「部屋の片隅で」
最近、うちに住み着いているおちびに落ち着きがない。
なんだ?腹でも痛いのか?一体どうしたんだろう。
「おちび、そろそろ寝るぞー。」
「あっ……ねんねもうちょっとあとなの、だめー?」
「夜だからお化けが来ちゃうよ?」「やー!」
どうもお化けは苦手らしい。幽霊は平気なのに、なんでだ?
「おばけ、こわいのー。」「じゃあ寝ような?」「ん。」
「ちょっとこわいから、だっこちて?」「はいはい。」
抱っこされているうちにいつの間にか眠ったみたいだ。
さて、もう寝るか。
こうして自分たちは眠りについた。
……何時間か経った後、どこからともなく音がすることに気づいた。何、どこから音が……?
最近は治安が良くないから少し不安になる。
周りを気にして、いろんな方向を見る。
暗いからよく見えない。……そういえばおちびは?
ベッドにいない。どこ行った?!
改めて部屋を探す……まもなく小さな子どもは見つかった。
部屋の片隅で、こちらに背を向けて何かしている。
え、こんな時間に……「何してるの?」「!!」
「夜更かしは良くないよ?」「……。」
「あ、あのね……。」「うん?」「しゃんたしゃんに、おてがみかいてるの。」「あ、そうなの。」「んー。」
「あのね、いいこにちてたら、しゃんたしゃんがね、ぷれぜんと くれるんだってー!⬛︎⬛︎ちゃんからきいたの!」「そっかー。」
「えとねー、ボクね……いいこ?」「?」「ボク わるいこ?」
「おちびはとってもいい子だよー。」「いいこ?」「うん、いい子。」「!!ニンゲンしゃん!ぎゅー!」「よしよし。」
「ところで、何が欲しいの?」「んー。ひみちゅだよー。」「そっかー。サンタさんへのお手紙は上手に書けた?」「んー!」「よかったね。それじゃ、もう寝ようか。」「ん!」
「おやすみ。」「ニンゲンしゃ、おやしゅみー!」
おちびが寝入ったのを確認して、こっそり手紙を見る。ごめんな。手紙には、多分こんなことが書かれていた。拙い字で一生懸命書いてあった。
さんたさん へ
ぼくの おとうとに、 ねるじかんを あげて ください。
ニンゲンさんに、 もっと わらって もらえる ものを ください。
ぼくは、 みんなが だいすきです。 だから、 もっと いっしょに いたいです。 こんどは いっぱい げんきに いいこで いさせて ください。
⬜︎⬜︎より❤︎
……そんなこと願わなくたって、これからもずっと……いや、君が望む限り、ずっと一緒にいるのに。
……なんてことを思いながら、自分もまた眠りについた。
「逆さま」
もしも私があの子だったら。
もしも昨日が今日だったら。
もしも今ごろ幸せだったら。
こんなこと、考えたことはありませんか?
現実は無情なので、いくらifを考えたところで無駄ですが……とある条件を満たせば、その「もしも」を現実のものにできる。
もしも、そんなことがあれば、あなたはどうしますか?
゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚*.。.*゚
今日も暇なのでネットサーフィン。
なんとなく怖い話を読みたくなって「都市伝説」なんていう雑いワードを検索。
すると、いきなり怪しげなサイトがヒット!
『発見!「逆さま」を呼び出す方法!』
「逆さま」を呼び出す方法……なんだそりゃ?
さかさまを呼び出す……なんて言われても、何が起こるかわかんないよ。
何、「逆さま」って。
面白そうだから読んでみるか。
ふむふむ……「このサイトにたどり着いたあなたは運がいい!」ほうほう……「『逆さま』はあなたのもしもを司る強い存在!」なるほど……「この情報は私とあなただけの秘密です!」……。
なんでこんなに勿体ぶるんだろう?
それだけ危険ということなのだろうか……?
まあいいや。やってみよう。
①携帯電話を2台用意する。
②手元の電話を通話状態にする。
③13秒目から話し始める。話の始め方→「逆さま、私の名前は〇〇です。私のもしもを見せてください。もしも〜〜なら、私は幸せですか?」
④話が終わったら、13秒待ったあとに電話を切る。
⑤鏡を見ると、逆さまが映る。逆さまが映ったらあなたの「もしも」が現実のものに!
……胡散臭い。似たような都市伝説が他にもあったような気がするし。やってみる価値あるんだろうか。
……でも、自分が欲まみれなのを知っているので試すしかない。
よし、やってみるか!
