テーマ:太陽のような #102
「小説家……」
「真くんは小説、好きかい?」
嫌いという訳では無いが、とびきり好きという訳でもない…。僕が反応に困っていると
「あ、困っちゃった? ごめん…」
そう言って謝るラックさん。
「いえ…」
「僕はね、結構好きなんだよ。こうやってお忍びで外に出ると決まって一冊買うんだ。来た記念にという訳でもないんだが…。いつの間にか足が本屋へと向いている」
ラックさんはそういうと微笑む。よっぽど好きなんだなと思う。それにしても……
「お忍びって……」
「あぁ、やっぱり皇族は外に出ることが制限されていてね。さっきいたミデルも、共犯だけどね」
共犯って…。でも皇族夫婦にしては珍しいなと、どこかで思っていたため納得している部分もある。
「ミデルと出会えたのもお忍びで街に来たときだったし!」
そう言うと遠くを見てその時のことを懐かしむように目を細めるラックさん。幸せなんだなぁと思う。ふと、自分が住んでいる世界と比べてしまう。
自分の知っている世界では、暴力したり暴言はいたり、離婚したり虐待したり…。あまり夫婦というものにいいイメージはない。
だからこそ、2人に太陽のような暖かさを感じるのかもしれない。
「あ、時間が迫っている。もう少しで小説家の講演会が始まるんだ。行こう!」
ラックさんは目をキラキラさせていった。初めてあった人なのにこの人に対する抵抗があまりないのは、僕にとって珍しいことだ。
僕は頷き、ラックさんのあとについていった。
♡1400!! Thank you!!
テーマ:0からの #101
普通ではないが、思っていたよりもずっと気配が人間に近い。ララキが言っていた。彼(真)は人外と人間のハーフだと。
似たような部類だ。ハーフという言葉は僕にとっても無縁ではない。彼と話がよく弾みそうだ。
僕はそう思いながらポカーンとしている真くんを見ていた。
「それでは、わたしは席を外しますね」
そんな空気を読むかのようにミデルはいった。
「うん。ありがとう」
僕がそう言って彼女を見るとグイッと距離を縮め、
「楽しんできてください」
そう囁かれた。僕はミデルに微笑むと頷いた。やはりミデルには心が読めるのかもしれない。
「真くん。そんなに方に力入れなくていいんだよ?」
「は、はい……」
とはいっても、最初はガチガチに緊張している真くんをすぐに慣らせることはできなかった。僕は少し考えてから言った。
「ここには、真くんの身近にはないものが沢山あるだろう?」
僕がそう言うと真くんは、瞬きを何回かしてあたりを見回す。
「そう、ですね」
「なにか食べる?」
「いや、そんな…」
「遠慮はいらないよ」
僕は少し強引に真くんに言った。真くんはなにか言いたげにしたが、それよりも先に真くんのお腹がぐぅ…となって返事をした。
彼は表情は変えなかったが、お腹を抑える。
「今日は披露宴だからねぇ、いろんな屋台を出しているんだ」
僕は屋台に顔を出すと、2つ食べ物を買う。
「あっちで食べよう」
そう言って少し屋台と離れた神社の階段に腰掛けた。
「どうぞ」
「いただきます……。あの、これは…?」
真くんはオズオズと聞く。
「ふふ、人間の世界にはない?」
「えっと…はい」
「これはね、モアムという食べ物。人間の世界で言う『しょうろんぽう』や『しゅうまい』という食べ物に近いらしいが…。どちらも僕は食べたことはないなぁ…。生地がここのやつは薄いらしい」
僕がそう言って一つ箸で挟むとフーと息を吹きかける。白い湯気が揺らめく。
僕はそれを口に入れるとジュワ〜っと中のスープが口の中に広がる。僕はモアムが大好きだ。
「あ、あふ……。お、美味しい」
「よかった! 口にあって」
隣で熱かったのかハフハフしている真くんに言うと、真くんは食べてから僕を見つめた。
「どうかした?」
僕は心配になって言った。
「えっと……。ラックさんは…魔法使い…なんですか?」
「うーん…。近いというか急になったというか…」
僕はう〜んと考えながら言う。
「まぁ、君が思っているような普通の人間ではないなにかというのは正しいよ」
彼も僕が普通の人間ではないことに気が付いていたらしい。彼はきっとララキに何も知らされていない。本当は何も知らない0からのスタートというのは僕にとって苦手とするのだが…今はそんなこと言ってられないな。
「僕はここの国王なんだ」
「…え?」
「びっくりするよね…。王様なのに何やってるんだって」
真くんは目を丸くして僕を見ていた。
「でも、それを許してくれている国なんだ。ここは。というかそういう国に僕がしたかったから変えたんだけど」
「変えた…?」
「うん。上下関係とか差別とか無くしたくてさ。無理言ってこうしてもらっているの」
