案山子のあぶく

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7/31/2024, 11:34:17 PM

◎だから、一人でいたい。
#13

あの人と居ると声が小さくなる。
あの人と居ると汗が沢山でる。
あの人と居ると叫びたくなる。
あの人と居ると自分が自分じゃないみたい。

だから、一人でいたい。

家族を殺したやつなんかと一緒に居たら
気が狂ってしまう。

7/30/2024, 10:17:46 PM

◎澄んだ瞳
#12

「ねぇ、キミも一緒に行こうよ!」

そう言ってボクを抱えたあなたは、後ろを振り返ること無く走り出した。
沢山の人と出会い、別れ、助けて、助けられた。
大切な仲間を得た。
あなたの傍らにはいつもボクがいた。
ボクもあなたの背を越すぐらいに立派に大きく成長した。

だから、だからさ――

置いていかないで。

名前を呼んでよ、あのときみたいに。

目を開けてよ。

あなたのその澄んだ瞳を、

未来をまっすぐ見据える瞳を

もう一度見せてよ。


トレーナーが口を動かしたので、皆が慌ててボールから飛び出した。
いつの間にかしわしわになったトレーナーの口から最期の息が漏れるのがわかった。

これはボクの役割だ。

なんとなく、本能的に理解った。
仲間が不安そうに見守るなか、そっとトレーナーの手を引く。
すると、薄く透けた懐かしい姿が起き上がった。

「あれ、皆どうしたの?」

少しおどけてみせるトレーナーに皆が笑顔になる。

「もう一度、最期の旅をしよう」

そう言って澄んだ瞳で見つめられて、断る理由はボクらには無い。

たとえ火の中、水の中。
死出の旅路ではボクが導くよ。




トレーナーを見届けるヨノワールの話

7/29/2024, 11:32:11 AM

◎嵐が来ようとも
#11

嵐が来ようとも、
私は此処に”来る”んだよね。

”閉鎖された東京”
”歴史を守る本丸”
”人々を守るヒーローの傍ら”
”人の歴史の特異点”
”協調性の無いカレッジ”
”ザ•スケルド”
”偉大なる航路”

そして、
”白い紙の上”


私が私であるための
日常から少しズレた場所

今日は
どんな景色が見えるかな
どんな子に会えるかな
どんなストーリーがあるかな
どんな色かな

毎日覗いて
笑って
泣いて

これが
嵐になんて負けない
私の日常

7/28/2024, 10:36:58 AM

◎お祭り
#10

お囃子の音がだんだん遠ざかる。
人の話し声が聞こえなくなっていく。
私の手を掴む少年は歩みを止めない。
何処行くの、なんて聞かない。聞けない。
口が動かない。
ただ足が少年に付いていく。

正面に灯りが見えた。
さっきとは調子の違うお囃子が鳴り響く。
此処の神社、こんなに鳥居は多かったっけ。
真っ赤な鳥居をくぐり抜けて階段を登り続けると、大きなお堂が見えた。

お堂の扉が少し開き、
そこから腕だけにゅっと伸びてきた。

「さぁ、このお酒をどうぞ」

受け取った盃からよい香りが立ち昇る。
とても美味しそうで、ひと息に飲んでしまった。

「ようこそ我らの世界へ」

少年は紅い目を細めて
”手の甲で”柏手を打った。

「かくれんぼをしましょう」

神様から隠れるのです───

少年はからからと笑い、再び私の手を引いた。

「まいりましょう?あそびましょう?」

「……うん」

ひとつ頷いて私は手を握り返した。

祭りの夜、
出されたお酒を無闇に飲んではいけない。
それを飲むのは了承の意とされる。
人の子は簡単に隠されてしまう。
人と人ならざるモノの境界線が
曖昧になる夜だから。

7/28/2024, 9:58:32 AM

◎神様が舞い降りてきて、こう言った
#9


神様が舞い降りてきて、こう言った。

『よいですか。貴方は今から天に登らないといけません』
「なぜでしょうか」

何か悪いことをしてしまったのでしょうかと聞くと、神様は微笑んだ。

『貴方の身体はとうに朽ちてしまっているからです』

よく見なさいと言われ、じっと指先を見つめる。
指先はほんのり透けていた。

「あぁ、私は死んでしまっているのですね」

神様の腕に包まれて一人の魂が浄化されていった。




これは誰にも知られることのない
”死神の”日常である。

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