「ベルの音」
街にある塔から、高らかなベルの音が聞こえる。
君の帰りを知らせる、ベルの音が聞こえる。
君は僕が、最初で最後の恋をしたひと。
海を溶かしたような瞳も、輝くマホガニー色の髪も、暖かな手のひらも。全てが美しくて、幻の様だった。
そんな君は、身分も違う僕達を大切にしてくれた。
寝床や食事を与えてくれた。
愛を与えてくれた。
幸せだった。
それ以上は望まないつもりだった。
でも。
僕は君が欲しかった。
そんなある日、君はどこか遠い国の王子に見初められて、そのままどこかに行ってしまった。
当たり前だった。みんなはこんな素敵なひとを、放っておく筈がない。それに、君は僕と結ばれるよりも、ずっと幸せな生活を送る方が相応しいことだってわかっていた。
全部わかっていたから、僕は君を見送ることもできなかった。
見送れなくてごめんなさい、なのか、それともそれすら当然なのか。考える必要もない。
悲しくて、君の人生の汚点にはなりたくなくて、気持ちがぐちゃぐちゃで。考えることもできない。
せめて、どこか知らないところで、僕の知らない生活を送ってください。幸せになってください。
君の幸せが永遠に続く限り、僕は君にとって他人でいます。
そう思って、今度は君がこの街を発つことを知らせるベルの音を、僕は黙って聴いていた。
12/21/2024, 4:44:56 PM