狼星

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テーマ:欲望 #109

人間は欲深い人間だ。
つくづく思う。
欲望と欲望がぶつかり合い、衝突し、砕け散る。
そしてくっついたとしても、欲望の形は歪で、砕け散った欲望は元の形に戻ることがない。
それを吾輩は知っている。
「ねぇ、カラスさん。一人?」
そんな吾輩に話しかける人間が一人。
「一人?」って、人間じゃない。吾輩はカラス。普通、一羽と人間は言うだろう。
「そっかぁ…。一人かぁ…」
答えてない。一人で納得するでない。
吾輩はその人間から離れようとする。
「あ、待ってよぉ。カラスさん」
人間は吾輩についてくる。なんなんだ、この人間は。
ほとんどの人間はカラスを嫌う。この人間は違うのか?
そうだとしたら非常に面倒くさい。はっきり言って不愉快だ。人間は人間らしく、我等を嫌えばいいのに……。
なかなか面白い人間だ。
「もぉ、なんか私遊ばれてる?」
飛ばないで歩いているとそう言われる。
あぁ、なかなか居ないからなぁ。こういう人間は…。って、吾輩としたことが、人間と遊んでいたということか…? ふと我に返りそう思う。
「も〜……。カラスさんは欲しがりだなぁ」
吾輩が欲しがり…? 人間と一緒だと言いたいのか!?
そう思い思わず
カァ!
と鳴いてしまう。
人間は不思議そうに吾輩を見ると、クスッと笑った。何だかからかわれたように感じて、その場から逃げるように飛ぶ。
「あ!」
そう叫ぶ人間の声が聞こえた。
吾輩をからかうのがいけないのだ。人間なら人間らしく……。
そう思ってから、気に止まる。
人間らしく? 人間らしくとか、カラスらしくとか、そういうのに縛られることは無くてもいいのではないか?
だって、人間もカラスも一人として、一羽として同じものはいないのだから。
さっきの人間だって、大きく見れば人間だが他の人間とは違う。吾輩が感じた通り、面白い人間だ。
吾輩のことを嫌わぬ、話の通じぬ吾輩と話そうとした変わった人間だ。そう思うと、あの人間と別れたことに少し後悔を感じた。
あぁ、吾輩は欲深い人間のようなカラスなのかもしれない。なぜなら、またあの人間と会いたいという欲望に満ちてしまったからだ。

3/1/2023, 11:23:34 AM