本棚の隙間

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夏休み明け、街は少し異様な雰囲気を帯びていた。
「ご協力お願いします!」
駅前で40代くらいの女性と50代くらいの男性が必死にチラシを配っていた。
「お願いします。幼なじみなんです」
横からチラシを差し出す自分と同い年ぐらいの女の子が立っていた。少しやつれ、目の下にくまが浮かび上がっていた。
私は受け取ると軽く会釈し商店街へ向けて歩いていく。
「ミチ!」
後ろから肩を叩かれ向くとそこには同じクラスの陽子が立っていた。
「さっき駅前のチラシもらってたでしょ?まだ必死に探してるんだね」
「そうみたい。幼なじみだって言ってた。あの子少し痩せていたね……」
「そうなんだー」
8月──1人の男子大学生が行方不明になった。
名前は山中ユウキ。友人と山に出かけたあと行方不明になったらしい。
その後警察が捜査していたけど、何故かすぐに打ち切られ家族だけが今も探している。
「でもどこに行っちゃったんだろうね?」
「え、なにが?」
「だーかーら、行方不明の人!」
あぁとつぶやき少し考える。
「さぁ、わからない」
「だよねー。そういえば、また小学校のニワトリがいなくなったんだって!」
返答に興味がなくなった陽子は別の話をしはじめ、別れるまで行方不明の話は出なかった。

『あなたに秘密はありますか?』
ふとショーケースの中にあるテレビから聞こえてきた。
ぼーっとそのテレビを見ていた。へそくりがある人、奥さんに内緒でキャバクラに行った人、借金がある人などいろんな秘密が出てきていた。
私の秘密。確かにそれは人には言えないことだ。
家の近くにあるコンビニへよりお茶とカルボナーラを買って家路についた。

カリ、カリっと部屋の奥から引っ掻き音が聴こえる。
カルボナーラを温めつつ、ラジオを流す。懐かしい曲が流れていた。
私の好きな人がよく聞いていた曲だ。恋愛曲を歌うバンドだ。
私は苦手だったけど、彼が聴くのならと思いを私も聴いた。
チン!とカルボナーラが温まり、席について手を合わせた。
「あ、ご飯忘れてた」
もう一度立ち上がり、シンク下に入っているクーラーボックスの中から死んだニワトリを取り出す。
部屋の奥に進み、リビングの横にある扉の前にくる。中から「ううううう」と獣のような唸りが聞こえる。
「あー、ちょっと臭うな……。まーいっか」
ドアを開けると部屋の奥隅に人影が見える。
この人は私の愛しい人。
「ユウキさん、ご飯持ってきたよ」
そう声をかけるとドタドタと這いつくばってニワトリに貪りつく。
バキバキと音を立てて骨を砕き、滴る血を啜る。
「いつか、私もそんなふうに食べてしまうのかな?」
なんて言葉をかけてもユウキはこちらを見ることなくニワトリを食べ続けていた。
この人はもう人間ではない。

あの日山に私も行っていた。ストーカーと言うやつだ。わかっている。
ユウキとユウキの男の友人と女の子二人で山に登っていた。
山頂まで登り終えると無事下山していた。ここまでは良かった。
友人たちが悪ふざけでユウキを置き去りに車を走らせて行ってしまった。
文句をユウキはどこかに電話をしまた山の方へ向かっていった。その後を追った私だが彼を途中で見失ってしまった。
仕方なく下山した私は彼の友人たちが戻っていることに気づいた。彼らは私を見るとユウキを知らないかと写真を見せて聞いてきた。
多分彼だと思うといい上を指す。
彼らはすぐに山の入り口へ戻っていた。
最終的に彼を見つけたのは私だった。

早朝もう一度彼を見失った場所から探していった。
上に行ったり崖の下を覗いたり探していった。山頂近かく雑木林の中に彼は横たわっていた。
見るからに彼は亡くなっていた。私は怖くなりその場から逃げてしまった。
彼が亡くなったこと、そして事故ではないことがわかった。
首元には締められたような跡があったからだ。ホテルに戻った私は逃げてしまったことを後悔しもう一度深夜に彼のもとに行ってみることにした。
そこにはもう誰もいなかった。ただ鼻をつく悪臭が漂っていた。臭いを頼りに辿っていく。
ガサガサと物音がした。そこにいたのは死んだはずのユウキだった。
鹿の首に噛みつきジュルジュルと血を啜っていた。
私は何が起きたのかわからずその場にへたり込んでしまった。
その後はよく覚えていない。気がついたら彼を家に連れ帰っていた。
食われるかもしれないリスクを負いながらも私は彼を見捨てることができなかった。

「ずっとは無理でも入れるまで一緒にいてね」
人間性のない彼に言っても届かないのはわかってる。言わずにはいられないのが恋と言うものだろうか。
「蜉ゥ縺代※縲∬ィア縺輔↑縺??√≠縺?▽」
食事を終えたユウキは時折喋ることがある。だが言語として成り立っておらず、私には理解できない。
それでも私は一緒にいる。私の秘密はゾンビになった好きな人と暮らしてること。
その人は誰かに殺されたこと。行方不明の男子大学生であること。
誰にも言えない秘密だ。
そして私は彼をこんな目にした人を許さない。
私は彼の頭をひと撫でし、部屋をあとにする。

【宵闇ララバイ】

6/6/2023, 3:52:49 AM