狼星

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3/4/2023, 2:15:33 PM

テーマ:大好きな君に #112

私には、小さいから仲良くしていた友達がいた。
彼女は不慮の事故で事故死した。
突然のことだった。私は理解できなくて、現実と架空の世界を行き来していた。
架空の世界にいる彼女は、本当に今も生きているかのように元気で、私に笑顔と勇気を与えてくれる。
そんな私を見て両親は
「現実を見なさい」
そういった。
「いつまで引きずっているんだ」
そう言われたとき、あぁ、この人たちにとって彼女はもう過去の人でしかないんだと思った。
大好きな君がもうこの世に存在していないんだと知るのが怖かった。認めるのが怖かった。
大好きな君のことを忘れることが怖かった。
私はその日、泣いた。涙が枯れるまで泣いて、泣いて、泣きまくって。
次の日には普通の人と同じ、現実の世界で生きていた。
彼女の墓参りに行った。彼女はここにいる。そう思った。もう私の手の届かない、遠い場所に行ってしまった。そう思うと鼻の奥がツンとして、また泣きそうになった。散々あのとき泣いたのに。
彼女を思い出すたび、あの優しい笑顔を思い出す。
大好きな君に伝えたいのは、また、会いたい。
また、転生して私の近くに来てよ。
私を励ましてよ。ただいまって言ってよ……。
一言なんかじゃ収まりきれない。
あなたのことが大好きだから。

3/3/2023, 12:35:38 PM

テーマ:ひなまつり #111

私は小さい頃正直、お雛様が怖かった。
毎年毎年、お雛様が出てくる頃になるとその前を恐る恐る通る。お雛様に罪はないはずなのに、何だかずっと見られているような、そんな感覚になった。
母はそんな私のことを知らず、ずっと
「朝起きたら、お雛様におはようって言って、寝るときはおやすみって言うんだよ」
そういった。私は怖かったけど、お母さんに頷くと毎朝毎晩必ず挨拶した。

そんな私も年を経て、今年もひなまつりがやってきた。
もうお雛様を見てそんなに怖くないと思うし、挨拶もしなくなった。
でも、ふと思ったときそっと心のなかで今でも言ってしまう。
『おはよう。お雛様』『おやすみ。お雛様』
って。
帰ってこないはずの挨拶。でも、挨拶するたびお雛様が怖くなくなる。だんだん、表情が和らいで見えるのは、流石に思い込みだとは思うけど。

3/2/2023, 1:04:17 PM

テーマ:たった一つだけの希望 #110

希望という言葉が好きじゃない。
絆という言葉や仲間という言葉も同様に。
小さい頃はキラキラしているそれらの言葉が好きだった。そんな私はいつも希望というものとは程遠く、絆を持つ仲間はいなかった。
いつしかそれに気が付いたときには、私はそれらの言葉が嫌いになっていた。
世界はそんなに明るい言葉だけじゃ通用しないと分かったからだろうか。甘く見てはいけないと、知ってしまったからだろうか。
そんな私はどんどん醜くなっていった。
人を信用できない。家族も友人も、更には私自身まで。
誰も信用できない。誰もが皆嘘をついて騙し合っているように見えた。
そんな時だった。たった一つだけの希望と出会ったのは。
真っ黒なカラスが、数メートル先でピョンピョンと跳ねていた。何をしているのか、興味を持った私はなぜかそのカラスに話しかけていた。
「ねぇ、カラスさん。一人?」
カラスは私が話しかけるとこっちを見た。一応、怖がらせないためにトーンを高めにしてみたが、やっぱり私には合わない。
「そっかぁ…。一人か…」
話しかける私に首を傾げているそのカラスは逃げる気がないらしい。真っ黒なカラスは言葉通りどこも黒く、何だか私みたいだなと思った。
明るさのない、真っ黒なカラス……。
「あ、待ってよぉ。カラスさん」
離れていこうとするカラスを追いかける。なぜか飛ばないカラスは、私をおちょくっているように思えてむっとした。
「もぉ、何か私遊ばれてる?」
そう言うとカラスが止まってこちらを振り向く。まだまだ、遊び足りないのだろうか。
「も〜……。カラスさんは欲しがりだなぁ」
そう言うとカァ! と鳴いて羽を動かした。
「あ!」
気が付くとカラスは、空へと羽ばたいていた。
その時カラスの羽が太陽に反射して、少し深い紺のような色が見えた気がした。
その時な〜んだと、思った。
な〜んだ。カラスも完全な黒じゃないんだ、と。
私も、真っ黒な人間じゃないのかな…と。
ほんの少しだけ、思えた。それが何故、たった一つだけの希望だと思ったかはわからない。
似た者同士だと思っていたものが、本当は違った。
それに気がつけたことが、その時の自分を変えた気がする。
今となっては、子供に希望や絆、仲間という言葉を教える身ともなっている。不思議なことだ。

