テーマ:0からの #101
普通ではないが、思っていたよりもずっと気配が人間に近い。ララキが言っていた。彼(真)は人外と人間のハーフだと。
似たような部類だ。ハーフという言葉は僕にとっても無縁ではない。彼と話がよく弾みそうだ。
僕はそう思いながらポカーンとしている真くんを見ていた。
「それでは、わたしは席を外しますね」
そんな空気を読むかのようにミデルはいった。
「うん。ありがとう」
僕がそう言って彼女を見るとグイッと距離を縮め、
「楽しんできてください」
そう囁かれた。僕はミデルに微笑むと頷いた。やはりミデルには心が読めるのかもしれない。
「真くん。そんなに方に力入れなくていいんだよ?」
「は、はい……」
とはいっても、最初はガチガチに緊張している真くんをすぐに慣らせることはできなかった。僕は少し考えてから言った。
「ここには、真くんの身近にはないものが沢山あるだろう?」
僕がそう言うと真くんは、瞬きを何回かしてあたりを見回す。
「そう、ですね」
「なにか食べる?」
「いや、そんな…」
「遠慮はいらないよ」
僕は少し強引に真くんに言った。真くんはなにか言いたげにしたが、それよりも先に真くんのお腹がぐぅ…となって返事をした。
彼は表情は変えなかったが、お腹を抑える。
「今日は披露宴だからねぇ、いろんな屋台を出しているんだ」
僕は屋台に顔を出すと、2つ食べ物を買う。
「あっちで食べよう」
そう言って少し屋台と離れた神社の階段に腰掛けた。
「どうぞ」
「いただきます……。あの、これは…?」
真くんはオズオズと聞く。
「ふふ、人間の世界にはない?」
「えっと…はい」
「これはね、モアムという食べ物。人間の世界で言う『しょうろんぽう』や『しゅうまい』という食べ物に近いらしいが…。どちらも僕は食べたことはないなぁ…。生地がここのやつは薄いらしい」
僕がそう言って一つ箸で挟むとフーと息を吹きかける。白い湯気が揺らめく。
僕はそれを口に入れるとジュワ〜っと中のスープが口の中に広がる。僕はモアムが大好きだ。
「あ、あふ……。お、美味しい」
「よかった! 口にあって」
隣で熱かったのかハフハフしている真くんに言うと、真くんは食べてから僕を見つめた。
「どうかした?」
僕は心配になって言った。
「えっと……。ラックさんは…魔法使い…なんですか?」
「うーん…。近いというか急になったというか…」
僕はう〜んと考えながら言う。
「まぁ、君が思っているような普通の人間ではないなにかというのは正しいよ」
彼も僕が普通の人間ではないことに気が付いていたらしい。彼はきっとララキに何も知らされていない。本当は何も知らない0からのスタートというのは僕にとって苦手とするのだが…今はそんなこと言ってられないな。
「僕はここの国王なんだ」
「…え?」
「びっくりするよね…。王様なのに何やってるんだって」
真くんは目を丸くして僕を見ていた。
「でも、それを許してくれている国なんだ。ここは。というかそういう国に僕がしたかったから変えたんだけど」
「変えた…?」
「うん。上下関係とか差別とか無くしたくてさ。無理言ってこうしてもらっているの」
ここまで来るのにいろんなことがあったけどね。と心で呟く。でもそんな苦労がなかったら僕はミデルと出会えていないし、今の僕もいないだろう。
0から始めるということは意外と大事なのかもしれない。
「自由な国なんですね」
「もちろん、全てうまくいくわけじゃないけどね。国に住むみんなが平等に暮らせるような国にできるようにって」
僕は自分で言っていてなんだか恥ずかしくなってきた。
「この『披露宴』って、何の披露宴なんですか?」
話題を変えた真くんに答える。
「これはうちの小説家の小説が他の国に出されることになったからその『披露宴』」
「小説家の…披露宴?」
「僕たちの国のことをもっとたくさんの国の人に知ってもらえるように。うちの小説家が書いてくれて今日はその本が世に出回る日なんだ」
2/21/2023, 12:43:05 PM