「流れ星に願いを」
きょうも いつもの ように よるの あいさつ を して ねむるために ベッド に はいりました。
ふわふわ で あたたかい のに なぜか ねむれません。
はやく ねないと おおきく なれない って まえに おかあさん が いっていた から はやく ねむらないと。
ですが そう おもえば おもうほど だんだん ねむれなくなって しまいました。
「こまったなぁ……」 わたしは おもわず そう つぶやきました。どうしても ねむれない ので、 わたしは まどの そとを みつめます。
しーん と しずまりかえった まち と たくさん の ほし が きらめく よぞら が ひろがっています。
いまは おほしさま の じかん なので、 わたし いがいの みんなは すっかり ねむっている のが わかりました。
こんなに くらかったら えほんも よめないし、 おえかき も できません。 わたしは どうしたら いいのか わからなく なってしまいました。
もういちど ベッド に もどろうと した とき、 へやの すみっこに みどりいろ の ふわふわ したもの が いました。
「あ!!ひさしぶり だね!! ボク、 キミに また あいたくなった から きちゃったよ!!」
この ふわふわ は まえに みた たのしい ゆめのなか で あそんで ともだち に なった あのこ に ちがい ありません。
「おひさしぶり です!」
わたしも げんきよく あいさつ します。
「キミ、 こんな じかん まで おきて いるのかい?」
「いつもは ねているんだけど、 きょうは ぜんぜん ねむれないの。」
「そうなんだ!! じゃあ、 いっしょに おそら を みようよ!!」
「おそら を?」「うん!!」
「きょう は りゅうせいぐん が みられるんだよ!!」
「りゅうせいぐん って なあに?」
「ながれぼし が たーくさん ながれること だよ!!」
「ほんとに、 たくさん ながれぼし が みえるの?」
「きっとね!!」
「それじゃあ、 たくさん おねがいごと を しなくちゃ!」
「ねがいごと……?」
「しらないの? ながれぼし に おねがいごと を するとね、 かなっちゃうんだよ!」
「そうなんだ!! ボクも なにか ねがい を かなえて もらおうかな!!」
「ふわふわさん にも ねがい が あるの?」
「そりゃ もちろん!! ボクにだって ねがい は あるよ!」
「なになに? おしえて!」「えへへ、 ヒミツだよ〜!!」
わたしたち は よぞら を ながめます。
ですが なかなか ながれぼし は ながれません。
「ねえ、 ふわふわさん。 ほんとうに ながれぼし くるの?」
「もうちょっと まったら ながれる はずだよ!!」
しばらく まちました。
それでも ながれぼし は ながれません。
ほしぞら は きれい ですが、 ずっと みていると なんだか たいくつ です。
「ほんとうに ながれぼし でてくるの?」
「もうすこし まってみようよ!!」
そのときです。
「あ!! ながれぼしだ!!」
「え?! どこ?!」
「あの やまの うえあたり を みてごらんよ!!」
ふわふわに いわれた とおり、 わたしは やまのほう を みつめます。
「あ! ほんとだ!」
すこしずつ、 すこしずつ ながれぼし が ながれます。
「きれい……!」
ふわふわ も うれしそう です。
わたしは たくさん おねがいごと を しました。
みんなと なかよく できます ように。
かぞく で りょこう に いけます ように。
それから……
ボクも 流れ星に願いを込めたよ!!
……また キミに あえますように って、ね!!
