「寂しさ」
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
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「ニンゲンしゃん!」「ん?どした?」「なにもないよ!」「そっか。」「えへへ〜!」「かわいい」
「ニンゲンくん!キミは兄を可愛がりすぎだ!ちったぁボクも可愛がったらどうだい?!!」はいはい。かわいいかわいい。
「寂しいなあ!!!」
悪かったって。
「まあいい!許そうじゃないか!」
「それはそうと───」突然呼び鈴が鳴る。
「おや、お客さんのようだよ?ニンゲンくん、出てきたまえ。」
全く心当たりがないが……誰だ?
とりあえず出るか。
「……はい。」
「ニンゲンさん、お久しぶりです。覚えておられますか?⬛︎⬛︎達を造った者です。」
あー、えーっと……「おとーしゃん!」
「おとーしゃんだ!!」
「お父さん?!公認彼岸管理士の試験に受かったの?!!」
「そうd「おとーしゃん!おとーしゃん!!」
「⬜︎⬜︎、ちょっと静かに。」「むー!」
「久しぶりだね。ふたりとも元気そうで何よりだ。」
「へへっ!」「げんきだよー!」
「ニンゲンさん。いつもこの子達がお世話になっております。これ、もしよければどうぞ。」
そう言って何かを手渡してきた。
これは……「賽の河原まんじゅう」……?
えーと、あのー……。「どうかしましたか?」
「まあ、気になるよね……。」「気になる……とは?」
「あぁ、賞味期限ですか?」「んなわけないでしょ、お父さん!」「これ、食べても大丈夫なの?!」「当たり前だろう?」
「なんと言うか……黄泉竈食ひにならないか心配だよ!」
よもつへぐい……ってなんだ?
まああの世のものを食べるのは怖いから……。
「食べるか食べないかは好きにすればいいよ。」
「……にしても、⬛︎⬛︎はこの宇宙を大事にしているんだね。」
「え、ま、そりゃあ?」
「だってこの宇宙は───「ちょっとそこまでにして!」
え、この宇宙がなんて……?「なんでもないよ!」
「ふふっ。これでもっと寂しくなくなるね!」
「ボクね、正直いうと、この一万年間ずっと寂しかったんだ。⬜︎⬜︎だけじゃなくお父さんまでいなくなって、ボクはひとりぼっちだった。」
「でも、ふたりとも戻ってきてくれて、ニンゲンくんもいてくれて、ボクはもう寂しくないよ!」
「みんな、ありがとう!」
大好きな家族との時間を取り戻すことができたんだ。
……だから自分は邪魔者かもしれないな。
「ニンゲンくん!」「?」
「一緒にこのおまんじゅうを食べていっぱい話そう!」
……仕方ない。なんてな。
本当は嬉しい。
ありがとう。自分を寂しさから救ってくれて。
……ありがとう。
「冬は一緒に」
今日は特段寒い。住んでいる町の近くでも雪が降っているそうだ。なるほど、雪がふってもおかしくない寒さなわけだ。
なぁ、マッドサイエンティスト。
「ニンゲンくんから話をしてくれるなんて珍しいねえ!!!ボクはとーっても嬉しいよ!!!……で、ご用件は?」
いや、寒いから何かしようじゃないかー、とか言うのかと思ってたけど、何も言ってこないからなんとなく声かけてみただけだ。
「んー。寒いだけじゃあキミに負担がかかるだろう?だから何も言わなかったわけだが、何かしたいことがあったのかい?」
いや、全く。「なんだいそれは……。」
「だが、したいことならあるよ!」
なんだ、あるのかよ。「全く!キミはもう!!」
「ボクはねえ!こたつに入りたいのだよ!」
こたつ?「そう、こたつ!」なるほど……?
「ニンゲンしゃん!」「ん?」「こたちゅ てなあに?」
「こたつは……テーブルに布団がついたみたいなやつ……。」
「てーぶるに、おふとん?」「まあ、そんな感じ。」
「そうそう!冬は一緒にこたつに入るのが醍醐味なのさ!」
「まあボクと⬜︎⬜︎は太陽の熱に直接晒されようと冥王星に1億年放置されようと全くもって問題ないわけだが!」
……それなら、こたついらないんじゃないか?
「イヤだなあニンゲンくん!ボク達は文化を楽しみに来ているのだよ?!キミとの時間を楽しく過ごしたいっていうのに!」
悪かったって。
「へへっ!キミが幸せなら、ボクはそれで大満足さ!」
「ボクもー!ニンゲンしゃんがうれちいの、だいしゅきー!」
「……ありがとう。」
「それじゃあ、こたつ出すか。ふたりも手伝ってくれ。」
「「はーい!」」
こんな日常なら、どれだけ寒くても暖かくいられそう……なんて思いながら、こたつの準備をした。
その後、みんなでこたつから出られなくなったのは言うまでもない。
「とりとめもない話」
「ニンゲンくーん!見てよこれ!」
「りんご!みかん!!美味しいに違いない!!!」
なんだよ急に。
「ボクねえ!みかん狩りに行きたいのだよ!」
「行こう!ね?!いいでしょ?!!」
はいはい。
「ニンゲンしゃーん!ねーねー!」「なになに?」
「おじょに て なに?」「おぞに……?」「お雑煮じゃないかな?」「ん!おじょーに!」
お雑煮っていうのは……。
「ニンゲンくん!この前のトマトさあ!美味しかったよねえ!」「たんぽぽまんはいいこ?おともだち なれるー?」
「ニンゲンくん!」「ニンゲンしゃん!」
……相変わらずみんなやかましい。
でも。こういうとりとめもない話をできるのは、自分にとっても、もしかしたらふたりにとっても幸せなんだろうな。
……いつもありがとう。
「風邪」
みんな!ご機嫌いかがかな?ボクだよ!マッドサイエンティストさ!いい日々を過ごしていてくれたらこれ以上に嬉しいことはないよ!
