黒山 治郎

Open App

重く閉じられた瞼を何とかこじ開けた先
何度か瞬きを繰り返し己の現状を確認する。

出入り口の見当たらない
無機質な硝子張りの小部屋の中
硝子の外は荒れた海を漂い
浮き沈みを繰り返していた。

賑やかな黒い波が硝子を叩き
スッパリと区切られた断面は
箱に当たる度に飛沫を高く上げて踊る。

(たしか、不思議の国のアリスでも
似た場面があったな…)

海の動きは騒がしいが
夜空は殆ど星しか見えず
たまに過ぎる灰色の雲は
無惨にも風に千切られていた。

懸命に上へ意識を向け続けていた私は
深海恐怖症の為になおも暗いであろう
下を見ない様に気を付けてはいたが
好奇心に負けてちらりと盗み見てしまった。

てらりと何かが視界の中を翻る。

その大きな体躯の片鱗に
見なければよかったと
心底後悔したが、もう遅い。

牙の生え揃った随分と物騒な口が
足下からスピードを上げて迫って来る。

硝子張りの四角い箱の中じゃ
逃げようも無いなと苦言を一つ零し
雷にも負けない鋭利な破裂音と共に
私は暗い水の中で意識を手放した。

𓂃◌𓈒𓐍‪‪𓂃 𓈒𓏸◌‬𓈒 𓂂𓏸𓂃◌𓈒𓐍‪ 𓈒𓏸‪‪𓂃 𓈒𓏸◌‬

意識がハッと戻った時には
自室の見慣れた天井に迎えられていた。

なんとも後味の悪い目覚めだと
うなじを撫で付けながら
筆を取った、そんな朝であった。

ー 目が覚めると ー

7/11/2024, 3:29:04 AM