きがつくと もう あさ でした。
なにか すてきな ゆめを みたはず なのに、 また おもいだせません。
こんどは ちゃんと おもいだせたらなぁ。
そうおもって、 わたしは あさひ を みつめました。
「ルール」
朝目が覚める。今日も静かだ。目は覚めたものの、まだ眠い。思い切って二度寝でもしようか。
……いや、そんなことをしているのをあいつが見てたとしたら、どう思うだろうか。
「全く!!!キミは輪をかけてねぼすけだなあ!!!」
なんて言ったりするんだろうか。
はぁ、こんなことを考えたって無駄なのに。
ため息をついて、のそのそ起き上がる。やっぱり眠い。
朝ごはんを作る。いつもあいつが作ってくれていたサンドイッチ。いつものようにありあわせを挟んで食べた。
……いつもと変わらない味のはずなのに、そんなに美味しくない気がした。
朝ごはんも済ませたことだし、買い物にでも行くかな。家から出て空を見上げる。晴れとも曇りともつかない中途半端な天気だ。
スーパーまでの道を歩いた。いつもと変わらない、何の変哲もない道。ふと目をやると、住宅街の生垣で躑躅の花が咲いていた。あいつは「ツツジの花は食べられないのかい?!!」なんて言いそうだな。
スーパーに着き、買い物をする。卵、カップ麺、惣菜。……知らないうちにあいつの好物だった桜餅まで手に取っていた。
それにしても、今日はずっとあいつのことばっかり考えてる。「3日で元通りにする」って言われたんだから、こんなに気を揉む必要はないのに。
しかも、あいつと自分の立場は全然違う。あいつが宇宙の管理者だとしたら、自分はただ管理されるだけの立場だ。自分なんかがあれこれ心配したところで、何の意味もないのに。
スーパーで流れる軽快な音楽を聴いているだけでなんとなく寂しくなってしまったから、自分は早々に買い物を済ませて家に戻った。
「ただいま。」誰もいないと分かっているのに挨拶をする。返事はない。
あいつが来る前はこれが普通だったのに、今ではデカい声で「おかえり!!!」って言ってもらえるのを知らず知らずのうちに期待してしまっている。
元々あった「当たり前」を受け入れられない自分がいることに気づいて嫌気がさした。
今日はもうやることを済ませてしまったから、音楽でも聴こうかな。
随分前に買ったCDを手に取る。この曲を聴くのは何年振りだろうか。懐かしい気持ちに浸っているところに、失恋ソングが流れてきた。
ありきたりなコード進行、ありきたりな歌詞。
「あなたがいない人生は太陽のない宇宙みたい」
「凍えた心を抱きしめて深い海に堕ちる」
……こんな曲も入っていたっけか。
何故だか自分でもわからないが、なんとなく慰められたような、孤独を埋められたような、そんな気がした。
全ての曲が流れ終わった部屋に静寂が流れる。
暇になってしまったからか、ふと余計なことが脳裏によぎる。
本当に3日で戻ってくるのか?
本当にいつもと変わらないあいつが戻ってくるのか?
信じて、いいんだよな……?
こんなことを考えるのはやめだ。そろそろ晩御飯の支度でもしよう。
何も考えないでいられるように、わざと手間のかかる料理を作る。キーマカレーとメンチカツにしよう。
作業に集中する。とにかく無心でいなくては。
……ようやく出来上がった。我ながら上出来だ。
初めて作った割には美味い。
……あいつにも食べさせたかったな。
腹を満たしてうつらうつらとしている時に突然呼び鈴が鳴った。こんな時間に誰だ?
少し警戒しつつ扉を開ける。
「こんばんは。夜分遅くに失礼する。本当はもう少し様子見をしたいところだったんだが、どうしても戻りたいって言うから急遽お届けにきたよ。」
「ただいま!!!キミがちゃんとご
飯を食べているか気になったから戻ってきたよ!!!」
あぁ、おかえり。
「反応が薄い!!!薄す
ぎるよ!!!もっと喜びたまえよ!!!」
「あ、そうだ!!!キミにお礼を言うのを忘れてい
たね!!!ボクを元通りにしてくれてどうもありがとう!!!」
「どういたしまして。……と言うか、この人をこんなことに巻き込んでいいのか?トラブルに第三者を巻き込むのはルール違反だったはずだろう?」
「多分……大丈夫だよ!!!ちゃーんと本部にデータも送っているし、定期的にミーティングも行
っているからね!!!それに!!!ここはボクの管轄下だからね!!!ボクがルールみたいなもんさ!!!」
「……それにしても!!!すごくいい匂いがするね!!!カレーと揚げ物かい?!!ボクも食べたいよ〜!!!」
まだちょっと残ってるから……そっちの黄色いひともよければ食べないか?
