狼星

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テーマ:たった一つだけの希望 #110

希望という言葉が好きじゃない。
絆という言葉や仲間という言葉も同様に。
小さい頃はキラキラしているそれらの言葉が好きだった。そんな私はいつも希望というものとは程遠く、絆を持つ仲間はいなかった。
いつしかそれに気が付いたときには、私はそれらの言葉が嫌いになっていた。
世界はそんなに明るい言葉だけじゃ通用しないと分かったからだろうか。甘く見てはいけないと、知ってしまったからだろうか。
そんな私はどんどん醜くなっていった。
人を信用できない。家族も友人も、更には私自身まで。
誰も信用できない。誰もが皆嘘をついて騙し合っているように見えた。
そんな時だった。たった一つだけの希望と出会ったのは。
真っ黒なカラスが、数メートル先でピョンピョンと跳ねていた。何をしているのか、興味を持った私はなぜかそのカラスに話しかけていた。
「ねぇ、カラスさん。一人?」
カラスは私が話しかけるとこっちを見た。一応、怖がらせないためにトーンを高めにしてみたが、やっぱり私には合わない。
「そっかぁ…。一人か…」
話しかける私に首を傾げているそのカラスは逃げる気がないらしい。真っ黒なカラスは言葉通りどこも黒く、何だか私みたいだなと思った。
明るさのない、真っ黒なカラス……。
「あ、待ってよぉ。カラスさん」
離れていこうとするカラスを追いかける。なぜか飛ばないカラスは、私をおちょくっているように思えてむっとした。
「もぉ、何か私遊ばれてる?」
そう言うとカラスが止まってこちらを振り向く。まだまだ、遊び足りないのだろうか。
「も〜……。カラスさんは欲しがりだなぁ」
そう言うとカァ! と鳴いて羽を動かした。
「あ!」
気が付くとカラスは、空へと羽ばたいていた。
その時カラスの羽が太陽に反射して、少し深い紺のような色が見えた気がした。
その時な〜んだと、思った。
な〜んだ。カラスも完全な黒じゃないんだ、と。
私も、真っ黒な人間じゃないのかな…と。
ほんの少しだけ、思えた。それが何故、たった一つだけの希望だと思ったかはわからない。
似た者同士だと思っていたものが、本当は違った。
それに気がつけたことが、その時の自分を変えた気がする。
今となっては、子供に希望や絆、仲間という言葉を教える身ともなっている。不思議なことだ。

3/2/2023, 1:04:17 PM