ここまで来るのにいろんなことがあったけどね。と心で呟く。でもそんな苦労がなかったら僕はミデルと出会えていないし、今の僕もいないだろう。
0から始めるということは意外と大事なのかもしれない。
「自由な国なんですね」
「もちろん、全てうまくいくわけじゃないけどね。国に住むみんなが平等に暮らせるような国にできるようにって」
僕は自分で言っていてなんだか恥ずかしくなってきた。
「この『披露宴』って、何の披露宴なんですか?」
話題を変えた真くんに答える。
「これはうちの小説家の小説が他の国に出されることになったからその『披露宴』」
「小説家の…披露宴?」
「僕たちの国のことをもっとたくさんの国の人に知ってもらえるように。うちの小説家が書いてくれて今日はその本が世に出回る日なんだ」
テーマ:同情 #100
「ララキどうしたんだ?」
僕(真)は手を引くララキに言った。
『いいから来て! 合わせたい『人』がいるんだ』
「会わせたい『人』?」
僕が人と言うのを強調するのには意味がある。ララキは人外だ。僕も人外と人間のハーフといったところだが……今はどうでもいいことだ。
普段はホラーハウスから出ないララキがこうして外に出ているのを見るのは、勝瑠を助けたとき依頼だ。
勝瑠は僕の弟。色々あって僕たち兄弟は引き裂かれていたわけだが、ある事件によってまた出会った。
運命っていうのは本当にあって、縁というものは簡単には切れないらしい。
『あ! お〜い! 連れてきたよ〜』
ララキに連れてこられたここは、なんだか変だ。人間の世界とは違うみたいだ。まさか人外の世界? とも思ったがそれもまた違うらしい。
「君が真くんだね?」
「あ、え…はい」
声の主は男の人で袴を着ている。なんだか偉い人みたいだ。その隣には瞳が黄緑の女の人が穏やかな表情でこっちを見ていた。
「はじめまして。僕はラック・クラーム。こちらはミデル・クラーナ。僕の妻です」
「は、はぁ…」
僕はそう言って頷くとミデルさんとラックさんは微笑んでいる。全くわからない。なぜ僕がここにいて自己紹介されているのかを…。
「ララキ、もしかして真くんに話していない? 今回の目的」
『あ、忘れてた』
ミデルさんがそう言うとララキがいたずらっぽく笑った。いつもなら、仕方がないなぁとなるところだが、今回ばかりは何も聞かされていないのに未知の世界に連れてこられたものだから、何も言えない。
「今日はね、披露宴なんですよ」
「披露宴?」
なんのことがさっぱりわからない僕に
『あ、もう行かなきゃ! あとはよろしく! ミデル、ラック!』
そう言ってそそくさと去ってしまったララキ。え、僕は…?
「急にこんなとこ連れてこられて、知らない人たちと一緒になんて嫌だよね」
ラックさんが話しかけてくれる。僕はララキが去った方を見てポカーンとしていたが、ハッとした。
「すみません……。あまり状況が理解できていなくて……」
「いいのよ。ララキはそういうところがあるのよね〜」
ミデルさんがフフフッと笑っている。
「でも、それが憎めない」
ラックさんの言葉に同情した。すると嬉しそうに笑った。
その時。
「危ない!!」
そう聞こえたかと思うと僕の前を何かが横切った。
「すみませーん!!」
それは人だった。闘牛の牛か、人外かと思った。にしてもあんなスピード人間に出せるか…?
「あ、ララキからその説明もなかった?」
僕を見てラックさんが言った。
次の言葉に僕は耳を疑った。
「ここは光と闇、人間と魔法使いが共存する国だよ」
※
皆さん、こんにちは。こんばんわ。或いはおはようございます。
今回で100日約100作品(リレー小説を含める)を書き続けることができました。狼星です。
正直、続けられないと思っていました。
最初の作品から私の作品を見てくださっていた方も、
途中から知ってくださって見てくれた方も、
今日の話が初めてという方も、
私の作品を最後まで見てくださり、
ありがとうございます。
皆様のお陰で書き続けることができました。
ありがとうございます。
♡を押してくれた方。
投稿を楽しみにしてくれていた方。
いてくださったら光栄です。
毎日の励みになっています!
これからもよろしくお願いいたします。
☆
今回から少し振り返って今までに出てきた作品の子たちを出したいと思います。
今回出てくれた子たちは
#20から
・ミデル・クラーナ
・ラック・クラーム
#64から
・真
・ララキ
(・勝瑠)
でした。リレー小説の子たち中心にはなってしまうかもしれませんが、温かい目で見てくれると嬉しいです。
どれくらいになるかは私の気分なので、わかりません。
リレー小説もどきとなりますが、読んでくれると嬉しいです。
また、読んでない! という方は過去の作品を振り返って読んでもらえると嬉しいです!
