本棚の隙間

Open App
4/13/2024, 11:35:42 AM

───快晴駅、快晴駅です。お出口は右側。戻りの電車は反対ホーム4.9番線各駅停車俗世行きをご利用ください。次は彼岸、彼岸駅です。

ここは、快晴駅という場所らしい。
自分の知る限り、そんな駅名は存在しない。ならばここはどこなのだろうか?

駅のホーム内に、自分以外の人がいない。
電車が行ったホームはしんっと静まり返り、ただ澄んだ空が見えるだけだった。

暑くも寒くもない場所。人どころか虫や鳥もいない。うっかり居眠りをしてしまったためにこんなところに来る羽目になった。

当然、スマホは圏外。Wi-Fiもない。反対ホーム4.9番線に戻るための電車があるらしいが自分は少し考えていた。

少しだけここに残ってみようか──と。

4/12/2024, 11:39:56 PM

澄んだ青空に手を伸ばしても、君のいるところには届かない。
名前を呼んでも、返事はない。
朝目覚めるたび、どこにいても君の面影がちらついている。
もう、涙は出ないけれど、寂しく思う春爛漫。
だから、この想いを君に届くように、手紙に綴る。
君の好きな桜の便箋に、たくさんの想いを綴るよ。
遠くの空へ行ってしまった君は、私にとって特別でした。
君は私のことをどう思っていたのでしょうか?友達でしょうか?親友でしょうか?
君のいない世界なんて、想像していませんでした。
私の横でずっと笑っていると思っていました。
咲き誇る桜を1人で見ると君を思い出し寂しく思います。
1人で帰る道にも君の面影がチラついているほどに。
この気持ちを君に伝えても困った顔で笑うでしょう。
ただ1言───愛していました。

11/11/2023, 11:07:54 AM

かつて天使だった頃の話。
人間が好きだった。どうしょうもなく。
こっそりと人間の世界を覗いていた。
そんなある日一人の男に一目惚れした。
どうしても俺はあの男の元へ行きたいと強く願った。
たとえ禁忌だとしても。
至上は怒りに満ち、象徴でもある羽を天から降り注ぐ稲妻によって焼かれた。
片翼はジリジリと燃え、激痛が走った。歯を食いしばり耐え抜く俺を、至上は冷たい眼で見つめていた。
片翼が燃え朽ちたあと、もう1つの羽根は使えぬよう上司によって切られた。
ただそこに残っている無様な羽根を皆はクスクスと笑っていた。
その後、罰として俺は地上に落とされた。
飛べぬ無様な羽根を持った元天使として。堕天した。

二度とあんな場所に帰るかと口に出した。純粋無垢な天使ほど性格が悪い。ちっとも自分が悪いと思ってもいないからだ。
人間の生活は大変だった。労働、食事、睡眠などエトセトラ。時間が足りない、体も命も足りない。けどとても楽しかった。

お前と出会ったから。

それなのに何故お前は動かない?
腕の中にいるお前はどうして冷たくなっていく?
撃たれたからか?言っていただろ、筋肉があるから大丈夫って。馬鹿にしてたけどお前なら大丈夫だって思ってた。
ちっとも大丈夫じゃなかった。嘘つき。

「お願い、します。どうかこの人間を助けてください。俺は罪を犯しました」
廃墟の教会に声が響く。
「けれどこの男に罪はありません。俺のせいです。どうかお願いします。この男の命を助けてください」
声は虚しくも静寂にとけ、ただ啜り泣く声だけが響いた。
「神頼みだなんて死んても嫌だって思ってた。だけどこの男のためなら何でもする。なぁ、頼むよ。俺の命なんていらないからこいつだけは助けてくれ。無様な天使を嗤ってくれていいからさぁ!」
バサリと包み隠していた無様な羽根を広げる。月明かりに照らされた羽根は無様なりにもその瞬間だけは美しく本来の輝きを取り戻したように見えた。
しかし未だに激痛が襲う羽根は力なく地に擦るかたちで落ちてしまった。
「無様だけどお前の力になるよ」
腕の中で眠る男にそっと口づけをする。
「今日のご飯はからあげがいいな」

男が目覚めると見知らぬ教会にいた。
傍らには灰色に染まった羽根が落ちている。
羽根をとると懐かしい匂いがして涙が頬を伝った

【無様な天使を嗤ってくれ】B,L

6/16/2023, 9:41:43 AM

『好きな本(中の人の好み)』

森絵都先生の「カラフル」と神永学先生の「心霊探偵八雲」です。

カラフルは死んでしまった魂が別の人間の体にホームステイして自分の罪を思い出すみたいな話だった。

心霊探偵八雲は幽霊の見える青年八雲が事件解決していく話。

ざっくり紹介しちゃったけどめちゃくちゃおすすめです!