「携帯電話を2台」……よく考えたら意外と現代的だ。新しい神様なのかもしれない。
……通話状態にして、13秒待つ。
「さかさま、わたしのなまえは〇〇です。わたしのもしもをみせてください。もしもわたしが『さかさまにあえたなら』、わたしはしあわせですか?」
……話が終わったら、13秒待って電話を切る。
鏡を見る。特に何もない。
あ、失敗か。
「つまんね〜〜」とか言いながら後ろを振り向く。
天井に女か男かもわからない人がぶら下がって(?)いて変な声が出そうになった。
「あ、気づいちゃいました?どうもごきげんよう。私が──「逆さま?!!」「あ、ハイそうですが……ちょっとイントネーションが違いますね。」「は?」
「私は「さかさま」ではなく『逆(さ↑か)』。人呼んで「逆さま」です。どうぞよろしゅう。」
「110」「ん……?」「警察呼ぼうかな、と思って。」「ちょっと!!勝手に呼び出しておいて!!通報とは!!!なんたる無礼ですか?!!」「あ、ごめん不審者と間違えた」「えぇ……?」
「ほら、どうです?逆さまが直々に対応した時のお気持ちは!」「思ったよりうるさい」「すみません」「幸せでしょう?!」「えー……?」「幸せだと言いなさい!」「はいはい。」
「せっかく面白い「もしも」だと思ったらいきなり通報されそうになるなんて……。まあでもいつものよりマシか〜……。」
一体彼(?)はどんな「もしも」を聞いてきたんだろう。
「そういやなんだけど、逆さまはこんなとこで時間潰してて大丈夫なの?」
「えぇ。問題ありませんよ。我々は『逆』という組織ですから。ひとりで全部対応しているわけではありませんのでご安心を。」
「ふーん……。」
「ところで」「ん?」「どうです、私に会えて幸せですか?」
「全然。会うだけじゃ幸せにはなれん。」「そうですか……。」
「それでは、私はこれで失礼───「一個ぐらい願い叶えてけ!」「えー?!」「暇だから!」「えぇ……?我々はもしもを聞くだけですが、それでよければ……。」「いい話し相手ができた。」
「もしも逆さまがお前一人になったら、私は幸せですか?」
「ちょっと!!!それは聞かなかったことにしますからね?!!あまりにも非道ですから!!!」「え?つまんな。」「……。」
「それじゃあ!!!これで最後にしますから!!!もしもを言ってみなさい!!!」「うーん。」
「もしも……もしも逆さまと友達になれたら、私は幸せですか?」「……!」
「その願い、聞き届けました。それでは……。」
「……じゃあね、逆さま。」
〜〇日後〜
「おはようございます。突然ですが、編入生の紹介です。」
マジか。マジで来た。
「おはようございます。編入生の『逆』です。以後、お見知り置きを。」
逆さまと友達になったら。
自分はどうなるんだろう。
「おはようございます。どうですか?幸せですか?」
「眠れないほど」
疲れた。今日もとても疲れた。
しっかり眠れないほどに、疲れてしまった。
何にも疲れるような要素なんてないのに、どうしてこんなに?
自分でもよく分かっていない。
そんな時には自分自身に聞く。
何かあった時はこうやって、不貞腐れきったもうひとりの自分に尋ねてみる。
「何か嫌なことがあったの?」
「どうしてこんなに疲れているの?」
「その涙はなんで流れているの?」
他人事みたいに、聞いてみる。
もうひとりの自分はこっちを見ずに答える。
「分かってるくせに。なんで嫌なことほじくり返すかな。」
お互いのために聞く。だってどっちも私だから。
「疲れすぎて睡眠不足のスパイラルになってる。イライラする。」
「誰も話を聞いてくれない。」
「もはや理由もわからず泣いてる。」
こういう時は美味しいアイスとか、ハーブティーとか、好きな音楽で自分を甘やかして、ゆっくりする。
そして、好きなだけ眠る。
……いつもこんなふうに休みたいのはやまやまですが、そううまくいかないのが現実です……。
皆様も無理なさらず、寒さに負けずにお過ごしください。
「夢と現実」
嫌な夢を見て目が覚めた。どんな夢だった……だろうか。
あっという間に忘れてしまったけれど、とにかく悪い夢だった。
こんなに寒いのに汗までかいている。
空気を吸いに起きようとした時気づいた。
小さな子どもの足が自分の胸の辺りに乗っかっていることに。
……全く、どんな寝相だよ。
起き上がろうとしたが、ふとこの子を起こさないかどうかが気になった。自分が動いたら自動的にこの子も動く。起こしたら可哀想だけれど、かといってこのままだったら自分が苦しい。
思い切って体を起こした。ふぅ、息がしやすい。
おちびはベッドで眠ったままだ。よかった。ところで……。
あんたは何やってんだ?
「なんだか苦しそうな声が聞こえてきた気がしたから、キミの悪夢でも録画してみようと思ってね……って冗談だよ?」
人の苦痛を茶化すな。「悪かったって!」
「……にしても、いい寝顔だと思わないかい?」
そう言いながら優しい眼差しで兄を見つめている。
「きっといい夢を見ていることだろう。」
……そうだな、こんなに安心した様子で眠ってるんだ。
きっと幸せな夢でも見てるんだろう。
夢……か。こいつと出会ってから、夢と現実の区別がつかなくなりそうなことばかり起きている。心を読まれたり、宇宙やらあの世やらに連れていかれたり。いまだに意味わかんないや。
もしかしたら、今この瞬間だって夢なのかもしれない。現実はないかもしれない。もしもこれが夢だったら……なんてことを考えても忘れるんだろう。
「ニンゲンくん」「?」「水、飲まないのかい?……悪い夢を見て、汗をたくさんかいただろう?」ああ、そうだな。
……こっちのあったかい世界が現実でよかった。
洒落臭いから実際に口にはしないけど───。
これからもよろしく。
「さよならは言わないで」
「さよならなんて言わない」貴方はそう言った。
君に寂しい思いをさせたくはないから、離れることもないよ。
そんな理由を話しながら私に微笑んでみせた。
でも、いつか終わりが来ることは分かっていたの。
悲しいけれど、別れの時は必ずやって来る。
その時は、「さよなら」の一言が欲しいと思った。
さよならと言わないことを求めながらそう思うのは我儘でしたか?……ええ、そうだったに違いないわ。今なら分かるの。
貴方はさよならも言わないでどこかへ行ってしまった。
ボロボロになった私のからだと、寂しさだけが残った。
あまりにも虚しかった。
悲しかった。
でも、いつかまた逢えることを知っているから。
私は、それでいいの。
ぽっかり空いた貴方の形をした穴を心に抱きながら、私はその時をいつまでも───待っているの。