Frieden

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8/1/2024, 9:56:00 AM

「だから、一人でいたい。」

ひとはいつも裏切る。
作り物はいつか壊れる。

自分が望もうが望みまいが、別れは必ず訪れる。

誰かにとって自分は、代えの効くパーツに過ぎない。
仲間や友達どころか、家族でさえもそうだった。

誰も自分を見てくれなかった。
誰も自分の声を聞いてくれなかった。
そしていずれは誰も───。

それがわかっているんだ。
だから自分は、一人でいたい。
……いや、いるしかない。

夢からはもうとっくに醒めた。
醒めた。醒めたはずなのに。

どうして自分は愛なんてものを求めようとするんだろう。

7/31/2024, 10:00:11 AM

「澄んだ瞳」

君たちが初めて私を見つめた日。
消して忘れられない、とても大切な日だ。
不思議そうな目で、色んなものを見て触って。

これからこの子たちの世話で忙しくなりそうだ、などと思いながら私はその様子を見ていた。

実際大変だったのは事実だが、そんなことも気にならないくらいとても楽しくて、明るくて、幸せだった。
君たちもそうだったらいいな。

おやつをこっそりつまみ食いしている時のまん丸なほっぺた。
抱っこをせがむ時に見せる小さくて柔らかな手のひら。
ふとした時私に見せる澄んだ瞳。

その一瞬の連続が宝物だった。

これからもずっと、君たちといられたらどれだけ幸せだろうか。何度もそう思ったが、私の命には限りがある。

君たちのできることが増えるにつれ、
私は少しずつ彼岸へと近づく。

君たちを見る時間が長くなればなるほど、
ずっと一緒にいたいとさらに強く思うようになる。

私がいなくなっても問題ないくらいに成長しても、
昔と変わらず笑顔を見せてくれて、本当に幸せだった。

ただ一つ心残りなのは、最後まで見守ることができないこと。
君たちを、守れなかったものを、ずっと守り続けたかった。
無力な私にできることは、幸せであるよう祈ることだけだ。

どうかせめて、満たされていてくれ。

7/30/2024, 10:18:23 AM

「嵐が来ようとも」

「前回までのあらすじ」────────────────

ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!

調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!

それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!

……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!

そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!

……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!

それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。

もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。

どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。

そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。

712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。

事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!

だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。

牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。

きょうだいのカウンセリングの付き添いがてら、久しぶりにニンゲンくんと話をしたんだ。いつも通り話がしたかったけれど、そんなことはできなかった。

ボクの心は、ボクの気持ちは紛れもない本物だと信じて欲しかったけれど、受け入れてはもらえなかった。
機械のボクはもう、キミに信じてもらえないみたいだ。

でもまあ!!!きょうだいもボクも元気に牢獄暮らしが送れているうえ、旧型管理士の彼女も調子がよさそうだから、当面はよしとしようか!!!

多分ニンゲンくんの事情聴取も終わっている頃だろう。あとは何度か取り調べを繰り返して、いつか来る裁判の時を待つだけだね。

……というかこの「あらすじ」、長すぎるね!!!何がどう荒い筋だと言うんだい???……また作り直すよ!!!
ふえぇ全然時間が取れないようぅ……。゚(゚´ω`゚)゚。

────────────────────────────────

起床時間よりも随分前。ボクはきょうだいに起こされる。
「⬛︎⬛︎ちゃん!⬛︎⬛︎ちゃん!ねー!」
「ん……ちょっと顔をぺちぺちするのやめて……。」

「おきてよー!」「ねーー!」「⬛︎⬛︎ちゃーん!」
「……こんな時間に起きても遊べないよ?それに、良い子はまだ寝ている時間だ。」

「おきてよー……。」「なに……?どうしたのさ?」
「こわいゆめみたのー。」「夢?」「んー。」

泣きそうな顔で小さな兄は話す。
あまりにも不安そうな顔をしていたから、ボクはきょうだいを抱き寄せることにした。

「あのね、あのねっ……。」
「大丈夫。ちゃんと聞いているよ。」「うん……。」
「みんなボクのこときらいになっちゃうゆめ、みたの。」

「おとーしゃんも、⬛︎⬛︎ちゃんも、みんなみんなボクのこと、わるいこ、いらないこ、だめなおにいちゃんだっていうの。」
「それでね、……それで、ねっ、」

「みんな、もういっかい、ごみばこに、すてられたら、いいってねっ……!」
……ついに泣き出してしまった。

「いっぱい、いろんなもの、なげられたのっ。ボクのだいすきなおもちゃも、えほんも、おとーしゃんにもらったぷれぜんとも、いらないものと、いっしょにねっ、なげられたのっ。」

