◎だから、一人でいたい。
#13
あの人と居ると声が小さくなる。
あの人と居ると汗が沢山でる。
あの人と居ると叫びたくなる。
あの人と居ると自分が自分じゃないみたい。
だから、一人でいたい。
家族を殺したやつなんかと一緒に居たら
気が狂ってしまう。
◎澄んだ瞳
#12
「ねぇ、キミも一緒に行こうよ!」
そう言ってボクを抱えたあなたは、後ろを振り返ること無く走り出した。
沢山の人と出会い、別れ、助けて、助けられた。
大切な仲間を得た。
あなたの傍らにはいつもボクがいた。
ボクもあなたの背を越すぐらいに立派に大きく成長した。
だから、だからさ――
置いていかないで。
名前を呼んでよ、あのときみたいに。
目を開けてよ。
あなたのその澄んだ瞳を、
未来をまっすぐ見据える瞳を
もう一度見せてよ。
トレーナーが口を動かしたので、皆が慌ててボールから飛び出した。
いつの間にかしわしわになったトレーナーの口から最期の息が漏れるのがわかった。
これはボクの役割だ。
なんとなく、本能的に理解った。
仲間が不安そうに見守るなか、そっとトレーナーの手を引く。
すると、薄く透けた懐かしい姿が起き上がった。
「あれ、皆どうしたの?」
少しおどけてみせるトレーナーに皆が笑顔になる。
「もう一度、最期の旅をしよう」
そう言って澄んだ瞳で見つめられて、断る理由はボクらには無い。
たとえ火の中、水の中。
死出の旅路ではボクが導くよ。
トレーナーを見届けるヨノワールの話
◎嵐が来ようとも
#11
嵐が来ようとも、
私は此処に”来る”んだよね。
”閉鎖された東京”
”歴史を守る本丸”
”人々を守るヒーローの傍ら”
”人の歴史の特異点”
”協調性の無いカレッジ”
”ザ•スケルド”
”偉大なる航路”
そして、
”白い紙の上”
私が私であるための
日常から少しズレた場所
今日は
どんな景色が見えるかな
どんな子に会えるかな
どんなストーリーがあるかな
どんな色かな
毎日覗いて
笑って
泣いて
これが
嵐になんて負けない
私の日常
◎お祭り
#10
お囃子の音がだんだん遠ざかる。
人の話し声が聞こえなくなっていく。
私の手を掴む少年は歩みを止めない。
何処行くの、なんて聞かない。聞けない。
口が動かない。
ただ足が少年に付いていく。
正面に灯りが見えた。
さっきとは調子の違うお囃子が鳴り響く。
此処の神社、こんなに鳥居は多かったっけ。
真っ赤な鳥居をくぐり抜けて階段を登り続けると、大きなお堂が見えた。
お堂の扉が少し開き、
そこから腕だけにゅっと伸びてきた。
「さぁ、このお酒をどうぞ」
受け取った盃からよい香りが立ち昇る。
とても美味しそうで、ひと息に飲んでしまった。
「ようこそ我らの世界へ」
少年は紅い目を細めて
”手の甲で”柏手を打った。
「かくれんぼをしましょう」
神様から隠れるのです───
少年はからからと笑い、再び私の手を引いた。
「まいりましょう?あそびましょう?」
「……うん」
ひとつ頷いて私は手を握り返した。
祭りの夜、
出されたお酒を無闇に飲んではいけない。
それを飲むのは了承の意とされる。
人の子は簡単に隠されてしまう。
人と人ならざるモノの境界線が
曖昧になる夜だから。
◎神様が舞い降りてきて、こう言った
#9
神様が舞い降りてきて、こう言った。
『よいですか。貴方は今から天に登らないといけません』
「なぜでしょうか」
何か悪いことをしてしまったのでしょうかと聞くと、神様は微笑んだ。
『貴方の身体はとうに朽ちてしまっているからです』
よく見なさいと言われ、じっと指先を見つめる。
指先はほんのり透けていた。
「あぁ、私は死んでしまっているのですね」
神様の腕に包まれて一人の魂が浄化されていった。
これは誰にも知られることのない
”死神の”日常である。