「ぼくまで頂いてもいいの?どうも、ありがとう。」
「わーい!!!いっただっきまーす!!!」
……あっという間に明るい日常が戻ってきて拍子抜けした。
無事でいてくれて、ありがとう。
「今日の心模様」
〇〇がつ ××にち (△) てんき ☁︎
今日は買い物に行ったよ!
あそこのスーパーは日用品以外にも文房具とかいろんなものが売られているからとても便利だね!
あ、そうそう!この日記帳もそこで買ったんだ!
「余計な物を買うな」ってちょっと怒られたけどね!
……にしても、ニンゲンはこうやって日々の記録を残しているんだね!実に興味深い!ボクも彼らの真似をして、こうやって日記をつけてみようかな!
……えーっと、「きょうのこころもよう」……?何だいそれは?なんだか難しいことを聞かれている気がするね!
今日の心模様か……白とミントグリーンの水玉ってとこかな!!
〇〇がつ ×〇にち (◻︎) てんき☀︎
今日はお花見に行ったよ!天気も良かったから、桜並木はニンゲンでごった返していた!そりゃあこんな絶好の機会を逃すわけないよね!
青い空に桜の花が映えてとても綺麗だったよ!
それに、桜餅は絶品だね!!こんなにうまい食べ物があるなんてボク知らなかったよ!この国のニンゲンは目のつけどころが違うねえ!さすがだよ!また明日も行こうかな!!
きょうのこころもよう: 桜吹雪
〇〇がつ ×△にち (◇) てんき ☀︎
今日もお花見に行ったよ!!昨日に引き続きニンゲンがたくさんいた!こんなにニンゲンを集める力が桜にはあるんだね!すごいなあ!……ただ一つ残念だったのは、桜餅が売り切れだったことかな……。美味しかったんだけどなぁ……。あの和菓子屋さん、近所にあるのかなぁ?ぜひまた食べたいのだが……。
きょうのこころもよう: 桜餅(桜抜き)の色
〇〇がつ 〇◇にち (☆) てんき ☔︎
春は天気が安定しないね!昨日まではあんなに晴れていたというのに今日はすごい雨だ!それにかなり冷えている!寒い!炬燵から出られないや!……というかこんな時期だというのにまだ炬燵が出しっぱなしになっているのって、正直どうなんだろうね!ボクは全然悪くないと思うけれど、季節感が欲しい気がするね!炬燵はともかく、どうしたら季節感が出るだろうか?花菖蒲でも飾ってみるかな〜!
きょうのこころもよう: パステルカラーの雫模様
〇〇がつ △〇にち (〇)てんき ☁︎
今日はオムライスを作ったよ!朝も昼も夜もオムライスだったからちょっと文句を言われたけど、いろんな味変を試したからボクとしてはすごく満足したよ!!文句を言いながらもちゃんと食べてもらえてよかった!
こういうなんでもない一日を、こんな風にゆったりと過ごせたらいいのになぁ。
いつまでも続いてくれたら、どれだけ幸せだろうか。
きょうのこころもよう: 夕焼け色のギンガムチェック
██がつ ██にち (██) てんき ██
████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████
██がつ ██にち (██) てんき ██
████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████
██がつ ██にち (██) てんき ██
████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████ ████████████████████████████
がつ にち( ) てんき
きょうのこころもよう:
「たとえ間違いだったとしても」
あいつが動かなくなってから何日経っただろうか。
好きだった桜餅を近づけたり、勝手に端末を触ってみたりした。
でも、何の反応もない。
……何か自分にできることはないのか?
本当に、このまま黙って見ていることしか出来ないのか?
