◎澄んだ瞳
「ねぇ、キミも一緒に行こうよ!」
そう言ってボクを抱えたあなたは、後ろを振り返ること無く走り出した。
沢山の人と出会い、別れ、助けて、助けられた。
大切な仲間を得た。
あなたの傍らにはいつもボクがいた。
ボクもあなたの背を越すぐらいに立派に大きく成長した。
だから、だからさ――
置いていかないで。
名前を呼んでよ、あのときみたいに。
目を開けてよ。
あなたのその澄んだ瞳を、
未来をまっすぐ見据える瞳を
もう一度見せてよ。
トレーナーが口を動かしたので、皆が慌ててボールから飛び出した。
いつの間にかしわしわになったトレーナーの口から最期の息が漏れるのがわかった。
これはボクの役割だ。
なんとなく、本能的に理解った。
仲間が不安そうに見守るなか、そっとトレーナーの手を引く。
すると、薄く透けた懐かしい姿が起き上がった。
「あれ、皆どうしたの?」
少しおどけてみせるトレーナーに皆が笑顔になる。
「もう一度、最期の旅をしよう」
そう言って澄んだ瞳で見つめられて、断る理由はボクらには無い。
たとえ火の中、水の中。
死出の旅路ではボクが導くよ。
トレーナーを見届けるヨノワールの話
7/30/2024, 10:17:46 PM