◎手を繋いで
#55
伸びてくる手を払い除ける。
腕を、足を、首を、
握ろうとしてくる沢山の手を振り払って
がむしゃらに走った。
『■■■■■■、■■■■■』
聞こえないふりをする。
耳を傾けてはいけない。
意味ある言葉だと認識してしまえば
逃れられない。
逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて逃
『手を繋いでよ、お兄ちゃん』
人の形になれなかった
"きょうだい"たちが手を掴む。
も う 逃 げ ら れ な い 。
◎どこ?
#54
人々は探す。
宝の在り処を。誇りの価値を。
想いの名残を。誰かの記憶を。
時には迷いながら、
果てなき問いの答えを探す。
探し求める答えがある場所の名前すら
知らずに。
何のために探しているかも忘れて。
水底の闇を這いずり回るのだ。
無知のまま、盲目的に。
終わらぬ輪廻に囚われている。
◎叶わぬ夢
#53
「宝石様は夢はお持ちですか」
そう話しかけると彼女はうっとりとした表情になって、机の天板をするりと撫でた。
質素な部屋の中央で向き合っているだけでも息が詰まるような美を宿す少女の、その宝石の瞳は国王の所有物だ。
「海に、行きたいの……」
故に、その夢は叶うことはない。
先代の王ならまだ可能性はあっただろうが、今では我欲の強いかつての第二王子が国の権利者なのだ。
少女を憐れに思っても、一介のお世話係には為す術はない。
「宝石様。それは──」
「えぇ、わかっているわ」
そう言って微笑む宝石はきらきらと輝いている。
「でもね」
宝石は耳元に顔を寄せた。
「体は何処へも行けなくても、心はずっと別の場所にあるの。海と、貴女のもとに」
耳を赤くしてはにかむ彼女は
年頃のただの人間だった。
◎魔法
#52
ある旅人は街から街へ渡り歩き、
国から国へ渡る。
行く先々で手品を見せて投げ銭を請い、
その金で次の場所へ行く。
ひとところには留まらず、
誰とも深い縁を結ばずに流れ、揺蕩う。
今回も一人で
さっさと出ていくはずだった。
「すごい!魔法みたい!」
練習中に聞こえた、みすぼらしい子どもの喜ぶ声がどうも心を惹いた。
普段なら金の無い者は相手にもしないのに気付けば多種多様な手品を見せてあげていた。
「……なぁ、少年。私とどこかで会ったことがあるかな」
「んー?無いよ?」
きょとんとした表情をする少年からは
やはり既視感が拭えない。
「両親はご健在かな?」
「ずっと独りだよ」
「家はあるかい?友達は、いるかい?」
「家は無いけど、友達ならいるよ。ほら、ネズミのジャックだよ」
『ちゅー』
天涯孤独というやつらしいその子は
それでも幸せそうだった。
「少年、私と来ないか」
思わず放ったその言葉に自分でも驚いた。
少年はもっと驚いた。
「魔法使いさんと、一緒に?いいの?」
「魔法使いでは無いんだけれどね」
笑顔の魔法に捕まった旅人は、
唯一の縁を抱えて進み始めた。
◎君と見た虹
#51
「虹の下には宝物が埋まってるんだって」
「違うよ、死体が埋まってるんだよ」
「宝物だよ!」
「死体だよ!」
「じゃあ、確かめてやろう」
「そうしよう」
「「本当に虹の下に着いちゃった……」」
さて、何が埋まってるのでしょうか。
そもそも、虹は蜃気楼のようなもの。
追いつけた"それ"は本当に虹なのでしょうか。