「秋風」
最近、暑かったり寒かったり忙しない。
昨日はシャツ一枚でもよかったのに今日は羽織りものが必要だ。
……流石にちょっと堪えるな。
「ニンゲンしゃん!おしょと!いこー!」
それに比べてこの小さいのはずっと元気だ。
「お兄ちゃんはいつも元気だなー。」「ん!げんき!」
「お外はちょっと寒いから、狭くて悪いけどベランダでもいい?」「ちょーがないねー!べらんだ?いこー!」
ベランダか……洗濯物をついでに取り込むか。
「危ないからひとりで出ちゃ駄目だからな?」「ん!」
……分かっているのかいないのか。
「だ・め・だ・か・ら・な?」「はーい!」
「ちょっとの間、そっちで洗濯物畳んでて。」「ん。」
この子は優しいからか、随分と手伝いをしたがる。
でもまだ小さいから、あまりそうさせられない。
だからこの子でもできそうなことをついでに探した。
「ねー!じょーず?」「綺麗に畳めてるよ。ありがとう。」
「ほめられたー!うれちい!わー!」
「もっとボクたたむのがんばるー!」「うん。お願いするよ。」
頑張り屋なところは、きょうだい揃って同じみたいだ。
よし、これで洗濯物も取り込めたかな。
「お兄ちゃん、お仕事はもう終わったから、ベランダに出ようか。」「んー!」「その代わり」「んー?」「抱っこするから」
「わ!」「ちゃんとしがみついててな?」「やたー!」
窓の外の景色を見るには、少なくとも自分くらいの身長は必要だが、そうするとなると抱っこは必須。下手なことして事故に繋がったら洒落にならないからな。
「べらんだ!おしょと!」「そうだな、お外だな。」
「んー!かぜつよいー!」「でも、寒くない……というか部屋よりあったかいな。」「んー!」
楽しそうに景色を眺めている。本当に外が好きみたいだ。
「ニンゲンしゃ!」「ん?」「たのちいね!」「ふふっ、楽しいな。」「あ!わらったのー!」
秋風が街から熱を奪っていく。
ついでにこの子のふわっふわの髪の毛を乱していく。
たんぽぽの綿毛のようなのに、すぐに元に戻る。
不思議な髪の毛だ。すごく柔らかい。
「なでなで!なでなでなの!わー!」
「ニンゲンしゃん、だいしゅきー!ボクもなでなでしゅる!」
小さな子どもに頭を撫でられるのって、悪くないな。
……色々とくすぐったい。
「ニンゲンしゃん!おなかしゅいた!ごはん!」
「はいはい。」
もうそろそろ秋も終わりだ。何かもっと思い出作りができたら。
この子ももっと、笑うのだろうか。
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
─────────────────────────────
「また会いましょう」
また会おうなんて言わなくても、会えるのが当たり前だと思っていた。「おやすみ」だけが一時の別れの挨拶だって思っていた。
それだけボクは満たされていたんだね。
いつものようにあなたに会いに行ったら、その時にはもう遅かった。何を試しても無駄だった。
あなたはボクを置いていった。
悲しかったよ。これ以上ないくらいに。
苦しかったよ。これ以上ないくらいに。
孤独だったよ。これ以上ないくらいに。
でも。会うことができた。幸せだったよ。
懐かしくて、あたたかくて。
すごく、嬉しかった。
ボクはもうもといた場所に戻ったけれど、また会いたいな。
今度はあなたが会いにきてね。
それじゃあ。また会いましょう。
「スリル」
「ね!ね!いこ!おしゃんぽ!」
「明日じゃ駄目か……めちゃくちゃ眠いんだ……。」
「や!いくもん!」
こんな夜にもちもちの膨れっ面を見せられてもな。
「ね!ニンゲンしゃん!」
「こらこら、引っ張らないの。」
「お!しゃ!ん!ぽー!!」「……わかったよ。」
「そのかわり」「んー?」「大人しくするんだぞ?」「ん!」
わかったのかわかってないのかよく分からん返事だ。
……まさかこんな時間に出かけることになるとは。いや、むしろ人に見られないから好都合か?
どっちだ───「ちょ、止まって!」「えー?」
「いきなり走り出すと危ないだろ?」「んー?」
「そこの角から何かが飛び出してきたらぶつかるかもしれない。だろ?」「ん!ボク、はちらないの!」
聞き分けが良さそうなのが救いか。
「ほら、手を繋ご───って言ってるそばから走るな!」
「んー!」「返事だけは一丁前だな……。」
「おへんじ、じょーず?やたー!」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねて赤信号を渡ろうとする。
思わずかわいい腕を掴んだ。
「ニンゲンしゃ、いたいー!」「危ないだろ!」
「なんでー?」「赤は渡っちゃ駄目だ。青の時に渡ろうな?」
「あおー?⬛︎⬛︎ちゃんのいろににてるねー!」
……全く呑気なやつだ。
「ちょっと今日はもう帰ろうか。」「えー?あしょびたいのにー!」「ニンゲンのルールをもっと知らないといけないから。」
「るーる?てなにー?」「お約束、ってとこかな。」「ん!」
それから……自分にはスリル満点すぎた。
一歩間違えたら事故だし……ついでに言えばあいつに何言われるか分からないからな……。
「じゃー、だっこ!」「はいはい。」こっちの方が安全だ。
……小さな子どもはあったかいな。湯たんぽみたいだ。
安心したのか、もう眠り始めた。
……よっぽど抱っこが好きなんだな。
にしても、親代わりっていうのは大変なことだ。
でも……悪くはない、かも。
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
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「飛べない翼」
僕は翼に夢を見ていた。
僕は翼を夢に見ていた。
皆が当たり前のように持っているその大きな翼。
いろんな色に輝く、美しい翼。
僕はそんな翼を、たった一人、持っていなかった。
だから、色んなことをした。
当たり前のことを学んだり、大量の薬を飲んだり。
本当に、色んなことをした。
そして、ようやっと翼を生やした。
でも、思ったような綺麗な翼は生えなかった。
小さくて歪な、今にも腐り落ちそうな翼が生えてきた。
そのうち翼は僕の背中から嫌な音を立てて落ちた。
そして、ようやっとわかった。
僕は最初から、翼を持つべきではなかったのだと。
夢を見るべきではなかったのだと。
そうか。そうだったんだね。
でも、わかっていても飛び立ちたいんだ。
それならせめて、一番美しいところを飛びたい。
飛びたい。飛ぼう。
そして、
ぼ
く
は
飛
ん
だ
。
「ススキ」
私はただの根無草。貴方は黄金に輝くススキ。
私は貴方に恋をしていた。
輝く貴方に、恋をしていた。
私は貴方を見つめて、貴方はどこかを見つめて。
私は踏みつけられ、貴方は風にそよいで。
そんな毎日が愛おしかった。
私は花をつけることもない、美しくもない草でしかなかったけれど、貴方は柔らかな穂を、穏やかに揺らしていた。
それはそれは、美しかった。
私は日陰で、貴方は太陽と月に照らされて。
雨に打たれても強く強く生きた。
そんな貴方が愛おしかった。
貴方は美しく愛おしい。
そんな貴方だったから、手折られてしまった。
私は手折られる貴方を見つめることしかできなかった。
貴方は命をなくした芒。私は枯れゆく根無草。
愛する貴方を失い、枯れゆくのを待つ根無草。
もし私が貴方と同じ芒だったら、同じように手折られて、同じように死ぬことができたのかしら。
こんなふうに、凍えて死ぬことも、なかったのかしら。