3/1/2023, 11:23:34 AM

テーマ:欲望 #109

人間は欲深い人間だ。
つくづく思う。
欲望と欲望がぶつかり合い、衝突し、砕け散る。
そしてくっついたとしても、欲望の形は歪で、砕け散った欲望は元の形に戻ることがない。
それを吾輩は知っている。
「ねぇ、カラスさん。一人?」
そんな吾輩に話しかける人間が一人。
「一人?」って、人間じゃない。吾輩はカラス。普通、一羽と人間は言うだろう。
「そっかぁ…。一人かぁ…」
答えてない。一人で納得するでない。
吾輩はその人間から離れようとする。
「あ、待ってよぉ。カラスさん」
人間は吾輩についてくる。なんなんだ、この人間は。
ほとんどの人間はカラスを嫌う。この人間は違うのか?
そうだとしたら非常に面倒くさい。はっきり言って不愉快だ。人間は人間らしく、我等を嫌えばいいのに……。
なかなか面白い人間だ。
「もぉ、なんか私遊ばれてる?」
飛ばないで歩いているとそう言われる。
あぁ、なかなか居ないからなぁ。こういう人間は…。って、吾輩としたことが、人間と遊んでいたということか…? ふと我に返りそう思う。
「も〜……。カラスさんは欲しがりだなぁ」
吾輩が欲しがり…? 人間と一緒だと言いたいのか!?
そう思い思わず
カァ!
と鳴いてしまう。
人間は不思議そうに吾輩を見ると、クスッと笑った。何だかからかわれたように感じて、その場から逃げるように飛ぶ。
「あ!」
そう叫ぶ人間の声が聞こえた。
吾輩をからかうのがいけないのだ。人間なら人間らしく……。
そう思ってから、気に止まる。
人間らしく? 人間らしくとか、カラスらしくとか、そういうのに縛られることは無くてもいいのではないか?
だって、人間もカラスも一人として、一羽として同じものはいないのだから。
さっきの人間だって、大きく見れば人間だが他の人間とは違う。吾輩が感じた通り、面白い人間だ。
吾輩のことを嫌わぬ、話の通じぬ吾輩と話そうとした変わった人間だ。そう思うと、あの人間と別れたことに少し後悔を感じた。
あぁ、吾輩は欲深い人間のようなカラスなのかもしれない。なぜなら、またあの人間と会いたいという欲望に満ちてしまったからだ。

2/28/2023, 11:30:09 AM

テーマ:遠くの街へ #108

遠くの街へ行こうと思う。
誰も僕を知らない。
僕も誰も知らない。
みんな他人。
ただそこに存在していて、僕に話しかけてきたりしない。
そしたら、今とは違う生活になれるだろうか。
新しい人と友となりいつしか親友となるのだろうか。

遠くの街へ行こうと思う。
未知の環境。
空気や水が美味しいのか。
大きな建物が立っているのか。
大きな音が聞こえるのか。
夜は昼間のように明るいのか。
そしたら夜は今よりも眠れないのだろうか。
夜空が曇って見えるのだろうか。

遠くの街へ行こうと思う。
まだ知らぬ未知の世界へ行くために。
不安はもちろん、今の生活が嫌いになったわけでもない。
嫌いな人が近隣に住んでいるわけでもない。
仕事が切羽詰まっているわけでもない。
自然が嫌いになったわけでもない。
ここにいる、自分が嫌いになったわけでもない。
そしたら新しい自分を見つけられるのではないかと思って。
新たな一歩を踏み出すために。
僕は遠くの街へ行こうと思う。

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