いや、自分ができることをしなければ。
そう思うのがたとえ間違いだったとしても。
自分はあいつを救いたいんだ。
でも、よくよく考えたら自分はあいつのこと、全然知らない。
ミントグリーンの色したふわふわの髪の毛とか、やかましくてよく通る声とか、表面のことしか知らない。
……それもそうか。
優しく接してくれているから勘違いしていたが、自分はあんたにとって……一サンプルみたいなもんなんだから、そんな簡単に重要なことを教えるような真似はしないよな。
思い上がっていた自分を嘲笑う。ため息が出た。
何も出来やしなかった、こんな自分だ。
今までもこれからも変わらない無力な自分を嘆くくせに変わろうともしない。そのツケが今になってから回ってきた。
呆然と座り込んでいると、あいつの端末が鳴る音が聞こえた。
一縷の希望を込めて、自分は応答した。
「……はい。」
『やっと出たー……っていうか、きみは何者なんだ?』
自分は今までのいきさつを相手に話した。
『なるほどなるほど。それが本当ならえらいことだ。今見にいくからちょっと待ってて。』
通話が切れてしまった。こんな短時間でどうにかなるのか?
などと思っている間もなく呼び鈴が鳴った。早すぎるだろ……。
「……はーい。」
「どうも、こんにちは。色々と厄介事に巻き込んでしまっているみたいで申し訳ない。」
玄関には気怠げな顔した黄色い髪の子どもがいた。
……あいつの色違いみたいだな。
「あんな「ややこしい」のと一緒にしないでよ。」
……当たり前のように心を読まれている。
迂闊に考え事ができないな。
「……で、例のあいつはどこにいるの?」
そこの部屋のベッドにとりあえず寝かせてるんだ。
「……一目見るだけでは原因まで特定できないが、物理的な攻撃を受けたわけではなさそうだね。しゅ……いや、治療にはそこまで時間がかからない、と見た。」
「きみの話を聞く限りだとおそらく、大量の何かを無理矢理押し込まれたんじゃないかな。例えば……感情とか?」
感情を押し込む……なんてことができるのだろうか?
「んまぁ、かなり古い時代に使われたクラッキング技術にそういうのがあったんだよ。今じゃそんな手法、誰も使わないけどね。」
「でも、今眠っているこいつは比較的「感情的」なやつだから、感情を押し込まれると、防衛機構……このバッジが働いてフリーズしてしまうんだ。」
「ニンゲンのきみで例えると、1日にいろんなジャンルの映画をたくさん観た後の状態、とでも言えるかな。」
「……なるほど。これは酷いな。」
そんなに酷い状態なのか……?
「いや、状態はそこまで悪くないよ。叩けば治るくらいには。」
「押し込まれたものの正体がわかったんだよ。これ……このグラフ、分かるかい?そう、これ。押し込まれたのはきみ達が『怨念』と呼んでいるもの、だね。」
「ホラー映画の怨霊もびっくりするくらいの怨念だ。あいつ、未知の存在とやらからそんなに嫌われてたの?全く、何したんだか。」
「とにかく、怨念を取り除くためにこいつを一旦回収するけど、いいよね。」
「安心して。すぐに元通りにするから。」
どのくらいで元に戻るんだ?
「うーん、2年くらいかな。」
「……そんなにかかるのか、って思ったね?わかったよ。3日で治そう。それ以上かかりそうだとこちらが判断したら、改めて連絡を入れるよ。」
「それじゃ、またね。」
自分は彼らを見送り、とにかく安堵した。
気づけばもう夕方も過ぎている。
あいつが無事に戻ってきますように。
自分は一番星に願った。
「雫」
朝目が覚める。今日はやけに静かだ。
いつもならテレビや料理の音、あとあいつのデカい声が聞こえてくるはずなのに。何かあったのか?
少し不安になったので、リビングへと早足で向かう。誰もいない。
テーブルの上には、朝ごはんのサンドイッチとメモが置かれていた。
「おはよう!!!これを読んでいるということはようやっと目が覚めたということだね!!!今日はちょっと家を空けるよ!!!桜餅をたーくさん買って帰りを待っていてくれたまえ!!! ボクより」
珍しいこともあるもんだ。……というか、ここはあんたの家じゃないんだが……。居候のくせに。
ただ少し気がかりなのは、行き先も帰る時間も書いていないということ。念のために、自分は自称マッドサイエンティストに連絡をすることにした。
「あ!!!おはよう!!!何か用かい?!!」
どこにいるんだ?
