狼星

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1/13/2023, 1:35:50 PM

テーマ:夢を見ていたい #62

夢を見ていたい。
僕の夢は自分の足で歩くこと。
この病院から出て一人で、あるいは家族と、友達と、歩くことだ。
僕の夢はみんなにとっては、普通のことなのかもしれない。だから、僕は心の内でそう思っている。
僕の足は生まれつき動かなかった。
今でもリハビリを続けているけど、ずっと車椅子だ。
いろんなことをして病院の先生たちは、僕を歩けるようにサポートしてくれている。
僕は幸せだな。と思う。
だからこそ、この足で歩けるようになれることが僕の夢だ。
無理なことかもしれない。でも、可能性があるならその可能性を少しでも信じて、つらいリハビリでも頑張れば歩けるようになるって信じて。
そうしたら歩けるようになるかもしれない。

僕は知ってる。
僕の足は、もう動かせないことを。
それでも先生たちは僕をガッカリさせないように応援してくれる。
「がんばれ」
って。
僕はそれを知ったとき、悲しい気持ちになった。でも、心の何処かでやっぱりなって思ったんだ。
僕の足は、動かない。歩けない。走れない。
どんなに頑張っても報われないんだって。
でもここで諦めるのは、嫌だった。知らないふりして頑張って、意地でもこの足で歩いてやるんだって思った。
それで、奇跡を起こすんだって。
みんなをびっくりさせてやるんだって心のなかで自分に誓った。
諦めたら夢は見ていられない。
報われなくたって知らん顔して前を向く。
歯を食いしばって頑張るんだって。自分に誓ったんだって。
だから僕は、今は夢を見ていたい。
いつか現実になる『夢』を…。

1/12/2023, 1:30:00 PM

テーマ:ずっとこのまま #61

「久しぶり、エレン」
私はそういった。返事はない。
「全く、何年ぶりだろうね」
私は変わらず話す。
「エレン。世界は変わったね」
私は腰を下ろした。そして目の前に見える街の灯りを見つめ、目を細める。
「こんなに活気が出るとは、あのときは思っていなかったよ」
私はハハハと笑う。そんな声も街の人々の声にかき消される。
「エレンはどう? 元気なの?」
私は街の明かりから目を離さず言った。もちろん返事は帰ってこない。
私は膝に顔を寄せる。
「エレンが本当にいてくれたらよかったのになぁ」
そう小さく呟く。

エレンは、約3年前死んだ。
私達は2人で冒険していた。冒険者といったところだ。
色んな場所へ行って経験した思い出たちは今でも私の中で生きている。
4年前、エレンの病気が発覚するまでは楽しい冒険だった。
「あのとき私が、魔法を使えていたら。こんな後悔はしなかったのになぁ…」
鼻の奥がツンとして、今までこらえてきた弱音が出てくる。
エレンは正体不明の不治の病によって体を蝕まれていた。エレンの体が自然に朽ちていく。エレンの体は白くなり、死ぬ直前は顔にヒビが入っていた。
それでも最後までエレンは笑顔を絶やさなかった。
死なないで復活するんじゃないかって、そう思っていた。そう、願っていた。
それは叶いはしない願いだった。
「『ずっとこのまま』冒険を続けていたいなぁ」
そんな言葉を星が輝く丘の上で、エレンが言っていたことを不意に思い出した。
私はその時。
「もうすぐ死ぬみたいに言うんじゃないよ」
なんて、ふざけていった気がする。でも、本当にエレンの言ったとおりだ。
私も『ずっとこのまま』冒険を一緒に続けていたかった。今は届かない。私の腰掛けた隣には、エレンの墓石が立っている。ここにいるときはエレンがすぐそばにいる気がした。
この街はエレンと私が冒険者として最後に救った街だった。ボロボロで人も住めるかどうかといった、荒廃した街だったが今では、そんなことも忘れさせるような賑やかさだ。
「この景色、見せたかったなぁ…」
私はそう言うと墓石に頭をつけた。
会いたい。会えない。
こんな思いが続くなんてつらい。でも私は、歩き続けないといけない。
それはエレンのためにも、自分のためにも…。

1/11/2023, 11:02:35 AM

テーマ:寒さが身に染みて #60

寒すぎる…。なんでこんな寒い中走らないといけないの……?
私は体を震わせながら走った。
寒さが身に染みる季節。それは持久走&マラソンの季節……。
なんで寒い中走らなくちゃいけないんだ…。
私はそう思いながらも腕を振る。
「はぁ…」
ため息をつくと白い息が出る。走ることが嫌いなわけじゃない。ただ、この寒い中走るのはどうかと思う。
冬休み明けで鈍っている身体は思うように動いてくれない。
高校生活の中でなくなってほしい行事ランキング一位のマラソン大会が迫ってくると憂鬱になる。
まぁ、去年はやってないんだけどね…。

「ラストー!!」
先生の声がグラウンドに響き渡る。
これも青春といえば青春なのだろうか…。
これが恋しくなる日が来るのだろうか…。
寒さが身にしみて、くしゃみを一つ。

