案山子のあぶく

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12/7/2024, 8:58:57 AM

◎逆さま
#40

『天地がひっくり返るような』
とはよく(本などでは)いうけれど、
実際に“天地が覆された”現在の状況を誰が想像しただろう。

国際連盟が秘密裏に進めていた重力からの脱却する実験が功を奏し、未だ人類は滅ぶに至らなかったが、死者や行方不明者は幾万幾億にも及んだ。
しかしこの状況で連盟の管理は行き届かず、世界の規則、法律は意味を失った。
全世界が無法地帯へ成り下がり、人々は言葉ではなく武器を取った。
第三次世界大戦とは誰が言ったか。
戦乱により狂ってしまった世界で、最早人類には未来が見えなくなってしまった。

かくいう私もこうして被弾して元ビルに突っ込み、あとは活動停止を待つだけになってしまったわけでね。
君たちの住居を荒らしてしまってすまない。
ここで私が勝手に朽ちていくのは君たちにとっては邪魔で仕方ないだろう。
どうかあと少しだけお付き合い願いたい。

12/2/2024, 10:18:05 PM

◎光と闇の狭間で
#39

逢魔時に目を覚ました“〇〇”はその背に茜を背負い、首をもたげた。

終わりのない者たちを神と呼び、善と悪、光と闇に分ける今世。
それよりも遥か昔から存在する混沌とした“〇〇”は自身の体に巣食う者たちを見下ろして変わりないことを見届けると、再び眠りについた。

自身が完全に目を覚ませば崩れ去る世界を嘲笑いながら───

11/29/2024, 10:07:12 AM

◎終わらせないで
#38

目を開けると、真っ白な空間に綺麗な人が佇んでいた。
ぼんやりとその後ろ姿を眺めていると、その人はこちらに振り向いて口を動かした。

「────」

なんて言ったのか聞き取れなくて首を傾げると、その人はやんわりと微笑んだ。

「ここで終わらせないで」

聞き取れた瞬間空間にヒビが入る。
どういう意味か聞きたくてあらん限りの声で叫ぶも、困ったような顔をしてその人はこちらに手を振った。



目を開けると、色の着いた世界が目の前に広がっていた。
一定の間隔を刻む機械音が鼓膜に届く。
涙が溢れて止まなかった。
どうやら、死に損なったようだ。

11/24/2024, 7:47:58 AM

◎落ちていく
#37

ここが何処かなど知らないが。
自分が何者かも知らないが。
腕の中に倒れ込んでいるこのヒトが誰なのかも知らないが。

この口にこびり付いた液体がなんなのか、この感情がなんなのかは、知っている。

「腹減った」

自身の欲望のままに咀嚼した肉は懐かしい味がした気がした。

「まだ、足りないや」

死にかけの獣のような足取りで、
残りの獲物を求めてかつてのクルーは歩き始めた。

11/20/2024, 4:31:33 AM

◎キャンドル
#36

一つずつ蜜蝋のキャンドルに火を灯す。
石室の奥でゆらりと壁を舐める光は仄かに甘い香りを放った。

仄暗い空間に安置された主人を偲び、従者は胸の前で手を組む。

どうか楽園では何にも縛られることが無いように。

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