若い頃は、自分に無いものばかりが目についた気がする。
一番は、可愛い容姿じゃ無い
二番は、明るい性格じゃ無い
三番は、運動神経が無い
四番は、人に話せるような特技や趣味が無い
五番は、、、
と、考えただけで憂鬱になる…挙げればキリがない。
そんなこんなで私の自己肯定感は0に等しく、
それを埋める為に、皆に嫌われないように、
イイ子を演じてきた。
昔も今も、私に対する周りの評価は『優しい人』だ。
しかし、結局偽りの自分を一生続けられるわけも無く。
社会人になって、それから何年も経ってから、
やっと、人は人。自分は自分。
自分の人生は自分で舵取りするもの、と気がついた。
気がついたというか、そう考えないと耐えられなくなった。
周りに迷惑をかけるのは論外だけど、
自分の人生は自分の生きたいようにしていいらしい。
だって皆そうしているから。
私がどんなに親切にしても、
それを利用する人が大半だったから。
人は私に無いものを持っているけど、
私も人に無いものを持っている。
しかも、結構良いものを持っている。
ないものねだりも悪くないけど、
配られたカードで勝負するほうがずっといい。
生かすも殺すも、自分次第。
▼ないものねだり
あれは小学校4年生の時だから、もう10年以上は前の話。
クラス替えして、初めて隣の席になった男の子に恋をした。
初恋だった。
ある日の下校時間、昇降口で、
その男の子の男友達に話しかられた。
「あいつ、あなたのことが、好きだって」
女友達と一緒にいた私はとても恥ずかしくて
「ふーん、あいつがね」
と素っ気ない返事をしただけだった。
翌日、特に私と男の子の関係に変化はなかった。
しばらく経って、席替えの時期になった。
驚くことに再び、男の子と隣の席になれた。
気を利かせた先生が皆の前で、
「もう一回、席替えする?」
と、右手でマイクを握る形を作って、
私と男の子に尋ねてきた。
私はこのままで良かった。このままが良かった。
けれど男の子が「席替えしたい」と言ったから、
すかさず後を追うように「私もしたいです」と言った。
それから私は別の男の子を好きになったりして、卒業した。
好きじゃない。もう、好きじゃないよ。
でも、たまに、彼が夢に出てくる。
私の頭が勝手に彼を成長させた姿で。
夢のなかで、私は自由に振る舞う。
「私ね、昔、あなたのことが好きだったの」
そう言うと、彼はとても嬉しそうに微笑んでくれる。
私達はほんの刹那、結ばれる……
夢から覚めた後に押し寄せるのは、
どうしようもない悲しさ。
好きだった。きっとすごく、好きだった。
願っても願っても、過ぎた時間が戻ることはない。
▼好きじゃないのに
──ぱち、ぴち、ぱちぱち
にわかに、瓦屋根に水の弾ける音が響きだす。
(なんで今…)
ゆっくり瞬きしてから、鋭く睨むように左を向いた。
28m先の円形の的に突き刺さる、3本の矢。
(雨が降ると、的中率が極端に落ちる…)
経験則から学んでいる、自分の悪い癖だ。
ふぅー、と深呼吸をひとつ。
会場は静まり返っている。
聞こえるのは憎らしい水音と、自分の鼓動だけ。
矢をつがえる手が震える。
じめっとした汗が、道着に、下がけに、張りつく。
笑う膝を力でねじ伏せて立ち上がった。
弓を引く、肩を開いて、均等に均等に均等に。
(いつもより、少しだけ右上を狙う)
対峙するのは、ほんの数ミリにしか見えない白と黒。
(いつもより、少しだけ右上を狙う…ここだ!)
いっぱいに引かれた弦から放たれて、矢は真っ直ぐ飛んだ。
雨に打たれ、軌道はわずか下にカーブを描く…
パァン!
的を突き抜く破裂音と共に、辺りは歓声に包まれた。
衝撃で、私はまだ残身から体を動かせないでいる。
瓦屋根に弾ける音が、祝福に思えた。
▼ところにより雨
私にとってあの子は唯一だっけど、
あの子にとって私はその他大勢の中の一人だった
人に心を開くことが下手な私は
頑張って友達を作る度に思い知らされた
いつしか相手の顔色ばかり窺うようになって
周りが求める答えと態度を探すことに必死になって
それが上手に出来なかったときは酷く落ち込んだ
ある時疲れはてて、ついに一切の交流を絶ったことがある
そこまでして気がついたのは、
結局人は、人に依ってしか生きられないということ
今でも人付き合いは苦手
うわべの綺麗な顔しか見せられない
そんな私でも、いつか
誰かにとっての特別な存在になりたい
▼特別な存在
(私の生きてる理由って、なんなんだろう)
そんな思考に支配される時、
決まってこの世には、自分ひとりしか
存在していないような気分になる。
窓の外を眺めれば、
ぎゅうぎゅう詰めに建てられた
住宅達には明かりがともり、
いつも渋滞しているあの道路には
今日も真っ赤なテールランプが並び、
時折、人の声さえ聞こえるのに。
「なに?また考え事?」
甘く優しく耳障りの良い音が、私の耳をくすぐる。
同時に恐ろしい程 強い力で抱きすくめられた。
私を捕らえるこの両腕は、
鉛のように重く、鎖のように固い。
「なにも考える必要ないでしょ、僕がいれば」
私を一人ぼっちの世界におとしたのは、この人だ。
「これからもずっと、ふたりっきりだね」
私はまた、窓の外を眺める。
私以外が存在する世界に救いを求めて。
▼ふたりぼっち