ところで、最近寒い日が続いているけれど、体は大丈夫かい?
ボクは機械の体を持っているから風邪を引くことはないが、人間のみんなはそうでもない!だから、少し心配だったのだよ。
とりあえずぱっと見元気そうでよかったよ!
ところで、心の調子はどうだい?
日照時間が短くなると、人間は精神的に不調をきたすという。
抑うつ状態は「心の風邪」とも言うそうだね。
少しでも変だと思ったら、暖かくしてゆっくり休むんだよ。元気が出てきたら好きなことをして調子を整えたまえ!
あ、そうそう。ボクとしてはバタフライピーのハーブティーがおすすめだよ!綺麗な青色で、見た目だけでも癒されるうえ、リラックス成分のテアニンが含まれているから、辛い時や眠れない時に飲むといい!
体も心も、治るうちに風邪を治すことが重要だ。
……取り返しがつかなくなる前に、早めに医療機関に行って、適切な治療を受けたまえよ!
それじゃあ、体に気をつけてね!
「雪を待つ」
「やあニンゲンくん!週末には雪が降るそうだよ!楽しみだねえ!」子どもらしい無邪気な笑顔をこちらに向ける。
雪か。寒いし交通機関のダイヤは乱れるしでちょっとな……。
「おや、乗り気ではないご様子だね?」「ニンゲンしゃ、なんでー?ゆき、ふわふわでおいちそーだよ?きらいなの?」
「嫌い……とかではないけど、でも好きではないかな。」
「んー……。あっ!しょーだ!」「どうしたの⬜︎⬜︎。」
「ニンゲンしゃんがゆきだいしゅきになるおあしょび!つくろ!」「いいねえ!だがその前に……。」「んー?」
「雪遊びとはなんぞやかを知っておこうではないか!」
「わー!」
雪遊びとは……なんぞや……?まあいっか。
「まずは!!!雪だるま作り!!!」「ゆきだるまー?」「そう!雪だるま!!!このボクでさえまだ作ったことがない!!」そういえばそうだったっけ。
「メタな話をすると、ボク達が登場したのは今年の2月19日、タイトル名は『今日にさよなら』だからね。春が始まりかけていたタイミングだったから、雪遊びはまだしたことがないのさ!」
……登場?なんの話だ?
「いやあこっちの話さ!お気になさらず、だね!」
「ねー、ゆきだるま!なあにー?」「あぁ、すまないね!」
「大きな雪の塊をふたつ作って、それを組み合わせるんだ!」
「それに顔や腕、それからマフラーなんかもくっつけて──完成!」
「どんなかおー?」「画像があるよ!こんな感じだ!」
「わ!かわいい!ボクもちゅくりたーい!」
「雪が降ったら作ろうね!」「わ!わぁ!」
「他にもあるよ!」「わくわく!」「かまくら作り!」「かまくらー?きのうたべておいちかったあれー?」「それはかまぼこ。」「しょっかー。」「うん。」「ん。」
「かまくらっていうのはね、言うなれば雪で作ったテントだね。しっかりしたものを作れば中で暖をとることも出来るんだ!」
「ゆきのおうちー?!たのちそー!」
「ボク、かまくらちゅくりたい!」
「いっぱい降るといいな、雪。」「ニンゲンしゃーもたのちみ?よかったー!」「いや、えー……まぁ?」「素直じゃないね!」
「他にもあるよ!かまくらや雪だるまが作れるほどの雪が降らなくても、雪うさぎならきっと作れる!」「ゆきうしゃぎ?ゆきでうしゃぎしゃん、ちゅくるー?!」「そうだよー!」
「手のひらで丸っこい塊を作って、そこに落ち葉の耳と南天の目をつけるのさ!」「こんな感じだよー。」「かわいー!」
ふたりとも嬉しそうに話している。
雪が楽しみ、か。
「ちっちゃなお兄ちゃんにはまだ早いけど、雪玉を作って投げて当てる雪合戦もあるよ!機会があればやってみようね!」「ん!」
「そうだな。雪、きっと楽しいな。」「ニンゲンしゃん!」
「ゆきふったら、いっぱいあしょぼーね!」「うん。」
こっそりわくわくしながら、自分も雪を待つ。
いつもと違うことを純粋に楽しめる心って、雪みたいに真っ白なのかもしれない。