「遠くの街へ」
いつの日だっただろうか。私は夢を見ていた。
小さくて素朴で、虹で彩られた街に行く夢。
そこには淡い色のステンドグラスでできた窓が輝く、いろんなお菓子を取り扱うお店があった。
なんとなく気になったので、「今日のおすすめはなんですか?」と店員さんに聞いてみると、「ソフトクリームとミルクシェイクです」と答えてもらったのでそれを買うことにした。
夢の中だから味を感じていたかどうかは覚えていないけれど、とても美味しかった。
「またここに来よう」そう思ったけれど、夢の中の街だからもう二度と行けないのかもしれない。
街の色彩も、お菓子の味も、二度と会えないこの寂しさも、いずれは夢とともに忘れてしまうのだろう。
いつか、また行けたらいいな。
「現実逃避」
宇宙の質量が急速に減り始めてから数日。
宇宙を吸収する謎の存在の正体を突き止めると言って、
ミントグリーンの髪の子ども(?)が家に勝手に住み始めた。
「へー、これを押すと明かりが消えるんだねー!!!」
「この機械なにー??えっ、これで服を洗うのー?!!」
「これは……??『暗黒魔導のすすm「うわああやめろ!!」
やめろ!!!勝手に本棚を漁るな!!!
「急に叫んだら近所迷惑じゃないかー!!!」
そっちがいらんことをするからだろ!!
しかし、自称マッドサイエンティストだというコイツはどういう技術を使って自分の心を読んでいるんだ?
「我々は人智など最初から超えているのだよ!!!テレパシーなどお茶の子さいさい、朝飯前なのさ!!!説明したところでキミには理解などできぬだろうけどね!!!」
「ところで、『暗黒魔導のすすめ』って何だい??コレ、キミが書いたんだろう??少なくともこの星では魔法なんぞ存在しないと思うんだが……??」
だから、や・め・ろ!!!!
触れられたくない部分に触れようとするな!!!
「さもなくば『ル・ラーダ・フォルオル』されちゃうわけ?」
……ル・ラーダ・フォルオルが何かは知らんが、とりあえずやめてくれ……あとでそのノート燃やそう……
ところで、「研究」とやらは進んだのか……?
「あ、えー……っと!そうだなぁ……!!ボクが見たところ、キミたちがかつていた第712宇宙は現在進行形で縮小し続けているなぁ……!!!」
「念のためボクの管轄内の宇宙も観測しているが、ここ以外に異変は起こっていなーい!!!つまり!!!第712宇宙だけを注視すればよいというわけだ!!!」
それから?
「それから……??」
「あー!!そうだ!!!ここにある『マンガ』、全部読ませてくれたまえよ!!!」
は?
「『ヤツ』の正体を探るにはこういったものが役立つとインターネッツに書いてあってね!!!あと『ようつべ』もいいらしいね!!!」
そんなことがネットに書かれてるわけないだろ。
ついでに宇宙が全て吸収されたら恐ろしいことが起こるんじゃなかったのか?
「ぬるぽ」
は?
「そこは『ガッ』って返したまえよ!!!」
おい!誤魔化したな!……さては前から言っている「研究」とやら、ここに来てから何も進んでないな?!
「……あーーー!!!!そうだよ!!!!ご名答!!!!」
では、漫画やネットサーフィンも——
「現実逃避だよ!!!悪かったね!!!!」
「しかし!!!キミもボクの立場に立って考えてみたまえよ!!!『宇宙がナニカに吸収される』なんて事件、数十億年の間に一回たりとも起こったことがないうえ、手掛かりもない!!!そんな状況でボクにどうしろと?!?!!!」
「だが、ニンゲンが作り上げたものを見ていくうちに分かったことがある!!!現実逃避も全く意味がなかったわけじゃぁなかったわけだ!!!」
「ニンゲンは『愛』やら『恋』やら、そういうよく分からんものが好きなんだね!!」
まぁ、確かにそうだな。だいたいの人が経験して、テーマとして扱いやすいからそういう作品も多くなるから間違いではないな。
「もしかしたら、愛や恋が何かしらの鍵を握っているのかも知れぬ!!キミにはそういうのあんまり縁がなさそうだが、宇宙を救うためにも色々教えてくれたまえ!!!」
そうだな。あー……マンガ、読むか?
