Frieden

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「病室」

ここは白い病室。死を待つ私の最後の空間。

テレビや映画では簡単に余命宣告される登場人物が出てくるが、実際のところ、助かる見込みがない時くらいにしか余命宣告なんてしないらしい。

その余命宣告を受けたのは2ヶ月前。
医師は気の毒そうな、申し訳なさそうな顔で私があと約2ヶ月しか生きられないことを告げた。

私は意外とすんなり受け入れられた。
この身体じゃそう長くは生きられないともう分かっていたから。

……家族も無言で、無表情で聞いていた。
まるで私の命に興味がないかのように。

余命宣告を受けたあと、私を見舞う人はいなかった。
緩和ケアを受けながら家で過ごすことも出来たが、家族に私の弱りきった姿を見せたくなかったから病院にいる。

家族は今、友達は今、どうしているかな。
朝起きて、学校や仕事に行って、誰かと話をして、美味しいスイーツを食べて、流行りの歌を歌って、ふかふかのベッドで眠って。

私のことを忘れて?

……いや、それでいいんだ。
私のことを忘れてしまえるくらい、楽しい生活を送れているなら。

でも、私は少し寂しい。
苦しいのに打つ手もなく、やることもなく、見舞いもない。

みんなは私の死と生に興味がないんだ。

そんなことはいいや。
どうせ死ぬと分かっているなら、せめて出来ることをしよう。

だから私は、みんなに向けて、最後の手紙を書くことにした。

誰に書こう。何を書こう。何を伝えよう。
残された時間はほとんどない。
ひとりでも多くの人に届けなければ。

まずは家族に。ありったけの愛と優しさをありがとう。
次は友達に。あなたたちのたくさんの笑顔と話が大好きでした。

恋人だった人には、突然別れを告げてごめんなさい。
本当はまだ大好きです。でも、私のせいで苦しみを味わってほしくなかったから、別れたいなんて言ってしまいました。

本当はあなたに、みんなに、また会いたかったな。

天国にいるシロへ。もうすぐそっちに会いに行けるよ。猫のくせしてとっても寂しがり屋だったから、すごく心配だったんだ。でもまた会えるから心配いらないね。

やっと、全部書けた。

……こんなこと書いて重かったかな。みんなを苦しめないかな。
でも、ちゃんと届けたいな。
私が残せるのは、これだけだから。

だんだん身体が沈んでいく。
ちょっとずつ色がなくなって、真っ暗になった。
息が、鼓動が弱くなっていく。

徐々に、音も遠くなってきた。
最後に聴覚だけが残るのって、本当だったんだな。
……。

部屋に看護師さんがバタバタと入ってきて、何かしている。
何か話しかけられている気がするけど、内容はわからない。

……そっか、私、もう死んじゃったんだ。
もうちょっとだけでいいから、生きていたかったな。
……。

……。



……。

8/3/2024, 1:05:31 PM