狼星

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テーマ:ひなまつり #111

私は小さい頃正直、お雛様が怖かった。
毎年毎年、お雛様が出てくる頃になるとその前を恐る恐る通る。お雛様に罪はないはずなのに、何だかずっと見られているような、そんな感覚になった。
母はそんな私のことを知らず、ずっと
「朝起きたら、お雛様におはようって言って、寝るときはおやすみって言うんだよ」
そういった。私は怖かったけど、お母さんに頷くと毎朝毎晩必ず挨拶した。

そんな私も年を経て、今年もひなまつりがやってきた。
もうお雛様を見てそんなに怖くないと思うし、挨拶もしなくなった。
でも、ふと思ったときそっと心のなかで今でも言ってしまう。
『おはよう。お雛様』『おやすみ。お雛様』
って。
帰ってこないはずの挨拶。でも、挨拶するたびお雛様が怖くなくなる。だんだん、表情が和らいで見えるのは、流石に思い込みだとは思うけど。

3/3/2023, 12:35:38 PM