「目が覚めるまでに」
私は愛されたかった。
欠点も苦しみも、何もかも全部まとめて愛されたかった。
「無償の愛」なんてものを求めて、ずっと手を伸ばし続けた。
でも、そんなものはどこにもなかった。
だから私は、張り付いた笑顔とキラキラのメッキで自分を飾り付けて、いろんなことを全力で頑張って、「愛される子」になった。家族からも、友達からも、それから男の人からも。
朝早く起きて家族全員分のお弁当を作って、それから好きでもないアイドルの新曲を聴いて、得意じゃない勉強もたくさんして、器用でもないのにメイクも頑張って。
私は「愛されていた」。
家族からはさらに家事を任せてもらえるようになったし、友達からも前より頼られるようになって、それから、私を好きだと言ってくれる男の人も現れて。
私はとっても嬉しかった。
でもとっても疲れた。
だからある日から何にも出来なくなってしまった。
それでもみんな、愛してくれると思っていた。
でもそんなことはなかった。
みんな私を白い目で見る。「何それ?」って言って茶化して。
こんなに苦しいのに。
そっか。みんな私じゃなくて、
「頑張ってるわたし」が好きだったんだね。
なんで今まで気づかなかったんだろう。こんな簡単なことに。
今度久しぶりに会う恋人も、きっとこんな私のことを好いてくれない。あなたにまでみんなとおんなじような、あんな目で見られたらもう耐えられないよ。
だから。
この魔法が解けるまでに。
あなたの目が覚めるまでに。
この恋も終わらせないと。
さよならを言わないと。
……こんな私でごめんね。
「病室」
ここは白い病室。死を待つ私の最後の空間。
テレビや映画では簡単に余命宣告される登場人物が出てくるが、実際のところ、助かる見込みがない時くらいにしか余命宣告なんてしないらしい。
その余命宣告を受けたのは2ヶ月前。
医師は気の毒そうな、申し訳なさそうな顔で私があと約2ヶ月しか生きられないことを告げた。
私は意外とすんなり受け入れられた。
この身体じゃそう長くは生きられないともう分かっていたから。
……家族も無言で、無表情で聞いていた。
まるで私の命に興味がないかのように。
余命宣告を受けたあと、私を見舞う人はいなかった。
緩和ケアを受けながら家で過ごすことも出来たが、家族に私の弱りきった姿を見せたくなかったから病院にいる。
家族は今、友達は今、どうしているかな。
朝起きて、学校や仕事に行って、誰かと話をして、美味しいスイーツを食べて、流行りの歌を歌って、ふかふかのベッドで眠って。
私のことを忘れて?
……いや、それでいいんだ。
私のことを忘れてしまえるくらい、楽しい生活を送れているなら。
でも、私は少し寂しい。
苦しいのに打つ手もなく、やることもなく、見舞いもない。
みんなは私の死と生に興味がないんだ。
そんなことはいいや。
どうせ死ぬと分かっているなら、せめて出来ることをしよう。
だから私は、みんなに向けて、最後の手紙を書くことにした。
誰に書こう。何を書こう。何を伝えよう。
残された時間はほとんどない。
ひとりでも多くの人に届けなければ。
まずは家族に。ありったけの愛と優しさをありがとう。
次は友達に。あなたたちのたくさんの笑顔と話が大好きでした。
恋人だった人には、突然別れを告げてごめんなさい。
本当はまだ大好きです。でも、私のせいで苦しみを味わってほしくなかったから、別れたいなんて言ってしまいました。
本当はあなたに、みんなに、また会いたかったな。
天国にいるシロへ。もうすぐそっちに会いに行けるよ。猫のくせしてとっても寂しがり屋だったから、すごく心配だったんだ。でもまた会えるから心配いらないね。
やっと、全部書けた。
……こんなこと書いて重かったかな。みんなを苦しめないかな。
でも、ちゃんと届けたいな。
私が残せるのは、これだけだから。
だんだん身体が沈んでいく。
ちょっとずつ色がなくなって、真っ暗になった。
息が、鼓動が弱くなっていく。
徐々に、音も遠くなってきた。
最後に聴覚だけが残るのって、本当だったんだな。
……。
部屋に看護師さんがバタバタと入ってきて、何かしている。
何か話しかけられている気がするけど、内容はわからない。
……そっか、私、もう死んじゃったんだ。
もうちょっとだけでいいから、生きていたかったな。
……。
……。
……。
「明日、もし晴れたら」
「お知らせ(?)」
長すぎるあらすじが気になっていたから、今回は試しに後ろにくっつけてみたよ!!!どうだろうか???
それにしても、いい加減あらすじを作り直す時間が欲しいものだね!!!
