狼星

Open App

テーマ:三日月 #58

ナァーン
「どうした? こはく」
俺は壁を引っ掻こうとしている黒猫、こはくに言った。声をかけるとこはくは俺の方を見て
ナァーン
もう一度鳴く。壁のある方にはカーテンの掛かった出窓がある。カーテンを開けたいのか? 俺はそう思ってカーテンに手をかける。
窓の外には暗い夜が広がっていた。星が綺麗に輝く中、一際目立つのは三日月だった。
ナァーン
こはくが鳴く。出窓には少しスペースがあるためそこに下ろしてやるとこはくは尻尾をピンと立てた。
「こはく?」
俺がそう言うが何も言わない。俺はどうしたものかとこはくの目を見た。カッと開かれた丸い目を見て何も言えなくなった。
急に何も考えられなくなった。

「…きて。起きてよぉ…」
そういう声が聞こえる。俺の体は揺すられた。
「ん…。なんだ?」
俺は目を覚ますと同時に妙な感覚に陥る。
なんか、体がおかしい。それに…俺は一人暮らしなのに…。じゃあ、今のは…?
「よかったぁ…起きてくれた。主人!」
俺は体を伸ばした。その時俺の姿が人間じゃないことを知った。黒く、毛むくじゃらな体。それは……。
「あれ…。俺…。猫…?」
「ごめんね、主人。ワタシ、化け黒猫なの。月が三日月になると人間の姿になっちゃうの…。それで…なぜか主人は猫に……」
「は…?」
俺は信じられなかった。
え…? 嘘だろ?
ってか、ここにいる女は誰だ…?
「えっと…どちら様?」
「え、主人。わからないんですか?」
主人とさっきから言われているが…。いつメイド喫茶に足を踏み入れたのだろう…。
にしてもこの女の服装…。何処か見覚えのあるような…。
「わたしはこはくですよ! こはく!」
「こはくはうちの猫で…」
猫…そう。今の俺にそっくりな…。
「は? ってことは俺が猫になってる間、こはくが人間ってことか?」
「だから! さっきからそう言ってるじゃないですか!!」
「でも、本当にこはくなのか…?」
「この目が私の証です」
そう言ってズイッと寄られる。きれいな顔立ちの女に寄られ少し焦ったが、目ですぐにわかった。
これはこはくだ。って。
「なんだかわからんが…。なっちまったのはしょうがないしどうにか耐えるしかないなぁ…」
「すみません…。私のせいで…」
いや…そんなことない。気を聞いたことを言おうとしたが、口には出てこなかった。こはくが化け猫なんて知らなかったし。
正直に言えば混乱で、頭が回らなくなっていたからだ。
これからどうするか…。

1/9/2023, 1:03:24 PM