「ルール」
朝目が覚める。今日も静かだ。目は覚めたものの、まだ眠い。思い切って二度寝でもしようか。
……いや、そんなことをしているのをあいつが見てたとしたら、どう思うだろうか。
「全く!!!キミは輪をかけてねぼすけだなあ!!!」
なんて言ったりするんだろうか。
はぁ、こんなことを考えたって無駄なのに。
ため息をついて、のそのそ起き上がる。やっぱり眠い。
朝ごはんを作る。いつもあいつが作ってくれていたサンドイッチ。いつものようにありあわせを挟んで食べた。
……いつもと変わらない味のはずなのに、そんなに美味しくない気がした。
朝ごはんも済ませたことだし、買い物にでも行くかな。家から出て空を見上げる。晴れとも曇りともつかない中途半端な天気だ。
スーパーまでの道を歩いた。いつもと変わらない、何の変哲もない道。ふと目をやると、住宅街の生垣で躑躅の花が咲いていた。あいつは「ツツジの花は食べられないのかい?!!」なんて言いそうだな。
スーパーに着き、買い物をする。卵、カップ麺、惣菜。……知らないうちにあいつの好物だった桜餅まで手に取っていた。
それにしても、今日はずっとあいつのことばっかり考えてる。「3日で元通りにする」って言われたんだから、こんなに気を揉む必要はないのに。
しかも、あいつと自分の立場は全然違う。あいつが宇宙の管理者だとしたら、自分はただ管理されるだけの立場だ。自分なんかがあれこれ心配したところで、何の意味もないのに。
スーパーで流れる軽快な音楽を聴いているだけでなんとなく寂しくなってしまったから、自分は早々に買い物を済ませて家に戻った。
「ただいま。」誰もいないと分かっているのに挨拶をする。返事はない。
あいつが来る前はこれが普通だったのに、今ではデカい声で「おかえり!!!」って言ってもらえるのを知らず知らずのうちに期待してしまっている。
元々あった「当たり前」を受け入れられない自分がいることに気づいて嫌気がさした。
今日はもうやることを済ませてしまったから、音楽でも聴こうかな。
随分前に買ったCDを手に取る。この曲を聴くのは何年振りだろうか。懐かしい気持ちに浸っているところに、失恋ソングが流れてきた。
ありきたりなコード進行、ありきたりな歌詞。
「あなたがいない人生は太陽のない宇宙みたい」
「凍えた心を抱きしめて深い海に堕ちる」
……こんな曲も入っていたっけか。
何故だか自分でもわからないが、なんとなく慰められたような、孤独を埋められたような、そんな気がした。
全ての曲が流れ終わった部屋に静寂が流れる。
暇になってしまったからか、ふと余計なことが脳裏によぎる。
本当に3日で戻ってくるのか?
本当にいつもと変わらないあいつが戻ってくるのか?
信じて、いいんだよな……?
こんなことを考えるのはやめだ。そろそろ晩御飯の支度でもしよう。
何も考えないでいられるように、わざと手間のかかる料理を作る。キーマカレーとメンチカツにしよう。
作業に集中する。とにかく無心でいなくては。
……ようやく出来上がった。我ながら上出来だ。
初めて作った割には美味い。
……あいつにも食べさせたかったな。
腹を満たしてうつらうつらとしている時に突然呼び鈴が鳴った。こんな時間に誰だ?
少し警戒しつつ扉を開ける。
「こんばんは。夜分遅くに失礼する。本当はもう少し様子見をしたいところだったんだが、どうしても戻りたいって言うから急遽お届けにきたよ。」
「ただいま!!!キミがちゃんとご
飯を食べているか気になったから戻ってきたよ!!!」
あぁ、おかえり。
「反応が薄い!!!薄す
ぎるよ!!!もっと喜びたまえよ!!!」
「あ、そうだ!!!キミにお礼を言うのを忘れてい
たね!!!ボクを元通りにしてくれてどうもありがとう!!!」
「どういたしまして。……と言うか、この人をこんなことに巻き込んでいいのか?トラブルに第三者を巻き込むのはルール違反だったはずだろう?」
「多分……大丈夫だよ!!!ちゃーんと本部にデータも送っているし、定期的にミーティングも行
っているからね!!!それに!!!ここはボクの管轄下だからね!!!ボクがルールみたいなもんさ!!!」
「……それにしても!!!すごくいい匂いがするね!!!カレーと揚げ物かい?!!ボクも食べたいよ〜!!!」
まだちょっと残ってるから……そっちの黄色いひともよければ食べないか?
「ぼくまで頂いてもいいの?どうも、ありがとう。」
「わーい!!!いっただっきまーす!!!」
……あっという間に明るい日常が戻ってきて拍子抜けした。
無事でいてくれて、ありがとう。
4/25/2024, 10:02:28 AM