狼星

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テーマ:枯葉 #99

あの枯葉が落ちる頃には、私の命はないかもしれない。
どこかで聞いたことのあるフレーズ。
今の私にぴったりのフレーズだ。窓を眺めながら思っていた。
ーーコンコン
ドアをノックする音が聞こえる。私は
「はい」
短く答えるとドアが開く。
私は視線を今にも落ちそうな枯葉に向けられたまま。ドアが開く音がして、足音が近づいてくる。
相手は無言だったが、私のベッドの近くまで来ると言った。
「体調はどう?」
低い声が静かな病室に響く。
いいわけないでしょ。私はそう言いたかった。でも、言葉に詰まった。短い言葉なのに言えなかった。
「何がいるの?」
その人は私と同じ窓の外を見ているのだろうか。
いや、関係ない。
「なんで来るの?」
私は冷たくいった。
「なんでって、君に会いたいから」
「別れようって言ったよね」
私はぐっと奥歯を噛んだ。
その人は…彼は何も言わない。
「君は…本当に僕と別れたいの?」
私は視線を下に落とした。白くなった肌と細くなった手が私の目に映る。怖い。今でも現実が受け止められない。でも時間は刻一刻と過ぎていく。
私の残りの時間が少ないことを表すように、私の体がどんどん力なくなる。
それを見せたくないから。他の相手を見つけてほしいから。別れを告げたのに彼はわかってくれない。
「もう来ないで」
ここで泣いたら、別れたくないことがわかってしまうから。本当は別れたくないに決まってる。
もっと生きて、2人で色んな思い出を作っていくつもりだったのに。もっと彼と幸せな時間を刻みたかったのに。そんな後悔が残ってしまうから。
「無理だよ」
彼は言った。どうして? そういう前に私は、彼の腕の中に包まれていた。
「離して」
鼻がツンとなって、目に涙がじわっと溜まった感覚がした。
「離さない」
どうしてあなたは私を……。
「僕はどんな姿になっても君が好き。辛いんだったら言ってほしい。僕の前では素直になっていいんだ。思っていること全部、ぶつけてほしい。」
私を抱く力が強くなった。
「……生きたい」
私は呟く。言うつもりがなかった言葉まで、まるでせき止めていたダムが壊れてしまったように流れてくる。
「生きていたい! 貴方と一緒にいたい。なんで私なの? なんで私がこんなに辛い目に合わないといけないの? 私は幸せになっちゃだめなの? 夜眠るのが怖い。朝起きるのが怖い。いつ、死ぬかわからない…そんな恐怖にいつもいつも隣り合わせになっていることが怖い……」
いつの間にか彼の腕に涙を溢していた。吐き出す言葉の間には、嗚咽が交じる。彼は何も言わずに私を抱きしめていた。でも、なにか言ってくれなくていい。聞いていてくれればそれでいい。
そう思っている自分がどこかにいた。

「あの枯葉がね。落ちたら私も死ぬんじゃないかって怖くなったの」
私は少し落ち着いたときに言った。もう涙は出なかった。彼は私の指差す枯葉を見た。そして何か考えて話し始めた。
「枯葉って、木から落ちたら死んじゃうって思っているんでしょ」
私は頷く。だってそうでしょう?
「それは違うよ」
彼の言っていることに理解ができなかった。
「枯葉はいつか木から落ちる。そして土に落ちる。それで終わりじゃないんだ。そのまま虫や風に吹かれて、ちぎれて小さくなって、土の栄養になるんだ。そしたら、木が土から栄養をもらう。そしてまた葉をつけて花を咲かせる。それの繰り返しなんだ」
彼は枯葉に視線を向けたままいった。
「だから死ぬことはないんだよ」
振り向く彼は自慢げにいった。その姿が、ドヤ顔が面白くて笑ってしまった。
「やっと笑った」
彼はへにゃっと笑っていった。そうだ、私最近笑っていなかった。辛いとか苦しいとか、ネガティブなことばかり考えてた。
「人間だって諦めなければ、生きる時を伸ばすことくらいできると思う。ていうか、簡単には死なせないから」
彼は根拠のない言葉を並べていった。
なのになぜだろう。
こんなにも根拠のない言葉に励まされている。
私は精一杯生きようと思う。
あの枯葉よりは短い時かもしれないけれど。

2/19/2023, 12:23:05 PM