じゃんけんで勝った。隠れることにした。
歩いて走って、その先で草いきれの匂いを大きく吸い込んだ。
格好の場所を見つけたから、そこに身を隠した。
見つからないように、見つけられるのを待っていた。見つかりたくなかった。
果たして、見つかることはなかった。
自らの半身であるその子は、いつも半透明の向こうに佇んでいる。であるので、顔を見たことがない。見ようとしたこともない、そうあるべきなので。
自分がその顔を見る時は、きっと、自分を手放したときだけ。
ので、風に揺れる半透明に近付くことなく踵を返した。
何色にも染まるあなたを、自分の色にだけは染めたくなかった。
ひとつの色だけがないところで、何も問題はなかった。
あなたはきっと、黒がとてもよく似合うから。
ゆうやけこやけで日が暮れる。
そんな歌を口ずさみながら、あなたは私の隣を歩く。
少し外れた音、間違えた歌詞、最後のほうは覚えていなくて、声はそのまま消え入った。それを惜しいと思わないくらいには、私の居場所はあなたの隣だった。
夕日がうんと傾いて、あなたの顔が翳っていく。それが帰路の終わりの合図であることを知っているから、私たちは短い言葉を交わして背中を向けた。
別れがたくはなかった。だって明日も会えるから。
私の居場所が、明日も訪れることを知っているから。
明日の居場所が無かったのは、そんな惨めな傲慢のせい。
夕日は今日も綺麗なまま。
私の居場所は、今日もどこかに消えたまま。
⸺ふ、と。
あなたが離れていく。
先ほどまで触れていた唇はほのかにあたたかくて、あなたの体温が確かにそこにあったことを肯定している。
名残惜しさなんて微塵もなく離れたあなたの目は確かに私を捉えていて、その目を覗く私がひたすらに醜いものに思われた。
きれいなあなたを穢らわしいものにしてしまったような気がして、無意識に言葉を紡いでいた。
あなたは驚いたような目をして、それから優しく微笑んで、それから、それから。
そうしてもう二度と、あなたの目を見ることはなかった。