案山子のあぶく

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◎魔法
#52

ある旅人は街から街へ渡り歩き、
国から国へ渡る。

行く先々で手品を見せて投げ銭を請い、
その金で次の場所へ行く。

ひとところには留まらず、
誰とも深い縁を結ばずに流れ、揺蕩う。

今回も一人で
さっさと出ていくはずだった。

「すごい!魔法みたい!」

練習中に聞こえた、みすぼらしい子どもの喜ぶ声がどうも心を惹いた。
普段なら金の無い者は相手にもしないのに気付けば多種多様な手品を見せてあげていた。

「……なぁ、少年。私とどこかで会ったことがあるかな」
「んー?無いよ?」

きょとんとした表情をする少年からは
やはり既視感が拭えない。

「両親はご健在かな?」
「ずっと独りだよ」
「家はあるかい?友達は、いるかい?」
「家は無いけど、友達ならいるよ。ほら、ネズミのジャックだよ」
『ちゅー』

天涯孤独というやつらしいその子は
それでも幸せそうだった。

「少年、私と来ないか」

思わず放ったその言葉に自分でも驚いた。
少年はもっと驚いた。

「魔法使いさんと、一緒に?いいの?」
「魔法使いでは無いんだけれどね」

笑顔満開の少年を眺めながら、
この先の路銀稼ぎはもっと頑張る必要がありそうだ、と道連れを得た旅人は覚悟を決めた。

2/24/2025, 9:43:24 AM