1/10/2023, 12:59:04 PM

テーマ:20歳 #59

※この物語は#58の後編です。

こはくと名乗る女は、その場に正座すると言った。
「私、ずっと夢見てたんです。主人のように優しい人の飼い猫になりたい、と。そうしたら主人が拾ってくれたんです、私のことを。でも、こんなことになるなんて…。恩を仇で返したも同然です…」
しょぼんと下を向くこはく。
「こうなるとは知らなかったんだろ? じゃあ、しょうがないじゃないか。あんまり気を落とすな」
そう言うとこはくは目をキラキラさせた。
「しゅ、しゅじーん!!」
そう言って俺を軽々持ち上げ頬に寄せる。
「わ! 急に抱きつくな!!」
その頬をペシペシと叩く。

でもこんな体じゃ、外に出られないな…と思いながらこはくを見ると、眠そうにコクリコクリと船を漕いでいる。
「こはく、風邪引くぞ」
俺がそう言うと
「あ!」
そういったこはくがぱっと目を覚ます。
「な、なんだ?」
「主人。一個大切なことを忘れていました」
「なんだ…?」
「主人の誕生日です」
「俺の…誕生日…?」
こはくは嬉しそうに頷く。そういえばそうだった。今日は俺の20歳の誕生日だ。すっかり忘れていた。
「えっと…。確かに…」
「私、主人のことなら何でも覚えていますから!」
フフンと嬉しそうに胸を張るこはく。そしてまた、俺を持ち上げ、
「誕生日おめでとうございます。主人」
そう言って微笑んだ。その笑顔があまりにも可愛く
「ありがとう」
そう素直に口に出していた。

朝、目が覚めると俺はいつも通り人間に戻っていた。あれは夢だったのかもしれない。俺はそう思った。というか、夢であってほしかった。あんな美人が化け猫だなんて思えなかったからだ。
それに今、横でゴロゴロ喉を鳴らす黒猫が化け猫だなんて思いたくなかったからかもしれない。


※1日遅れてしまいましたが成人した皆さん。
 成人おめでとうございます。

♡700ありがとうございますm(_ _)m
 これからも狼星をよろしくお願いいたします!

1/9/2023, 1:03:24 PM

テーマ:三日月 #58

ナァーン
「どうした? こはく」
俺は壁を引っ掻こうとしている黒猫、こはくに言った。声をかけるとこはくは俺の方を見て
ナァーン
もう一度鳴く。壁のある方にはカーテンの掛かった出窓がある。カーテンを開けたいのか? 俺はそう思ってカーテンに手をかける。
窓の外には暗い夜が広がっていた。星が綺麗に輝く中、一際目立つのは三日月だった。
ナァーン
こはくが鳴く。出窓には少しスペースがあるためそこに下ろしてやるとこはくは尻尾をピンと立てた。
「こはく?」
俺がそう言うが何も言わない。俺はどうしたものかとこはくの目を見た。カッと開かれた丸い目を見て何も言えなくなった。
急に何も考えられなくなった。

「…きて。起きてよぉ…」
そういう声が聞こえる。俺の体は揺すられた。
「ん…。なんだ?」
俺は目を覚ますと同時に妙な感覚に陥る。
なんか、体がおかしい。それに…俺は一人暮らしなのに…。じゃあ、今のは…?
「よかったぁ…起きてくれた。主人!」
俺は体を伸ばした。その時俺の姿が人間じゃないことを知った。黒く、毛むくじゃらな体。それは……。
「あれ…。俺…。猫…?」
「ごめんね、主人。ワタシ、化け黒猫なの。月が三日月になると人間の姿になっちゃうの…。それで…なぜか主人は猫に……」
「は…?」
俺は信じられなかった。
え…? 嘘だろ?
ってか、ここにいる女は誰だ…?
「えっと…どちら様?」
「え、主人。わからないんですか?」
主人とさっきから言われているが…。いつメイド喫茶に足を踏み入れたのだろう…。
にしてもこの女の服装…。何処か見覚えのあるような…。
「わたしはこはくですよ! こはく!」
「こはくはうちの猫で…」
猫…そう。今の俺にそっくりな…。
「は? ってことは俺が猫になってる間、こはくが人間ってことか?」
「だから! さっきからそう言ってるじゃないですか!!」
「でも、本当にこはくなのか…?」
「この目が私の証です」
そう言ってズイッと寄られる。きれいな顔立ちの女に寄られ少し焦ったが、目ですぐにわかった。
これはこはくだ。って。
「なんだかわからんが…。なっちまったのはしょうがないしどうにか耐えるしかないなぁ…」
「すみません…。私のせいで…」
いや…そんなことない。気を聞いたことを言おうとしたが、口には出てこなかった。こはくが化け猫なんて知らなかったし。
正直に言えば混乱で、頭が回らなくなっていたからだ。
これからどうするか…。

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