※
何度もお知らせがあってすみません。
仕事が忙しい日が続いているので、短くなる日があるかもしれません。ご了承ください。
テーマ:枯葉 #99
あの枯葉が落ちる頃には、私の命はないかもしれない。
どこかで聞いたことのあるフレーズ。
今の私にぴったりのフレーズだ。窓を眺めながら思っていた。
ーーコンコン
ドアをノックする音が聞こえる。私は
「はい」
短く答えるとドアが開く。
私は視線を今にも落ちそうな枯葉に向けられたまま。ドアが開く音がして、足音が近づいてくる。
相手は無言だったが、私のベッドの近くまで来ると言った。
「体調はどう?」
低い声が静かな病室に響く。
いいわけないでしょ。私はそう言いたかった。でも、言葉に詰まった。短い言葉なのに言えなかった。
「何がいるの?」
その人は私と同じ窓の外を見ているのだろうか。
いや、関係ない。
「なんで来るの?」
私は冷たくいった。
「なんでって、君に会いたいから」
「別れようって言ったよね」
私はぐっと奥歯を噛んだ。
その人は…彼は何も言わない。
「君は…本当に僕と別れたいの?」
私は視線を下に落とした。白くなった肌と細くなった手が私の目に映る。怖い。今でも現実が受け止められない。でも時間は刻一刻と過ぎていく。
私の残りの時間が少ないことを表すように、私の体がどんどん力なくなる。
それを見せたくないから。他の相手を見つけてほしいから。別れを告げたのに彼はわかってくれない。
「もう来ないで」
ここで泣いたら、別れたくないことがわかってしまうから。本当は別れたくないに決まってる。
もっと生きて、2人で色んな思い出を作っていくつもりだったのに。もっと彼と幸せな時間を刻みたかったのに。そんな後悔が残ってしまうから。
「無理だよ」
彼は言った。どうして? そういう前に私は、彼の腕の中に包まれていた。
「離して」
鼻がツンとなって、目に涙がじわっと溜まった感覚がした。
「離さない」
どうしてあなたは私を……。
「僕はどんな姿になっても君が好き。辛いんだったら言ってほしい。僕の前では素直になっていいんだ。思っていること全部、ぶつけてほしい。」
私を抱く力が強くなった。
「……生きたい」
私は呟く。言うつもりがなかった言葉まで、まるでせき止めていたダムが壊れてしまったように流れてくる。
「生きていたい! 貴方と一緒にいたい。なんで私なの? なんで私がこんなに辛い目に合わないといけないの? 私は幸せになっちゃだめなの? 夜眠るのが怖い。朝起きるのが怖い。いつ、死ぬかわからない…そんな恐怖にいつもいつも隣り合わせになっていることが怖い……」
いつの間にか彼の腕に涙を溢していた。吐き出す言葉の間には、嗚咽が交じる。彼は何も言わずに私を抱きしめていた。でも、なにか言ってくれなくていい。聞いていてくれればそれでいい。
そう思っている自分がどこかにいた。
「あの枯葉がね。落ちたら私も死ぬんじゃないかって怖くなったの」
私は少し落ち着いたときに言った。もう涙は出なかった。彼は私の指差す枯葉を見た。そして何か考えて話し始めた。
「枯葉って、木から落ちたら死んじゃうって思っているんでしょ」
私は頷く。だってそうでしょう?
「それは違うよ」
彼の言っていることに理解ができなかった。
「枯葉はいつか木から落ちる。そして土に落ちる。それで終わりじゃないんだ。そのまま虫や風に吹かれて、ちぎれて小さくなって、土の栄養になるんだ。そしたら、木が土から栄養をもらう。そしてまた葉をつけて花を咲かせる。それの繰り返しなんだ」
彼は枯葉に視線を向けたままいった。
「だから死ぬことはないんだよ」
振り向く彼は自慢げにいった。その姿が、ドヤ顔が面白くて笑ってしまった。
「やっと笑った」
彼はへにゃっと笑っていった。そうだ、私最近笑っていなかった。辛いとか苦しいとか、ネガティブなことばかり考えてた。
「人間だって諦めなければ、生きる時を伸ばすことくらいできると思う。ていうか、簡単には死なせないから」
彼は根拠のない言葉を並べていった。
なのになぜだろう。
こんなにも根拠のない言葉に励まされている。
私は精一杯生きようと思う。
あの枯葉よりは短い時かもしれないけれど。
テーマ:今日にさよなら #98
「今日にさよなら」
「明日にはじめまして」
そうやって回っていく一日、一年、一ヶ月……人生。
長く連なってできていくものには、
必ず『始まり』があって『終わり』がある。
『出会い』があって『別れ』がある。
だからこそ、人生を、時間を大切にしなければならない。人生はあっという間だ。一年だって、あっという間。だから、今を大切にしないといけない。
ちゃんとしなくていい。できなくたっていい。
生きてさえいれば何回だって繰り返すことができる。
でも、全く同じ一日なんてない。
思うことも、起こることも、出会うことも、別れることも。全部一緒なんて、絶対にないんだ。
だからこそ、今日を精一杯生きよう。
「今日にさよなら」が言えるように。
「明日にはじめまして」が言えるように。