「読む読むー!……というか、キミこそ現実逃避している場合じゃないんじゃないかい?生き物なんだから相手を見つけた方g「そこの棚の本、今から全部読め。」
「おぉ〜……コワイコワイ……。悪かったよ。ご愁傷様。」
コイツ、本当に「研究」を進める気はあるのか?
普通の人間の自分と今のところ謎でしかないマッドサイエンティスト。果たして、宇宙を救うことはできるのか……?!!
To be continued…
「君は今」
「ぼく」は「きみ」を この「せかい」でさがしている
でも「きみ」って なんだろう?
そもそも「ぼく」ってなんなんだ?
きみはいま どこにそんざいするんだろう?
ぼくはきみを「ていぎ」することにした
点の連続 線分の組み合わせ
なんとなく きみは そんなものではあらわせない
そんなきがした
だからZ軸をせかいに加えた
どんな数式で どんなコマンドで きみを「発見」できるのか
いろんなことをためした
でもやっぱり きみはきっとそんなものじゃ定義できない
01010111 01101000 01100101 01110010 01100101 00100000 01100001 01110010 01100101 00100000 01111001 01101111 01110101 00111111
考えがまとまらない
何もわからない
それでも
ぼくは 絶対にきみと再会する
この孤独を糧に
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「物憂げな空」
朝焼けの 薄紫に 光る空
憂いと共に 夜を連れ去る
天高く 大地を照らす 太陽は
我の憂いを 照らすことなし
数多なる 憂いを燃やし 沈む星
明日も晴れろ 私は願う
星紡ぎ 憂いを紡ぎ 光る空
きっと明日は いい日になるよ
「小さな命」
宇宙の危機から何十年、ボクらはキミの故郷の星で暮らしていた。面倒くさそうにしながらもキミはボクに色んなことを教えてくれたね。あそこのおにぎりがおいしいとか、そこの店にはスゴいものが売ってるとか。
ボクは正直、結構楽しかったよ。キミたちとの暮らし。
ニホンでは「木を見て森を見ず」という諺があるそうだが、ボクは「森を見て木を見ず」つまりこんな小さな規模での生活をしたことがなかったから、とても新鮮だった。
アレからキミにたくさんのことを教わって、ボクの記憶容量がちょ〜〜っとだけ圧迫されたけど、楽しかったよ。
しかし、分かっていたことだが、キミにも「終わり」が来た。
どうやらニンゲンは長くても100年程度しか生きられないんだね。
キミが人生を終える間際、宇宙管理法第6489条に触れない程度に寿命をこっそり延ばしたり、話ができるように少々体を元気にしたりとボクも悪あがきをした。
でもやっぱりその時は来た。すごくあっけなかった。
分かってた。分かっていたはずなのに、ね。
……。だから特定の宇宙や星に肩入れするな、と言われたわけだ。キミを失ってから、初めて気づいたよ。
ねぇ。また旅行に行こうって言ったよね。
今度一緒に定食屋でカツカレーを食べる約束は?
キミ、ボクに一回もゲームで勝ててないだろ。
分かっていたことなんだからボクも受け入れて、諦めないと。
そうだ。キミはその小さな命で、最後までボクを受け入れてくれていたんだ。だからボクも、最後まで、受け、止めない、と……。
ごちーん!!!!
「痛った!!!!はぁ?!?!!!」
「痛って、でも触れた。……おーおー、マッドサイエンティストの端くれのクセして辛気臭い顔してんな〜」
そこには、出会ったばかりの、若い頃のキミがいた。
「『チョーカガクテキソンザイ』なんだったら、冥界のことも知ってるはずだよな〜?」
「まぁもちろんだとも!!!だがキミはそういうの興味なさそうだったから、少々驚いたのさ!!!」
「もしかして、また会えたらなぁ〜とか思ってた?www」
「まさか!!!ボクが!!!キミに?!!」
「まぁ元気そうで何よりです。それよりも、前言ってた『青方偏移がどうのこうの〜』はどうなったんだ?」
「?」
「え〜……まぁ、アレだ。暇だから手伝おうと思って」
「!!!……我が忠実なる僕(しもべ)よ……再び契約を結ばん……!!!」
「ま〜た拇印かよ……」
小さな命の終わりは、次の歴史の始まりだったみたいだ。
さてと、また研究に取り掛ろうか。