「だいすきなもの、ボクにあたってっ、ぜんぶ、ぜんぶこわれちゃった。たからものが、たからものじゃ、なくなっちゃった、のっ。ぜんぶ、いらないこに、なっちゃっ、たのっ。」

「ボク、とってもいたかった。かなちかった。やめて、っていったのにっ、だれも、たすけてくれなかったのっ。」

「ね、⬛︎⬛︎ちゃん……。ボクのこと、きらい?」
「ボク、もう、いらないこ?」
ひどく怯えた顔でボクに尋ねる。

「⬜︎⬜︎、そんなはずないだろう?お父さんとボクにとってキミは、かけがえのない家族なんだから。何があってもボクはキミが大好きだよ。」

「ほんとに?」
「当然!たとえ嵐が来ようとも、体が指先しか無くなっても、宇宙管理機構を敵に回そうとも、ボクはキミの味方だよ。」

「ほんとに、ほんとだよね?」
見た夢が相当怖かったのだろう。
きょうだいはボクの服の裾を掴んで離さない。

「ほーら!抱っこだ!」「わ!わー!」
「もしキミが嫌いだったら抱っこなんかしないよ?」
兄はボクに体を委ねて、少しずつ落ち着いてきた。

「よしよし。もう大丈夫だよ。」「ん……。」
聞こえたのか聞こえなかったのもわからなかったが、きょうだいはすっかり安心して、寝息をたて始める。

ほら、大丈夫。キミにはボクがついているんだからね。

7/29/2024, 2:33:49 PM

「お祭り」

これは俺が住んでいた村の祭りの話。
毎年7月31日になると山の上の大きい神社で「オトガマ様」っていう神様?を祀る儀式があった。

毎年中高生ぐらいの年齢の少年3人が「トギ(?)」として選ばれて、儀式の1週間前から神社の近くの小屋で「お清め」をする。なんでも、人の多く集まるところには邪気で溢れているんだと。

んで、俺も中2のときトギに選ばれた。
正直俺はこんな時代遅れな儀式に参加したくなかったし、親もそうだった。

だけど、実際参加しないと村社会なのもあって後が色々面倒くさいから、渋々儀式をすることになった。

まぁ、1週間だし、なんかの話のネタにでもなるかもwとか思って軽く構えてた。

儀式に参加するのは俺と部活の先輩と、あとあんまり話したことない、〇〇さんっていう顔見知りの高校生。

「あ、どもっす。」「お前も選ばれたんか。」
「……こんにちは。」
変な沈黙が流れて気まずい。

「あー、先輩はこの儀式のこと、なんか知ってるんすか?」
「マジで何も聞かされてない。何も知らん。」
「俺も何も聞いてないっす。」

「えーっと、〇〇さん(地元にはいっぱいいるけど珍しい名字。特定されたくないから伏字)はなんか聞いてるんすか?」
「ちょっとだけ聞いた。」

「マジすか?ちょっと教えてくださいよ。」
「オトガマ様の儀式の目的みたいなやつ。」
「めちゃめちゃ重要な話じゃないすか!」

「本当は他言無用らしいけど、どうせトギに選ばれたからさ、話してもいいか。」
「オモロい情報あるんすか?」「俺も気になります。」

「えーと……まずオトガマ様っていうのは、超強い怨霊みたいなやつらしい。なんかオトガマ様が人間だった時、濡れ衣で処刑されたんだと。」

「で、オトガマ様の処刑の後から、事故とか変な病気とかで死ぬ人がたくさん出て、それをすごい神主に村人が相談した。」

「そしたら、この霊は強すぎて祓えないから、神として祀りあげて祟りをなくそうってなったわけ。んで、その儀式が今でも続いてる。言うなれば将門信仰みたいなやつ?」

「まあ、俺たちがやることは簡単で、簡単な踊りと髪の毛を1束、オトガマ様のいるお社に納めるだけ。トギの役割を果たしたやつは、この先オトガマ様に守って貰えるんだってよ。」

