狼星

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テーマ:ずっとこのまま #61

「久しぶり、エレン」
私はそういった。返事はない。
「全く、何年ぶりだろうね」
私は変わらず話す。
「エレン。世界は変わったね」
私は腰を下ろした。そして目の前に見える街の灯りを見つめ、目を細める。
「こんなに活気が出るとは、あのときは思っていなかったよ」
私はハハハと笑う。そんな声も街の人々の声にかき消される。
「エレンはどう? 元気なの?」
私は街の明かりから目を離さず言った。もちろん返事は帰ってこない。
私は膝に顔を寄せる。
「エレンが本当にいてくれたらよかったのになぁ」
そう小さく呟く。

エレンは、約3年前死んだ。
私達は2人で冒険していた。冒険者といったところだ。
色んな場所へ行って経験した思い出たちは今でも私の中で生きている。
4年前、エレンの病気が発覚するまでは楽しい冒険だった。
「あのとき私が、魔法を使えていたら。こんな後悔はしなかったのになぁ…」
鼻の奥がツンとして、今までこらえてきた弱音が出てくる。
エレンは正体不明の不治の病によって体を蝕まれていた。エレンの体が自然に朽ちていく。エレンの体は白くなり、死ぬ直前は顔にヒビが入っていた。
それでも最後までエレンは笑顔を絶やさなかった。
死なないで復活するんじゃないかって、そう思っていた。そう、願っていた。
それは叶いはしない願いだった。
「『ずっとこのまま』冒険を続けていたいなぁ」
そんな言葉を星が輝く丘の上で、エレンが言っていたことを不意に思い出した。
私はその時。
「もうすぐ死ぬみたいに言うんじゃないよ」
なんて、ふざけていった気がする。でも、本当にエレンの言ったとおりだ。
私も『ずっとこのまま』冒険を一緒に続けていたかった。今は届かない。私の腰掛けた隣には、エレンの墓石が立っている。ここにいるときはエレンがすぐそばにいる気がした。
この街はエレンと私が冒険者として最後に救った街だった。ボロボロで人も住めるかどうかといった、荒廃した街だったが今では、そんなことも忘れさせるような賑やかさだ。
「この景色、見せたかったなぁ…」
私はそう言うと墓石に頭をつけた。
会いたい。会えない。
こんな思いが続くなんてつらい。でも私は、歩き続けないといけない。
それはエレンのためにも、自分のためにも…。

1/12/2023, 1:30:00 PM