胸中の熱が心を炙り鼓動を速める
足が浮いている気さえして
離れてく君へ、さぁ追いつけと
地面を蹴る速度を上げた。
蹴っていたホームは途切れ
更に離れていく距離に
追いつけなくてもいいからと
大きく手を振り、また会おう!
そう叫んで、君へ愛しい灯火を委ねた。
ー 心の灯火 ー
完全を何故求めるのか。
不完全を何故許せないのか。
完璧を愛し、曖昧を憎むのは
己の欠点を言葉に押し付け背負わせて
自分が正しいと思い込みたいからだろう。
形を誤認する度に
はみ出した心は切られ
何時か、君の言う失敗作になる
不完全な僕はそれを楽しみにしているよ。
ー 不完全な僕 ー
⚠︎直接表現はありませんが、下世話な話が苦手な方は読まずに飛ばして下さい。
香り立つ水の目には映らぬ厚化粧
興奮材料にもならないソレは
身の回りを飛ぶ羽虫の様に煩わしく
関心すら湧かない指に胸元をなぞられ
恥らいもなく下世話に腰を揺らし
長ったらしい髪しか纏わぬ相手をすり抜け
無駄に広い寝具へと閉口を保ち身を放った。
心底どうだっていい
一時の快楽で現実逃避が出来るなら
それ以外は興味も無く、望みも無い。
粘度の高い嬌声が耳元で嫌に響く度
蛾の様に鱗粉めいた香りを振り撒き
布の上で乱れ広がる長髪に嫌気が差し
顎下を擽る細い指は終始、触覚に見えていた。
見下げ果てている冷めきった視線にも
虫では気付けないだろうと内心合点がいく。
関係は時計の針とは真逆に後退する
気持ちがいいと声を張る羽虫
互いに独りよがりが過ぎるなと嘲笑し
一方的に熱の薄れる私の体躯を
囲み施錠しようとする腕の重み。
あぁ、馬鹿だな
散々言ったじゃないか
恋慕なんぞは面倒だと。
目を刺す赤い口紅が恋を語る前に
私の口は次なんて無いと告げていた。
ー 香水 ー
玄関のチャイムに肩を揺らした午後
突然の来訪者に少し零れた珈琲
人が苦手な私はため息混じりで
文句のひとつでもと 扉を 開け
腕の中は君の香りで満たされていた。
視界は水に揺れて
過ぎた願い事だと
私、思って、想ってた のに
貴方は、どうして
そんなに私を甘やかすのか。
こんなに嬉しい突然なんて
産まれて初めてだから
涙が、どうにも止まない の。
ー 突然の君の訪問。 ー
雨天に追われ屋根の下
埃で汚れたバス停の案内板
所々に穴の空いた頼りないトタン屋根
もう何年も広告が変わらぬ薄い壁
少し背の傾いた弱々しいブリキのベンチ
雨を飲み続けるひび割れたアスファルトの道
バスの待合所の裏では竹林の葉が雨に唄う
ここは誰かの遠い記憶の中
バスは届け先を決めあぐね、来る事もない
記憶の主は雨と草の音に閉じこもり
頻りに懐かしさをしげしげと眺めては
空ではなく、気分が晴れる事を待っていた。
ー 雨に佇む ー