黒山 治郎

Open App
6/15/2024, 4:01:52 PM

学生時代に知人から渡された一冊の小説
その知人は所謂、変わり者だった。

私の名前を本名では絶対に呼ばず
本名に含まれる漢字一文字で呼んだり
どれだけ友人達と話が盛り上がっても
誰一人に対しても敬語を抜けず
何処で知ったかも分からない
不思議な知識を持っていたりした。

そんな不思議な知人から
休憩時間に不意に呼び止められ
はいと手渡された小説が
乙一先生の「夏と花火と私の死体」だ。

きっとあなたなら気にいると思います
それだけ言って、手元に残された本
学生時代は活字が苦手で返したかったが
どうしても中が気になってしまった。

帰宅後は直ぐに本を開き文字に目を通す
ぺら…ぺら…ぺら、ぺらぺら
最初の活字は目が疲れる…といった
感想は読み終わると消え失せていた。

幼い子供二人、否…三人の冒険譚だと
そう語るには随分と禍々しい内容で
ホラーミステリーにしたって
こんな表現の仕方は初めてだった。

短篇小説だった事もあり
一晩で読み終わってしまい
翌日の校内で彼に返そうと声をかけたが
気に入って下さったなら差し上げます
私も好きな作品が布教出来て嬉しいので
そう言って彼は朗らかに笑っていた。

その本は今も本棚にあり
時々、内容を懐かしみ読み返している
件の彼とも、偶に連絡を取っている
だが…あだ名呼び、誰に対しても敬語
使い所に困る雑学の披露、好きな小説

私はあの出来事を感謝こそすれ
恐らくは同類として、彼を友人だとは
これからも呼ばずに知人と呼ぶだろう。

       ー 好きな本 ー

6/15/2024, 7:02:14 AM

今にも溢れ出しそうな重い曇天の下
足取りは反比例して軽快であった。

初夏の暑い日差しもなく
足を重くする湿気も少ない
少しばかり頭は重く感じるが
それでも、明度の下がった公園内は
散歩をするだけでも少し新鮮だった。

たまに顔面へ追突してくる蚊柱には
思わずと少し眉を顰めたが
これも自然の一部と思えば
自身の心を諌めるのも容易い。

いつもより落ち着いた色合いの新緑に
人通りの少なさと荒れ気味の風も
私の様な偏屈者には心地好かった。

鼻先にポトンと小さな感触に
もうしばらく堪能したかったと
無念を残した雨の日となった。

      ー あいまいな空 ー  

6/14/2024, 8:47:51 AM

夜闇に降り注ぐ五月雨に喜び
曇り空を所々で割った朝日の下で
何時もより多い朝露に輝く花弁
大きな葉から滴が垂れるのを見た。

青、紫、赤、白…
土から吸い上げた成分で
様々な色に染まる装飾花
瑞々しい花序へ視線は吸われ
夏を彩る小さくとも大きな花に
自然と足が止まってしまった。

現実の中に滲み咲いた水彩絵の具は
今年も、視覚的な涼しさを齎す程に
涼を花へと蓄えて、初夏を飾っていた。

       ー あじさい ー

6/13/2024, 8:41:57 AM

君の言う、好きと嫌いは
ランダム性の強い占いみたいだね。

この前は僕の事を嫌いだと言って
今日は好きだと言ってくれた!

けど…次の瞬間には、その気持ちも
嫌いに変わってしまったり…?

え…また僕の事、嫌いになっちゃったの?
次はいつ好きになってくれるかなぁ
うん?ショックは確かにあるけどね

僕は、ずっと君の占いのファンだからね。

ー 好き嫌い ー

6/10/2024, 4:04:00 PM

暖色の少ないホルベインの水彩絵の具は
いまだに減らし方が分からないままだ。

貴方の絵は、暖かい色にばかり好まれて
私とは真逆の生だった事がよく分かる。

濃度の高い透明水彩は貴方の手に慣れて
私の手には一向に馴染みそうにないが…
それでも、いつか私の物にしたいが為に
今でも大事にずっと持ち続けているよ。

どれだけの人が忘れようと関係無い
私は生涯、貴方の作品のファンであり
自分の為に色を使う者で在りたい。

     ー やりたいこと ー

Next