黒山 治郎

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7/11/2024, 10:55:41 AM

「22時前には終わるよ」

了解と、そう返信して
その後に早く帰りたいと思ってもらえる様
料理の写真を送ってみせた。

けれど…本当は分かってるの。

遠く離れた君の帰る場所は
私の居る此処ではないと
それでもいつかは…

「今日の晩御飯は唐揚げだよ」

いつかは、私へ帰っておいで
それまでには、美味しい物を作れる様に
ずっと練習しておくよ。

拝啓、愛しい君へ。

ー 1件のLINE ー

7/11/2024, 3:29:04 AM

重く閉じられた瞼を何とかこじ開けた先
何度か瞬きを繰り返し己の現状を確認する。

出入り口の見当たらない
無機質な硝子張りの小部屋の中
硝子の外は荒れた海を漂い
浮き沈みを繰り返していた。

賑やかな黒い波が硝子を叩き
スッパリと区切られた断面は
箱に当たる度に飛沫を高く上げて踊る。

(たしか、不思議の国のアリスでも
似た場面があったな…)

海の動きは騒がしいが
夜空は殆ど星しか見えず
たまに過ぎる灰色の雲は
無惨にも風に千切られていた。

懸命に上へ意識を向け続けていた私は
深海恐怖症の為になおも暗いであろう
下を見ない様に気を付けてはいたが
好奇心に負けてちらりと盗み見てしまった。

てらりと何かが視界の中を翻る。

その大きな体躯の片鱗に
見なければよかったと
心底後悔したが、もう遅い。

牙の生え揃った随分と物騒な口が
足下からスピードを上げて迫って来る。

硝子張りの四角い箱の中じゃ
逃げようも無いなと苦言を一つ零し
雷にも負けない鋭利な破裂音と共に
私は暗い水の中で意識を手放した。

𓂃◌𓈒𓐍‪‪𓂃 𓈒𓏸◌‬𓈒 𓂂𓏸𓂃◌𓈒𓐍‪ 𓈒𓏸‪‪𓂃 𓈒𓏸◌‬

意識がハッと戻った時には
自室の見慣れた天井に迎えられていた。

なんとも後味の悪い目覚めだと
うなじを撫で付けながら
筆を取った、そんな朝であった。

ー 目が覚めると ー

7/9/2024, 6:28:58 PM

“私”とは、名の売れた探偵だと
傲慢ながらも自負している。

この物語において私に求められているのは
“推理力”…ただ、それだけであり
逆を返せば、他は求められる事がない。

どんな小さな欠片であったとしても
見逃さない洞察力は場面転換に最適で
一見すると何処で使うのかも分からない様な
常人離れした知識量も探偵だからと片付けられ
行動力などは、そもそも視野にも
収まってはいないのだろう
日常生活などはミステリーが始まる前の
前菜に過ぎず、まともに過ごせる日は少ない。

とはいえ、求められる程の推理力は
伊達では決して無いと確信しているのだ。

だから、私の異常にも思える
この当たり前の世界を
“君”も享受しているのだろう?

ー 私の当たり前 ー

7/8/2024, 11:15:19 AM

ふらり ふらりと
玄関から交互に投げ出した爪先
夜の散歩で静けさに輪郭線を忘れ
それでも消えぬ、根深いしがらみ
いっそ誰も彼もを忘れられたなら
本当に自由でいられるのか?

答えと応えのない独白は
暗闇に呑まれてしまった。

なんとなくだが
解っているんだ。

この地上で溢れかえる星灯に
身を置く人生では、叶わぬ話と
遠の昔に思い至っていたのに
自分勝手な私では
生きる事を辞めたいとは
到底、思えなかったんだ。

ー 街の明かり ー

7/7/2024, 4:35:05 PM

因果応報と分かたれた恋人
身を粉にし、心を焦がし
漸く来る一年越しの逢瀬の日

純真が故に際限を知らぬ愛を飾る星々
烏鵲の連なる川を越えて
今、あなたへと愛に行きます。

ようやく、逢えた
あぁ、なんて愛しい

朝なんて知らずに
愛だけを掻き抱き
手を引き合って
創造神の目を盗み
掛け出せていたならば

川の濁流より激しく
川の深みより心を落とし
川の流れよりも何処までも
あなたへ溺れていられたのでしょうか?

朝日なんて、私達は呼んでいないのに
時間とは、何処まで残忍なのでしょう。

ー 七夕 ー

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