「あー、え〜っとアレだよ!!!再発行した公認宇宙管理士の認定証を受け取りに行っているのさ!!!」
なるほど。それならいい。
「ちゃ〜んと桜餅を買って待っていてくれたまえよ!!!それじゃあまた……ね。」
……切れてしまった。
まあ、大した用事じゃなさそうだからいいか。
そう思って買い物に出掛けた。
洗剤と、電池と、それから桜餅をありったけ。
買い物もやることも済ませて、掃除やら夕食の準備に取り掛かる。
……にしても、随分と時間がかかるんだな。
もう夕方なのに、あいつはまだ戻ってこない。
もう一回連絡を入れるか。
『これは自動音声だよ!!!』
『ボクに用があるんだね!!!悪いが今は話ができないんだよ!!!悪いがまたあとで連絡をくれるかい?!!それとも留守番電話モードに切り替えるかい??』
留守番電話モードなんてものがあるのか……。
とりあえず一言だけメッセージを残そうか。
「おい、今どこで何やってる?」
……なんとなく違和感がある。
好物の桜餅があるのになかなか帰ってこないうえ、大抵連絡がつくはずなのに、いつもと違ってそれもない。
もしかしたら何かあったのかもしれない。
あいつの端末をこっそり見てみるか。
位置情報は……『未知の存在』が作った空間内を示している。
認定証の受け取りをしに行ったんじゃなかったのかよ。
なんであの空間にいるんだ?
自分はあいつの居場所へと急いだ。
01110011 01110101 01101101 01100001 01101110 01100001 01101001
〜明朝〜
さて、認定証が再発行されたみたいだから受け取らないといけないなぁ!仕方ない、受け取りに行くとするか!!
受け取りの準備をしている途中で、例の空間の質量が増加していることに気づいた。
……ん、待て。これは……?
まさか、何故だい?!!
あの空間を編集する権限はボクにしかないはずだぞ?!!
もしかして、残り僅かの宇宙を吸収してさらなるエネルギーを得たというのかい?!!
かなり古い機械人形が過剰なエネルギーを得ると宇宙規模の大爆発が起こるリスクがさらに高まる!
……仕方ない。ボクがなんとかしなければ!
彼らには悪いが、ボクだけで決着をつけるしかない!
こんな危険なことに巻き込むわけにはいかないからね。
……もしかしたら無事に帰ることもかなわないかもしれない。
それでも、宇宙を守るためならこの身を犠牲にすることも厭わないよ!ボクはそう決めたからね!!!
それじゃあ、行ってくるね。
今まで、ありがとう。キミもちゃんと、幸せになってね。
*.。+o●*.。+o○*.。+o●*.。+o○*.。+o●*.。+o○*.。+o●*+.。o○
「……で、なんでキミがここにいるんだい?」
人手は多い方がいい、と思ってな。
「どうして、ボクがキミに何も言わずにここに来たか、わからないのかい?」
抑揚のない口調だ。
いや、何かあったのかと思って、その……心配になったんだ。だから危険を承知でここに来た。
「……。ボクよりもずっと脆いニンゲンの分際で、なにができるというのだね?」
……。
「わかったのなら早く元いたところに戻りたまえ」
いや、戻るわけにはいかない。あんたをひとりこの場所に置いてはいけない。自分に「誰かに頼ることを覚えろ」って言ったのは、ほかでもないあんただろ?
「全く……いけしゃあしゃあと!」
「予備の装備を持って来ておいてよかったよ。ほら、これ。その赤いボタンを押すだけだよ。」
渡された装備を身につける。言われた通り赤いボタンを押した。本当にこれだけでいいのか?何かが変わったようには思えないが……?
「今度はそっちの青いボタンを押したまえ。そうすれば武器が出てくるはずだよ。」
……小型の銃のような武器が出てきた。
「試しにボクを撃ってみたまえよ。今身につけているそれの強度がわかるはずだ。」
ほ、本当にいいのか……?!かなり恐ろしいと思いつつ銃口を向ける。レーザーが当たったが、かすり傷ひとつつかない。
「今の一発はキミの星が吹き飛ぶほどの威力があるがこの通りだ!……この武器の出番がないことを祈るが……。」
そうだ。聞くのを忘れていた。ここで何が起こっているんだ?
