ておいで?」「んー!」
「ニンゲンしゃーん!だっこ!!」「はいはい。」
……去年はひとりだったクリスマスイブの夜。
今年は随分賑やかに過ごせた気がする。
ふたりとも、ありがとう。
メリークリスマスイブ。
「プレゼント」
やあ!!「人間」のみんなー!!!
ボクだよー!マッドサイエンティストだよー!!
メリークリスマスイブ!!!
ボクからほんの気持ちだが、プレゼントをしようと思うんだ!
……ところで、キミ達には何を渡せば喜ぶんだい?
100点満点のテスト?美しい恋人?高価なもの?美味しい桜餅?
それとも……?
いやあ、キミ達が喜んでいるところを想像するだけでボクは幸せだよ!
宇宙を管理する側としては、個々の宇宙を幸せに長生きさせること以上に良いことはないのさ!
ところで……。
こちらを「見る」側のキミ達はどうなんだい?
このストーリーの結末を、どんな気持ちで迎えるのだろうか。
……ボク達の幸せを望み、祈ってくれているのかい?
それとも、全く逆をお望みかい?
まあいい。
……とにかく!今日はめでたい日だ!
ボクは、キミ達の幸せも祈っているからね!
そう、明日はクリスマスだ!
暖かくして、楽しく過ごしたまえよ!
それじゃあ、また会おうね!
「ゆずの香り」2024/12/22
今日は冬至だから、風呂にゆずを入れる。
……もうこんな季節か。随分早いな。
なんて思いながら、風呂に浸かる。
冬は静かで暗い。だからこそ落ち着───「ニンゲンしゃーん!!」びっっくりした!!変な声が出そうになった!
「しょれ!なにー?!」「あ、ゆずのこと?」「ゆじゅ?」
「なんでおふろいれるのー?」「冬至って言って、太陽が出てる時間が一年で一番短い日が今日なんだ。」
「で、その冬至の日にはお風呂にゆずを入れて体を清める。そういう習慣があって、そうしてるんだよ。」「へー!」
「ボクもはいっていい?」「今から?」「ん!」
「おーい、弟ー。マッドサイエンティストー。」
「呼ばれなくともいるよー!」風呂に入ってくるとかさすがに遠慮がなさすぎる……。「呼んだのはキミだろう?!」
確かに。ごめん。「まあいい!ご用件は?兄をお風呂に入れていいかとか?それならいいよ!だが、ちびっこだから取り扱いにはお気をつけてね!」はいはい。
服を脱がせてもらって、お風呂に入れられる。
されるがままのおちびを湯船で抱っこする。
……すべすべだ!落っことさないようにしないと。
小さな手でゆずを持って、それを眺めている。
ゆずってこんなに大きかっただろうか。
「ゆず、いいにおいー!」「よしよし。いい匂いだね。」
ゆずの香りが漂うお風呂で、ふたりはゆったりくつろぐ。
……いい時間だ。
「ところでニンゲンくん!」「何?」
「ずっと気になっていたのだが……。」「え?」
「冬至……昨日だよ。」
「暦でいえば12/21 だよ。」
嫌な静けさが漂う。
自分はそれを聞かなかったことにした。
「大空」
私と貴方は身分も暮らしも違った。
辛そうに、何とか生きる貴方。
そして、何の苦労もなく暮らす私。
少しでも貴方達を救いたくて。
少しでも私と貴方の間を埋めたくて。
私は食事や住処を渡した。
貴方は、貴方達はとても喜んでくれた。
このままずっと、こんな暮らしが続くと思っていた。
でも、ある日突然、私は遠いところに行くことになった。
とても悲しかった。
貴方は見送りに来てくれなかった。
身分が違っても、暮らしが違っても、来てくれると思っていた。
でも、そうはならなかった。
それから暫く遠い国で暮らして、漸く帰ることのできる日が来た。貴方に会えると思うと、とても嬉しくて仕方がなかった。
なのに。
貴方はもう、どこにもいなかった。
飢えと寒さで苦しんでこの世を去ったと聞いたわ。
また会えると信じていたのに。
とても、とても悲しかった。
いつも大空を見上げて、この空の下でいつも繋がっていると信じていたのに、私はただ希望を映し出す鏡を見つめていただけだった。
ごめんなさい。
どうして行ってしまったの?
愛していたのに。
分厚い雲がかかった大空を、今日も私は、見つめている。
「ベルの音」
街にある塔から、高らかなベルの音が聞こえる。
君の帰りを知らせる、ベルの音が聞こえる。
君は僕が、最初で最後の恋をしたひと。
海を溶かしたような瞳も、輝くマホガニー色の髪も、暖かな手のひらも。全てが美しくて、幻の様だった。
そんな君は、身分も違う僕達を大切にしてくれた。
寝床や食事を与えてくれた。
愛を与えてくれた。
幸せだった。
それ以上は望まないつもりだった。
でも。
僕は君が欲しかった。
そんなある日、君はどこか遠い国の王子に見初められて、そのままどこかに行ってしまった。
当たり前だった。みんなはこんな素敵なひとを、放っておく筈がない。それに、君は僕と結ばれるよりも、ずっと幸せな生活を送る方が相応しいことだってわかっていた。
全部わかっていたから、僕は君を見送ることもできなかった。
見送れなくてごめんなさい、なのか、それともそれすら当然なのか。考える必要もない。
悲しくて、君の人生の汚点にはなりたくなくて、気持ちがぐちゃぐちゃで。考えることもできない。
せめて、どこか知らないところで、僕の知らない生活を送ってください。幸せになってください。
君の幸せが永遠に続く限り、僕は君にとって他人でいます。
そう思って、今度は君がこの街を発つことを知らせるベルの音を、僕は黙って聴いていた。