「へー。なんかすごいっすね。」「なるほど?」

先輩が〇〇さんに聞く。
「でもさ、それなら性別問わずみんなトギをやりゃいいんじゃないんすか?そしたら皆守られるじゃないすか。」

〇〇さんは少し考えた後、こう言った。
「オトガマ様は女と年寄りが嫌いらしい。理由は教えてもらえなかったけど。だから若い男が選ばれるんだって。」

「オトガマ様にも事情があんだなぁ。」
「俺がオトガマ様だったら可愛い女の子連れてきて欲しいけど。」
「先輩、欲まみれっすね……。」

どうでもいい話をしながら夏休みの宿題をしつつ、お清めの時間を過ごした。

肉は食えないし飯の量も少ないしで結構不満だったけど、そこまで悪い時間じゃなかった。

そうこうしているうちに祭りの日を迎えた。
なんとか奉納する踊りも覚えて、準備も整ったし、あとは本番だけだ。

その時までみんなそう思っていた。

村の広場には色んな屋台があって(俺たちは行かせてもらえなかったけど)、りんご飴とか光るビー玉とか、お祭りらしいもので溢れかえっていたらしい。

そんな中、俺らの踊りと儀式を見るために〇〇さんのファン(〇〇さんは結構モテてたらしい)の女の子が女人禁制の言いつけを破ってお社に来た。

儀式中、特に変わったことは無かったけど、その子たちが来たぐらい(多分)から急に空気が重く、というか、暗くなった。

それに気付いた神主さんは真っ青になって、「女がいるのか!」って叫びながら女の子を探し始めた。
俺らも慌てて動こうとするが、なぜか体が動かない。

焦っていたら、祭壇にあった変な木彫りの人形?からモヤモヤしたものが出て行った。俺らは直感的にわかった。多分あのモヤモヤがオトガマ様だってことが。

しばらくすると神主さんが戻ってきて、今度は完璧に顔が青ざめて、というか青を通り越して白っぽくなってた。
「オトガマ様がいない……。」

どういうことか聞いたら、今まで儀式で抑えていたオトガマ様の力が、女の子に見られたことで封印(?)が解かれてここから出て行ったらしい。

一度出て行ってしまったものはもう戻せないし、これからどうなるのかもわからないらしい。

ただ、ひとつだけオトガマ様の力を抑える方法がある。
それは、出来るだけ多くの人にこの話を見てもらって、オトガマ様の呪いを分散させること。

文才もないし、話の拡散なんかできるかも怪しいけど、一人一人が受ける呪いを小さくするには、色んな人に読んでもらわないといけないんだ。

多分今から、これを読んじまったあんたのとこにもオトガマ様が来る。運が悪かったと思って、一緒にこの呪いを背負ってくれよ。
そしたら俺らも長生きできるかもしれないからさ。

7/28/2024, 4:27:41 PM

「誰かのためになるならば」
「神様が舞い降りてきて、こう言った。」(7/26,7/27)

「前回までのあらすじ」────────────────

ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!!!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!!!

調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!!!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!!!

それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!!!悪気の有無はともかく、これ以上の被害を出さないためにもそうせざるを得なかったワケだ!!!

……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにしたら、驚くべきことに!!!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚!!!さらに!!!アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかったのだ!!!

そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!!!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!!!

……とりあえずなんとかなったが!!!ちょっと色々と大ダメージを喰らったよ!!!まず!!!ボクの右腕が吹き飛んだ!!!それはいいんだが!!!ニンゲンくんに怪我を負わせてしまったうえ!!!きょうだいは「倫理」を忘れてしまっていることからかなりのデータが削除されていることもわかった!!!

それから……ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。いつかこの日が来るとわかっていたし、その覚悟もできたつもりでいたよ。でも、その時にようやく分かった。キミにボクを気味悪がるような、拒絶するような、そんな目で見られたら、お覚悟なんて全然できていなかったんだ、ってね。

もうキミに会えるのは、きょうだいが犯した罪の裁判の時が最後かもしれないね。この機械の体じゃ、機械の心じゃ、キミはもうボクを信じてくれないような気がして。

どれだけキミを、キミの星を、キミの宇宙を大切に思ったところで、もうこの思いは届かない。でも、いいんだ。ボクは誰にどう思われようと、すべきこととしたいことをするだけ。ただそれだけさ。

そうそう、整備士くんや捜査官くんの助けもあって、きょうだいは何とか助かったよ。

712兆年もの間ずっと一人ぼっちで、何もかも忘れてしまって、その間に大事な人を亡くした彼は、ただただ泣いていた。ずっと寂しかったよね。今まで助けられなくて、本当にすまなかった。

事情聴取は無事に済んだ!その上、ボクのスペアがきょうだいを苦しめた連中を根こそぎ捕まえてくれたからそれはそれは気分がいい!

