本棚の隙間

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かつて天使だった頃の話。
人間が好きだった。どうしょうもなく。
こっそりと人間の世界を覗いていた。
そんなある日一人の男に一目惚れした。
どうしても俺はあの男の元へ行きたいと強く願った。
たとえ禁忌だとしても。
至上は怒りに満ち、象徴でもある羽を天から降り注ぐ稲妻によって焼かれた。
片翼はジリジリと燃え、激痛が走った。歯を食いしばり耐え抜く俺を、至上は冷たい眼で見つめていた。
片翼が燃え朽ちたあと、もう1つの羽根は使えぬよう上司によって切られた。
ただそこに残っている無様な羽根を皆はクスクスと笑っていた。
その後、罰として俺は地上に落とされた。
飛べぬ無様な羽根を持った元天使として。堕天した。

二度とあんな場所に帰るかと口に出した。純粋無垢な天使ほど性格が悪い。ちっとも自分が悪いと思ってもいないからだ。
人間の生活は大変だった。労働、食事、睡眠などエトセトラ。時間が足りない、体も命も足りない。けどとても楽しかった。

お前と出会ったから。

それなのに何故お前は動かない?
腕の中にいるお前はどうして冷たくなっていく?
撃たれたからか?言っていただろ、筋肉があるから大丈夫って。馬鹿にしてたけどお前なら大丈夫だって思ってた。
ちっとも大丈夫じゃなかった。嘘つき。

「お願い、します。どうかこの人間を助けてください。俺は罪を犯しました」
廃墟の教会に声が響く。
「けれどこの男に罪はありません。俺のせいです。どうかお願いします。この男の命を助けてください」
声は虚しくも静寂にとけ、ただ啜り泣く声だけが響いた。
「神頼みだなんて死んても嫌だって思ってた。だけどこの男のためなら何でもする。なぁ、頼むよ。俺の命なんていらないからこいつだけは助けてくれ。無様な天使を嗤ってくれていいからさぁ!」
バサリと包み隠していた無様な羽根を広げる。月明かりに照らされた羽根は無様なりにもその瞬間だけは美しく本来の輝きを取り戻したように見えた。
しかし未だに激痛が襲う羽根は力なく地に擦るかたちで落ちてしまった。
「無様だけどお前の力になるよ」
腕の中で眠る男にそっと口づけをする。
「今日のご飯はからあげがいいな」

男が目覚めると見知らぬ教会にいた。
傍らには灰色に染まった羽根が落ちている。
羽根をとると懐かしい匂いがして涙が頬を伝った

【無様な天使を嗤ってくれ】B,L

11/11/2023, 11:07:54 AM