やるせない筈なのだが
何故、こんなにも
空とは晴れやかなのだろう。
八つ当たりだと知っていながら
朝靄を梳かす朝日を帽子で拒みつつ
周辺の風景を睨むことしか出来なかった。
「死んだってお互い様でしょう
このイカれた戦場じゃ
誰が何時死んだって可笑しくはない
私が先に敵地へ行こうが
貴方が先に敵地へ行こうが
膨れきった戦火を消すには
必ず誰かしらは犠牲になりますよ
なら、私は…いえ、俺は
育ててくれた上官殿へ恩を返せないまま
無駄に死にたくはないだけです」
…これ迄の指導や訓練に疑念を持つ程に
その瞬間は呆気にとられて…
いや、呆気なかったと言うべきか。
部下一人に率いられた少数隊は
上官命令に背き、本隊を守るべく
背後に迫る敵軍中隊のど真ん中へと
怯む事も無く突っ込んで行った。
夜戦での撤退が成功するか否かの瀬戸際
敵軍は夜目の冴えきらぬ暗闇から
突如、引き返してくる小隊に不意をつかれ
我々本隊は奇しくも予想より犠牲者を抑えて
無事に予定地へと帰還したのだ。
仕方ない、部下の勝手な判断
上官として、我々は無事
犠牲者は少なく済んだ…
やるせない。
本当に、情けない…!
こんな薄汚れた戦場で!
尊い犠牲などと、死んでものたまうものか!!
確かに私は死ぬべきでは無いのかもしれない
後続の者が決まっていようと筆頭者を失えば
刹那であろうが、隊全体の生死に関わる…。
しかし、だからといって
誰かが犠牲になる事などが
正当化されるべきでは無い…!
…私は上官として君という恥を
生涯、この身に塗り続けるだろう。
君の墓標を心臓に突き立て
たとえ、私が殉職しようとも
それが誇り高き死では無いことを
死んでも、忘れることの無い様に。
ー やるせない気持ち ー
シャツが裏返っている事に気付かないまま
一日を過ごすと次の日には幸運が訪れる。
迷信の類だが、この話が私は好きだった。
実際には袖を通した後や出る直前に気付き
いまだに達成出来たことは一度もない。
気が付き、着替え直す度に
鈍感であれたらと心の底で思う。
もう少し色んな事に愚鈍であれたら
人と対話する時に背を走る嫌な感触も
自分の言葉に含まれる保全的な選択も
気にもとめずに生きられるのかな。
おまじないは、まだ成功しない。
ー 裏返し ー
野鳥の群れが空を塗る
色を残さず流れる筆先は
忙しなく吹く風を一身に受けて
縦横無尽に青の中を旋回し
時には思い出した様に地面へ戻る。
日が暮れる迄の時間を
そうして過ごす鳥達に
少しばかりの羨望を視線に混ぜ
地面から飽きるまで眺め上げていた。
風の音に耳を慣らし
羽根を残して空を旅する
個々の音楽に誇りを持ち
寄り添える伴侶を探す為に
様々な場所で羽根を休め歌う。
ロマの民を想起する生に
そう自由であったならばと
身勝手で蒙昧である己の先行きでは
到底なれやしないと値踏みした。
ー 鳥のように ー
ー さようならと言う前に ー
ありがとうと笑ってみせて。
真に淀むは己の心か
零れ出しそうな重い鈍色の空の下
いつだって傘を忘れて出掛けていた。
雨にいくら打たれようと
誰も傘を差し伸べたりはしない
雨水を纏って帰ろうとも
タオルが出迎えるなんてことも無い
それでも構わなかった。
構うもんかと、一人気丈にかぶりを振って
雨にだけ真っ直ぐに微笑んだ。
ー 空模様 ー