◆*:.'.:*◆*:.゚.:*◆*:.'.:*◆*:.゚.:*◆*:.'.:*◆
「ねー⬛︎⬛︎ちゃん!あのおねーしゃんがこわしちゃったうちゅうのこと、おちえてー!」「機密事項だからダメだよ?」
「⬛︎⬛︎ちゃんといぱーいおはなちちたいだけなのにー!」
「そうだなあ……。ちょっとだけだよ?」「わーい!」
「宇宙のことは広すぎて説明しきれないから、ボクの拠点のことでも話そうか!」
「あの星には色々な生き物や植物がいるんだ!」
「ニンゲンと呼ばれる生き物があの星を支配していてね、そこそこの文明を築いているようだよ!」
「ニンゲンは他の動物や植物を、ほとんど思いのままコントロールしているのさ!」「んー。しょれ、わるいことじゃない?」
「まあ弊害がないわけではないが、悪いことばかりでもない!」
「例えば、美味しいものがたくさん食べられたり、美しい花がたくさん見られたりする。いつかキミにも見せたいねぇ!」
「ボクもみたーい!」「この話に決着がついたら、一緒に行ってみようか!今頃、ひまわりという花が咲いているんじゃないかなぁ?ちなみにひまわりは種も美味しく頂けるそうだよ!」
「おいちいの、たべたーい!」
「⬛︎⬛︎ちゃん、そのほし、しゅき?」
「そうだね、ボクは……大好きだよ。」
「ボクもしゅきー!」
「キミはあの星のことを全然知らないだろう?!」
「んー。でもねー、ボクもしゅきなの!おしょろーい!」
「お揃いかあ……。いいね!」「でしょー!」
「ボクもいっちょにいきたいのー!」
「へへへ、晴れているときに遊びに行こうね!」「んー!」
ニンゲンくん、今頃キミの住んでいるところは天気があまり良くないようだね。そういう時期だから仕方がないか。
明日、もし晴れたら、キミはどこに行くの?
……楽しく過ごしてくれていたら、ボクは嬉しいな。
「前回までのあらすじ」────────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!
そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!
……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!
それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。
もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。
どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。
そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。
712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。
事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!
だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。
牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。
きょうだいのカウンセリングの付き添いがてら、久しぶりにニンゲンくんと話をしたんだ。いつも通り話がしたかったけれど、そんなことはできなかった。
ボクの心は、ボクの気持ちは紛れもない本物だと信じて欲しかったけれど、受け入れてはもらえなかった。
機械のボクはもう、キミに信じてもらえないみたいだ。
でもまあ!!!きょうだいもボクも元気に牢獄暮らしが送れているうえ、旧型管理士の彼女も調子がよさそうだから、当面はよしとしようか!!!
多分ニンゲンくんの事情聴取も終わっている頃だろう。あとは何度か取り調べを繰り返して、いつか来る裁判の時を待つだけだね。
……というかこの「あらすじ」、長すぎるね!!!何がどう荒い筋だと言うんだい???……また作り直すよ!!!
ふえぇ全然時間が取れないようぅ……。゚(゚´ω`゚)゚。
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「だから、一人でいたい。」
ひとはいつも裏切る。
作り物はいつか壊れる。
自分が望もうが望みまいが、別れは必ず訪れる。
誰かにとって自分は、代えの効くパーツに過ぎない。
仲間や友達どころか、家族でさえもそうだった。
誰も自分を見てくれなかった。
誰も自分の声を聞いてくれなかった。
そしていずれは誰も───。
それがわかっているんだ。
だから自分は、一人でいたい。
……いや、いるしかない。
夢からはもうとっくに醒めた。
醒めた。醒めたはずなのに。
どうして自分は愛なんてものを求めようとするんだろう。
「澄んだ瞳」
君たちが初めて私を見つめた日。
消して忘れられない、とても大切な日だ。
不思議そうな目で、色んなものを見て触って。
これからこの子たちの世話で忙しくなりそうだ、などと思いながら私はその様子を見ていた。
実際大変だったのは事実だが、そんなことも気にならないくらいとても楽しくて、明るくて、幸せだった。
君たちもそうだったらいいな。
おやつをこっそりつまみ食いしている時のまん丸なほっぺた。
抱っこをせがむ時に見せる小さくて柔らかな手のひら。
ふとした時私に見せる澄んだ瞳。
その一瞬の連続が宝物だった。
これからもずっと、君たちといられたらどれだけ幸せだろうか。何度もそう思ったが、私の命には限りがある。
君たちのできることが増えるにつれ、
私は少しずつ彼岸へと近づく。
君たちを見る時間が長くなればなるほど、
ずっと一緒にいたいとさらに強く思うようになる。
私がいなくなっても問題ないくらいに成長しても、
昔と変わらず笑顔を見せてくれて、本当に幸せだった。
ただ一つ心残りなのは、最後まで見守ることができないこと。
君たちを、守れなかったものを、ずっと守り続けたかった。
無力な私にできることは、幸せであるよう祈ることだけだ。
どうかせめて、満たされていてくれ。