狼星

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テーマ:20歳 #59

※この物語は#58の後編です。

こはくと名乗る女は、その場に正座すると言った。
「私、ずっと夢見てたんです。主人のように優しい人の飼い猫になりたい、と。そうしたら主人が拾ってくれたんです、私のことを。でも、こんなことになるなんて…。恩を仇で返したも同然です…」
しょぼんと下を向くこはく。
「こうなるとは知らなかったんだろ? じゃあ、しょうがないじゃないか。あんまり気を落とすな」
そう言うとこはくは目をキラキラさせた。
「しゅ、しゅじーん!!」
そう言って俺を軽々持ち上げ頬に寄せる。
「わ! 急に抱きつくな!!」
その頬をペシペシと叩く。

でもこんな体じゃ、外に出られないな…と思いながらこはくを見ると、眠そうにコクリコクリと船を漕いでいる。
「こはく、風邪引くぞ」
俺がそう言うと
「あ!」
そういったこはくがぱっと目を覚ます。
「な、なんだ?」
「主人。一個大切なことを忘れていました」
「なんだ…?」
「主人の誕生日です」
「俺の…誕生日…?」
こはくは嬉しそうに頷く。そういえばそうだった。今日は俺の20歳の誕生日だ。すっかり忘れていた。
「えっと…。確かに…」
「私、主人のことなら何でも覚えていますから!」
フフンと嬉しそうに胸を張るこはく。そしてまた、俺を持ち上げ、
「誕生日おめでとうございます。主人」
そう言って微笑んだ。その笑顔があまりにも可愛く
「ありがとう」
そう素直に口に出していた。

朝、目が覚めると俺はいつも通り人間に戻っていた。あれは夢だったのかもしれない。俺はそう思った。というか、夢であってほしかった。あんな美人が化け猫だなんて思えなかったからだ。
それに今、横でゴロゴロ喉を鳴らす黒猫が化け猫だなんて思いたくなかったからかもしれない。


※1日遅れてしまいましたが成人した皆さん。
 成人おめでとうございます。

♡700ありがとうございますm(_ _)m
 これからも狼星をよろしくお願いいたします!

1/10/2023, 12:59:04 PM