だが、実際に罪を犯した以上、きょうだいは裁判の時まで拘留されなければならない!なぜかボクも一緒だが!!
……タダで囚人の気分を味わえるなんてお得だねえ……。

牢獄の中とはいえ、随分久しぶりにふたりの時間を過ごせた。小さな兄が安心して眠る姿を見て、今までずっと研究を、仕事を続けてきて本当によかったと心から思ったよ。

きょうだいのカウンセリングの付き添いがてら、久しぶりにニンゲンくんと話をしたんだ。いつも通り話がしたかったけれど、そんなことはできなかった。

ボクの心は、ボクの気持ちは紛れもない本物だと信じて欲しかったけれど、受け入れてはもらえなかった。
機械のボクはもう、キミに信じてもらえないみたいだ。

でもまあ!!!きょうだいもボクも元気に牢獄暮らしが送れているうえ、旧型管理士の彼女も調子がよさそうだから、当面はよしとしようか!!!

……というかこの「あらすじ」、長すぎるね!!!何がどう荒い筋だと言うんだい???……また作り直すよ!!!
ふえぇ全然時間が取れないようぅ……。゚(゚´ω`゚)゚。

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「誰かのためになるならば」(7/26)

マッドサイエンティストに酷いことを言ってしまった次の日。
あいつの言う通り、事件を捜査しているやつがうちに事情聴取しにきた。

自分は見聞きしたことをそのまま説明した。
せいぜい自分のできることなんかその程度だ。

話を聞きにきた少年───おそらくこいつも機械なんだろう───は、つまらなさそうにメモをとっていた。
つまらなさそうというよりかは、何も感じてないみたいに。

自分は興味本位で、この少年に聞いてみた。
「あんたは、嬉しいとか、悲しいとか思うのか?」
「機械でも、感情を持つなんてあり得るのか?」

そしたらそいつはこう答えた。

「私に感情はプログラムされていないので、その問いには答えかねます。ただし、感情を学習させた機械に関しては、その限りではありません。」

「あなたが思われた通り、私は機械です。業務を効率的に行うために作られた物です。他の機械も同様ですが、感情を持ったものもおります。」

「例えば、しばらくあなたの住まいを拠点としていた公認宇宙管理士『マッドサイエンティスト』。あの管理士は相当精巧に作られています。」

「精巧に……って言われても比較対象がないから正直よくわからないんだよな。あいつはどのくらいしっかり作られてるんだ?」

「そうですね……。宇宙管理機構には機械の他に生命体も少なからずおりますが、生命体のなかにマッドサイエンティストを機械だと思っていなかった者もいるくらい、と言えば分かりますか?」

