木馬が回るオルゴール
馬が嘶くように動く度
コトリコトリと音がする
書き物机に頭を伏せて
たどたどしい音楽を聴く
自分の音も織り交ぜて
夢に泥濘、現に微睡む。
ー 胸の鼓動 ー
足並みを揃えて靴底を鳴らす
朝に焼けるアスファルトへ踏み出して
見慣れ過ぎた駅へと潜り込む
一定のリズムを刻む乗り物に
偶に不規則な横揺れを挟んで
目的地前での挨拶にて喉をならす
書類を片手にあっちへこっちへ
旗よりも振るのが上手くなってゆく
デスクに鎮座する受話器もマイクに
歌う様に相手側へ情報を伝達しては
相槌というロックなヘドバンを決めて
あれよあれよと言う間に、まにまにと
休憩時間はやってくる
素面に戻ると途端にさ
踊り疲れがやって来たんだ。
ー 踊るように ー
時間だ。
言葉と同時に施錠は解かれ
重い扉を看守が開く
二度と此処へは戻るなよ。
鈍く釘を刺す幻聴を煩わしく思い
反応もせずに外へと歩き出した
色を忘れた廊下を抜けて
外気を感じられる扉の前に立つ
遮る物も無いままに色も知らぬ眼窩へ
責め立てる様な光彩が一斉に飛び掛ってくる
母胎に宿った頃から既に悪魔の子として
牢屋と質素な食事が与えられると定められていた
しかし、時代にそぐわぬと誰かが囀ると
滑稽にもお偉い様の掌は一様に返され
永遠の囚人であるべき悪魔の子は
感動的にも枠の無い景色との対面を果たした
色を知らぬメアリーに問う
物理主義者共に心を示せ
主体的真理に歩を進めよ
外界に戸惑う事など許可されない
残酷な程に、時は待ってくれないのだから。
ー 時を告げる ー
右目が僅かに痙攣する
戦慄く両の手は机の影へ
傀儡を繰る様に唇の端を上げ
口内を突く嗚咽を無理矢理に嚥下する
些細な事だ、瑣末な事だ
視線の絡まぬ対話など
気に止める必要も無い
嘯いて、欺いて、その度
呼吸は浅くなってゆく
喉の奥も締まってゆく
視界の隅が白に侵蝕され
心臓の音は耳の中で木霊する
笑って、嗤って
分からないなりにも
愛されようと必死だった
失敗しない様にと
それこそ、懸命に
息の仕方を思い出していた
心の中で励ます言葉を唱え
涙腺と感情には重い蓋を
目にも映らない気持ちの揺らぎは
波紋をとめどなく広げ
いつしか大きな波となり
私を飲み込むとも知らぬまま
正される為の治療法なのだと
延々と信仰心を磨き続けていた。
ー 些細なことでも ー
胸中の熱が心を炙り鼓動を速める
足が浮いている気さえして
離れてく君へ、さぁ追いつけと
地面を蹴る速度を上げた。
蹴っていたホームは途切れ
更に離れていく距離に
追いつけなくてもいいからと
大きく手を振り、また会おう!
そう叫んで、君へ愛しい灯火を委ねた。
ー 心の灯火 ー