予約。
ー 窓から見える景色 ー
人はソレを、炎に例えたり水に例えたり
電流や、土や、植物、果ては空気に至るまで…
数え切れない何かしらの比喩を用いて
長年にわたり輪郭を欲し続けている。
そして、限りなく質の良いソレは
幼稚な男が知ったなら、精神の成長を促し
大人びた女が知ったなら、幼さを思い出させ
時を経た実りは、手放し難い宝へと熟れ
これらを体感した人生の先駆者らは
まだソレを知る前の若者達へ
希望や戒めを少しでも遺そうと
新たな喩えを探すのだろう。
愛(ソレ)の別称は、現在も増えるばかりだ。
ー 形の無いもの ー
公園内を見渡せる筒抜けの檻のてっぺんで
日が暮れて星空が幕を上げるのを眺めた。
呼ぶ声はまだ聞こえてこない
もういいよと宛名もなく呟く
探して欲しいと願いを込めて
鬼なんて居ないと知りながら
夜空を睨み上げて、もう一度
「もう、いいよ…」
諦観を混ぜた情けない声は
濁世へと飽和し跡形もない
少しの苛立ちに任せて蹴り脱いだ靴は
追い討ちをかけるように、嬉々として
明日も君だけは雨だろうと告げていた。
ー ジャングルジム ー
嘯く声が花の様に香る
少女と見まごう君の微笑みに
怪し恐ろしの花畑を垣間見る
香り立つ分だけ脳内には警鐘が鳴る
こいにおちてはいけない
嗚呼、けれど
風に弄ばれた髪とともに煽られた
幻想の花弁が目を塞いでしまうから
上も下も右も左も知り得ないままに
膝は勝手に笑って足元ごと掬われて
浮遊感だけが鮮明になってしまった。
その日は嫌に快晴で
アガパンサスの花が
目眩を呼び起こして
君の姿は眩く輝く。
ー 花畑 ー
分厚い硝子窓を撫でる無数の水の線
ハンドルに寄り掛かり外を眺める
何層ものオブラートに包まれた先
暗い海の水面を透明な足が駆け回る
駄々を捏ねて手をも拱いているのは
空模様だろうか、それとも…
雨水を容易く拭うようには
己の他責思考は拭えなくて
詮無く止めどなく溢れ続け
今ですら、私ではなく空が泣いているのだと
ほらまた持ち主の筈が心にまで嘯いている。
ー 空が泣く ー