6/6/2023, 3:52:49 AM

夏休み明け、街は少し異様な雰囲気を帯びていた。
「ご協力お願いします!」
駅前で40代くらいの女性と50代くらいの男性が必死にチラシを配っていた。
「お願いします。幼なじみなんです」
横からチラシを差し出す自分と同い年ぐらいの女の子が立っていた。少しやつれ、目の下にくまが浮かび上がっていた。
私は受け取ると軽く会釈し商店街へ向けて歩いていく。
「ミチ!」
後ろから肩を叩かれ向くとそこには同じクラスの陽子が立っていた。
「さっき駅前のチラシもらってたでしょ?まだ必死に探してるんだね」
「そうみたい。幼なじみだって言ってた。あの子少し痩せていたね……」
「そうなんだー」
8月──1人の男子大学生が行方不明になった。
名前は山中ユウキ。友人と山に出かけたあと行方不明になったらしい。
その後警察が捜査していたけど、何故かすぐに打ち切られ家族だけが今も探している。
「でもどこに行っちゃったんだろうね?」
「え、なにが?」
「だーかーら、行方不明の人!」
あぁとつぶやき少し考える。
「さぁ、わからない」
「だよねー。そういえば、また小学校のニワトリがいなくなったんだって!」
返答に興味がなくなった陽子は別の話をしはじめ、別れるまで行方不明の話は出なかった。

『あなたに秘密はありますか?』
ふとショーケースの中にあるテレビから聞こえてきた。
ぼーっとそのテレビを見ていた。へそくりがある人、奥さんに内緒でキャバクラに行った人、借金がある人などいろんな秘密が出てきていた。
私の秘密。確かにそれは人には言えないことだ。
家の近くにあるコンビニへよりお茶とカルボナーラを買って家路についた。

カリ、カリっと部屋の奥から引っ掻き音が聴こえる。
カルボナーラを温めつつ、ラジオを流す。懐かしい曲が流れていた。
私の好きな人がよく聞いていた曲だ。恋愛曲を歌うバンドだ。
私は苦手だったけど、彼が聴くのならと思いを私も聴いた。
チン!とカルボナーラが温まり、席について手を合わせた。
「あ、ご飯忘れてた」
もう一度立ち上がり、シンク下に入っているクーラーボックスの中から死んだニワトリを取り出す。
部屋の奥に進み、リビングの横にある扉の前にくる。中から「ううううう」と獣のような唸りが聞こえる。
「あー、ちょっと臭うな……。まーいっか」
ドアを開けると部屋の奥隅に人影が見える。
この人は私の愛しい人。
「ユウキさん、ご飯持ってきたよ」
そう声をかけるとドタドタと這いつくばってニワトリに貪りつく。
バキバキと音を立てて骨を砕き、滴る血を啜る。
「いつか、私もそんなふうに食べてしまうのかな?」
なんて言葉をかけてもユウキはこちらを見ることなくニワトリを食べ続けていた。
この人はもう人間ではない。

あの日山に私も行っていた。ストーカーと言うやつだ。わかっている。
ユウキとユウキの男の友人と女の子二人で山に登っていた。
山頂まで登り終えると無事下山していた。ここまでは良かった。
友人たちが悪ふざけでユウキを置き去りに車を走らせて行ってしまった。
文句をユウキはどこかに電話をしまた山の方へ向かっていった。その後を追った私だが彼を途中で見失ってしまった。
仕方なく下山した私は彼の友人たちが戻っていることに気づいた。彼らは私を見るとユウキを知らないかと写真を見せて聞いてきた。
多分彼だと思うといい上を指す。
彼らはすぐに山の入り口へ戻っていた。
最終的に彼を見つけたのは私だった。

早朝もう一度彼を見失った場所から探していった。
上に行ったり崖の下を覗いたり探していった。山頂近かく雑木林の中に彼は横たわっていた。
見るからに彼は亡くなっていた。私は怖くなりその場から逃げてしまった。
彼が亡くなったこと、そして事故ではないことがわかった。
首元には締められたような跡があったからだ。ホテルに戻った私は逃げてしまったことを後悔しもう一度深夜に彼のもとに行ってみることにした。
そこにはもう誰もいなかった。ただ鼻をつく悪臭が漂っていた。臭いを頼りに辿っていく。
ガサガサと物音がした。そこにいたのは死んだはずのユウキだった。
鹿の首に噛みつきジュルジュルと血を啜っていた。
私は何が起きたのかわからずその場にへたり込んでしまった。
その後はよく覚えていない。気がついたら彼を家に連れ帰っていた。
食われるかもしれないリスクを負いながらも私は彼を見捨てることができなかった。

「ずっとは無理でも入れるまで一緒にいてね」
人間性のない彼に言っても届かないのはわかってる。言わずにはいられないのが恋と言うものだろうか。
「蜉ゥ縺代※縲∬ィア縺輔↑縺??√≠縺?▽」
食事を終えたユウキは時折喋ることがある。だが言語として成り立っておらず、私には理解できない。
それでも私は一緒にいる。私の秘密はゾンビになった好きな人と暮らしてること。
その人は誰かに殺されたこと。行方不明の男子大学生であること。
誰にも言えない秘密だ。
そして私は彼をこんな目にした人を許さない。
私は彼の頭をひと撫でし、部屋をあとにする。

【宵闇ララバイ】

Next