◎ひそかな想い
#50
いいか?
今から俺たちは密かに行動しなければならない。つまり、隠密行動だ。
おい、そこ。ワクワクするんじゃない!
"隠密"なんだ。わかるな?
NO!違う!ニンジャじゃない!
あー……ん゛ん゛っ
この手紙を見ろ。
小さなハートのシールが貼ってある。
そうだ。ラブレターだ。
これを!
俺たちは相手に気付かれる前に、
処分する。
処分するんだ。いいか、処分だ。
絶対に、送り届けるんじゃないぞ。
雇い人はこれを今は渡す気は無いんだ。
いつかその時は訪れるだろうが……。
ともかく!
彼女はまだ心の準備期間にいるんだ。
俺たちはそれを尊重しなければならない。
さあ、持ち場にかかれ。
仕事の時間だ。
あぁ、待て待て待て。
コードネーム"ブレーメン"!
おい、"ブレーメン"!
あーもう!"ブレーメン"!
お前の出番は今回はないんだ。
大人しくしててくれ。何もするな。
アンタは隠密に一番むいてないんだから。
ハイ、戻って戻って。
………………
……はぁ。
………………
あーーー、こんな職場もう嫌だぁ!!!
手紙なんて
さっさと手渡して勝手に結ばれてろ!!
お似合い奥手カップルめ!!!
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海外作品の吹き替えの
マシンガントーク&ツッコミを
思い浮かべながら読んでみてくだちい。
◎あなたは誰
#49
誰といわれましても、
ちょいと前にリセットされちまった身でしてネ。
姿は前とかなり変わってるしー……。
あぁ、今はこういうもンですヨ。
ハイ、名刺をどうゾ。
え?なんの話だって?
どういうことかって?
やだなぁ、お忘れかい?
あー……そう。
キオク、今世は持って来れなかったのネ。
なぁに、アンタとワタクシの輪廻の話サ。
……ふぅむ。
こうも他人ヅラされるのはつまらんネ。
あ、そーだ。
いっちょリセット、キメとくかい?
次には思い出すかもしれないネ!
あ、やめとく?
ん〜そうなのネ。
まァいつでも会いにおいで。
今世のアンタの事も
まだまだ知り足りないシ。
ばいばーい。
◎手紙の行方
#48
先日、黒山羊さんにお手紙を書いた。
それはプレゼントの袋の中に入れて郵便局に預けた。もう届いて、開封されただろうか。
少し、見えにくい位置に入れてしまったかもしれない。
気付かれていないかもしれない。
いっそ、黒山羊さんに読まれることなく何処かに消えてしまえばいい。
今になってそんなふうに思ってしまう。
どうしよう。どうしよう。どうしよう──
ヴヴヴッ
唐突に机の上の携帯が震えた。
恐る恐る画面を覗き込む。
黒山羊さんからお返事着いた。
◎輝き
#47
しゃらしゃらチカチカと眩いばかりの宝物を背負った巨大なヤシガニ──タマトアはご機嫌に歌いながら体を揺らした。
すると、光に釣られた魚が自ら彼の口目掛けて飛び込んできた。
それを咀嚼し呑み込むと満足そうに笑ってステップを刻む。
「ほんっとタダ飯は最高だぜ♪」
甲羅の中心部には人間からすれば大きい、彼からすれば小さな釣り針がちょこんとすえられている。
彼の機嫌をいつになく良くしているのはまさにその魔法の釣り針だ。
タマトアにとっては他の宝物のなによりも輝いて見える特別なものだ。
それをちらりと一瞥して更に気をよくしたタマトアは自身の鋏を頭上に掲げ、海の更に向こうを見透かすように目を細めた。
「マウイ、お前の自慢の釣り針は俺のコレクションになっちまったぜ♪まさかお前がくたばってるわけがねぇよなあ?ほら♪取りに来い、来い、来い♪」
地を這うような歌声と笑い声はどんどん大きくなっていく。
日夜縄張り争いを仕掛けてくるライバルたちも小物たちもタマトアの機嫌を損ねることを恐れて今は大人しくしている。
しばらくの間ラロタイにはタマトアの声が響き渡ったという。
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モアナと伝説の海より タマトア
[駄弁&蛇足]
タマトアってマウイにけっこう重めの歪んだ感情向けてる気がするんですよね。
モアナ2を観てからモアナ沼にズブズブ浸かっていたところにこのお題がきたものだから思わず書いてしまったわけです。
(布教もどき)
◎隠された手紙
#46
文机の引き出しの二重底の中に
手紙をしまい込んだ。
宛先は未来の当主。
何代後の者が見つけるかはわからない。
でも、誰かが必ず見つけ出す。
そんな自信がある。
そしてきっと、争いの火種となるだろう。
内容は、『私が犯した罪』。
小さな罪から人生最大の罪まで、
事細かに記しているそれをしまい込んだことに安堵して、老婆はそっと息を吐いた。