案山子のあぶく

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◎お祭り

お囃子の音がだんだん遠ざかる。
人の話し声が聞こえなくなっていく。
私の手を掴む少年は歩みを止めない。
何処行くの、なんて聞かない。聞けない。
口が動かない。
ただ足が少年に付いていく。

正面に灯りが見えた。
さっきとは調子の違うお囃子が鳴り響く。
此処の神社、こんなに鳥居は多かったっけ。
真っ赤な鳥居をくぐり抜けて階段を登り続けると、大きなお堂が見えた。

お堂の扉が少し開き、
そこから腕だけにゅっと伸びてきた。

「さぁ、このお酒をどうぞ」

受け取った盃からよい香りが立ち昇る。
とても美味しそうで、ひと息に飲んでしまった。

「ようこそ我らの世界へ」

少年は紅い目を細めて
”手の甲で”柏手を打った。

「かくれんぼをしましょう」

神様から隠れるのです───

少年はからからと笑い、再び私の手を引いた。

「まいりましょう?あそびましょう?」

「……うん」

ひとつ頷いて私は手を握り返した。

祭りの夜、
出されたお酒を無闇に飲んではいけない。
それを飲むのは了承の意とされる。
人の子は簡単に隠されてしまう。
人と人ならざるモノの境界線が
曖昧になる夜だから。

7/28/2024, 10:36:58 AM