◎叶わぬ夢
#53
「宝石様は夢はお持ちですか」
そう話しかけると彼女はうっとりとした表情になって、机の天板をするりと撫でた。
質素な部屋の中央で向き合っているだけでも息が詰まるような美を宿す少女の、その宝石の瞳は国王の所有物だ。
「海に、行きたいの……」
故に、その夢は叶うことはない。
先代の王ならまだ可能性はあっただろうが、今では我欲の強いかつての第二王子が国の権利者なのだ。
少女を憐れに思っても、一介のお世話係には為す術はない。
「宝石様。それは──」
「えぇ、わかっているわ」
そう言って微笑む宝石はきらきらと輝いている。
「でもね」
宝石は耳元に顔を寄せた。
「体は何処へも行けなくても、心はずっと別の場所にあるの。海と、貴女のもとに」
耳を赤くしてはにかむ彼女は
年頃のただの人間だった。
3/17/2025, 10:07:41 PM