「そっか。ついでに聞きたいんだけど。」
「なんでしょう。」
「機械は心を持てるのか?」

「自分は、あいつに酷いことを言ってしまったんだ。あいつはよく言ってた。『誰かのためになるならば、ボクはどんなことだってする』って。」

「あいつが本気で、本当にそう思って言ったんだったら、自分は相当酷いことをした。だから、もしできるんだったらちゃんと謝りたい。」

「なるほど……。」
「これは私の見解ですが、おそらくマッドサイエンティストはほとんど生命体に近い心を持っているのでしょう。」

「私はあくまで仕事をするだけで、そこに善悪も倫理も喜びもありません。すべき業務を処理するだけです。」

「もちろん、機械にも表面的に感情を真似することは不可能ではありません。私には本物の感情か、ただ感情データをなぞっているだけなのか判別がつきません。」

「自分は、あいつを庇って腕に怪我をしたんだ。そのあと、箱みたいな所に入れられてさ、そしたら傷が治ってたんだ。」

「傷を治してもらったのに、あいつの腕がなくなったのをみて恐ろしくなって、いや、今までのやりとりが心の通わないものだったのかもしれないと思うと不気味に思えて。」

「気づけば自分はあいつをひどく拒絶してしまった。」
「……そういやそもそも、『本物の感情』ってなんなんだろうな?……というか自分は何言ってんだろう。」

「お悩みの様子ですね。ですが、私には話を聞くことしかできません。事件に関する話であれば処理いたします。」
「いや、こっちから話すことはもうない……と思う。」

「そうですか。本日はありがとうございました。それでは、失礼します。」
「ちょっと待ってくれないか?」

「はい、なんでしょう。」
「あいつは今、どうしてるんだ?」
「重要な情報ですので、答えることができません。」

「……そっか。今日は遠くからわざわざありがとう。」
「いえ、こちらこそ。何かあればご連絡ください。」

そう言って彼は帰って行った。

前に通信した時にあいつが言ってた言葉を思い出す。
「元気かい?」「美味しいものは食べているかい?」
「運動はちゃんとしているかい?」

ずっと自分のことを心配してた。
なのに、「作り物は本物になれない」とか思って、自分はあいつを傷つけたんだ。

次会った時はちゃんと謝らないと。
つまんない意地なんか捨てて、心から謝らないと。

……でも、次に会える時なんて来るんだろうか。
謝れないまま時間だけが過ぎて、気づけばもう二度と会えないのかもしれない。許されないかもしれない。

でも、せめて出来ることはしないと。
そう思って、自分はあいつが置いて行った端末を手に取った。

To be continued…

゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。*⌒*。*゚*⌒*゚*。 

「神様が舞い降りてきて、こう言った。」(7/27)

ここはどこかの繁華街。俺らは学校サボって汚い路地裏で駄弁る。テストダルいとかあいつら別れたらしいとか、夏休みはどこに行くとか、他愛もないことばっかり喋ってた。

「俺も彼女欲しいんだけど。」
「出会い系でも使ったらいんじゃね?性別問わないんだったらパパ活でもするとか。」「それはあかんやつやん!」

「ほらさ〜、そういうアングラな出会いじゃなくて、もっとこう、胸がときめくような、なんつーの?空から女の子が〜!みたいな出会いがいいわけよ!」

「それは夢見すぎじゃね?」
「いやぁ〜、俺だって夢の一つや二つぐらい見たいって!」
「神様とか舞い降りてきて、可愛い子紹介してくんないかな?」

「何言ってんだよ!縁結びの神社でも行けって!」
「えぇ〜、神社とか全然知らんし〜。」
「ggrks……ちょ、お前上!上見ろって!!」

ボケっとしてたが上を見る。
「空から女の子が!」

ふわっとしたダイナー風レストラン?の制服を着た女の子?がこっちを見て何か言いたそうにしてる。
「やあ君たち!こんな時間に何してんの?サボり?」

「え?まぁ。」
「ダメだぞ〜!サボってたら下手したら留年して退学ルートまっしぐらだからねー!」

「なんせ、神様が言うんだから間違いない!」
は?と思ってよく見ると、名札に「神」と書かれてた。
「神様って意外と現代的ですね……?」

「目の付け所がいいね!うちらも社会についてかないと大変じゃん?だからこーやってバイトして現代の街に溶け込んでるわけ!」
「へ、へぇ……。」

「なぁ神様。可愛い子紹介してよ?」
「おい!さすがに失礼だろ?」
「う〜ん、お布施をい〜っぱいくれたら考える!」

お布施かぁ……とか考えてると、上から声がした。
「おい神(ジン)!何やってる?!早く戻れって!」
「げっ、見つかった!」

「なんですかさっきから……?っていうか『神』の読み方『かみ』じゃなくて『じん』なんすね……。」
「うぅ……。」

「というかあんたも仕事サボってたんすか?」
「……ちょっとめんどくさくて2階からロープ垂らして降りてただけだって!」「それをサボりって言うんすよ。」

「とにかく戻った方がいいですって!」
「あ、じゃー君たちもうちの店おいでよ!」
「えぇ……悪質な勧誘……。さすがは神様だ。」

「うちのオムライスめっちゃ美味しいからさ!」
嬉しそうに笑って言う。
「お客様2名入りま〜す!いらっしゃいませ〜!」

正直……神さん超可愛い。めっちゃタイプ。
明日からここ通おう。俺はこっそり決めた。

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