「例の彼女がこの空間内に戻ってきたんだ。そしてここでキミの暮らす宇宙をさらに吸収したんだ。」
「この狭い空間内に膨大なエネルギーが集まるとどうなるかわかるね……?そう、宇宙規模の大爆発のリスクが非常に高くなる。」
「前時点ですでにかなり危険な状態だったのに、さらにエネルギーが加わった。準備が済み次第適切な処理を行うつもりだったが今は最早一刻を争う事態だ。」
「ボク達がすべきことは、この2つだ。彼女を無力化し、宇宙を切り離すこと、だよ。」
「ボクが彼女の内部にあるシステムにアクセスして動きを止め、機能を凍結させる。だからキミは彼女に紐づいたエネルギー源を切り離してくれたまえ。」
「おそらくエネルギー源はこの空間のどこかに複数ある。キミはそれを探して切断するんだ。おそらくこの前のスノードロップの花みたいに、わかりやすい形で存在するだろう。一刻も早く、見つけてくれたまえ。」
自分たちは急いで作業に取り掛かった。
どこにあるのかもわからないエネルギー源を探す。
何か四角い石碑のようなものがある。そこから根っこのようなものが出ている。
……これが宇宙と繋がっているのか?
「よく見つけてくれた!!!それを切り離したまえ!!!ボクの予想ではあと7つある!!!任せたよ!!!」
急に喋られるとびっくりする。
でもいつもの調子が戻ってきたみたいだ。よかった。
その後、すぐに宇宙と繋がる石碑が見つかった。
無事に切り離し終わり、自称マッドサイエンティストの元へ向かう。
「よくやってくれた!!!ボクも彼女の動きを止められたよ!!!さあ、最後に、彼女を回収しようか!!!」
もうすぐ決着がつくのか。
ホッとするような、不安なような。
「油断は禁物だよ!!!」
気を引き締め直して、宇宙を吸収する存在の元へと急ぐ。
「……いたぞ。あれがキミたちの宇宙を吸収した彼女だ。」
「ここはボクに任せたまえ。」
「……やぁ!久しぶりだね!調子はどうだい?」
「……貴方は私に嘘をついた。許すことはできないわ。それに、私が呑み込んだ宇宙まで奪った。どうしてそんなことをするの?」
「どうして、って……。この宇宙はキミのものではない!それにそもそも、ボクはキミの敵じゃないよ!」
「そうやってまた私を油断させるつもりなんでしょう?」
その直後、あいつは固まったかのように動かなくなった。何かが起こったに違いない。
「貴方も私の言う通りになって頂戴?」
「……すまない。」
小さな声で呟いたあと、こう続けた。
「ボクはここまでみたいだ。彼女の言いなりになる前に、キミの手でボクを葬ってくれないかい?」
こっちを向きもせずに、震える声で。
なんで、こんなことに……?
自分はあんたの後ろ姿を見つめることしかできなかった。
あんたの顔の縁から、雫が溢れた気がした。
……もしかしたら、「彼女」を止めたらどうにかなるんじゃないか?何か、なにかできることは?
……この銃についているロープで縛ればやつの動きを止められるかもしれない!とにかくやるしかない!
……それも虚しく、ロープはあっという間に解けてしまった。
「何やってる……?早く逃げたまえよ……。」
自分にできることなんて、何もなかった。
……だが今できることはひとつ。
逃げることだけだ。
自分はあんたを担いで逃げた。意外と重いな……。
……。
なんとか戻れた。
おい、戻れたぞ!
「……。」
反応がない。
おい、どうしたんだよ!桜餅、食べないのか?
「……。」
そのあと、色々試しているうちに、何日も経った。
でもあんたは動かない。
どうしたんだよ。なんで、なんで動かないんだよ。
あんたの端末が鳴っているのが聞こえたが、自分にはそれを確認する余裕すらなかった。
自分があの空間に勝手に行ったからあんなことになったのか?自分がもっと強ければあんたを守れたのか?
こんな静かな暮らし、すごく寂しいよ……。
自分はただただ自分の涙の雫が落ちていくのを見ることしか出来なかった。